「お一人方死亡ぅ~東藍さん~斬首によるぅ失血死ぃ~
 残り人数もぉ~少なくなってきましたぁ~殺りまくってくださぁい~」

死亡したことを放送で伝える女性、千草郁美が相変わらずの間延びした口調とバイオレンスな言葉がエリア内の隅々にまで響き渡る。
佑作と亮はその放送に耳を傾けるが、しばし硬直状態のホノカと京助にはその言葉が薄っすらと聞こえるだけだった。

硬直状態に終止符を打ったのはホノカが先だった。


「京助先生・・・・・・ですよね?」

京助は壁に与太れながら顔を下にたらし、再び顔を上げた。

「あぁ」 

その一言とでホノカは古瀬京助と判断する。

「なんで先生がここにいるんですか!?」

いつもの弱弱しい声をは違い、少し強い口調で京助に語りかける。

「俺の台詞だ、水白こそなんでこんな危険なところにいるんだ?
 そしてここは一体なんなんだ」

「私にも分かりません・・・・・・・きづいたらここにいて」

京助は深いため息をつき、地べたに倒れた。ホノカは京助の側へと駆け寄る。
原因は一目瞭然であった、足の出血である。

「先生! 今手当てしますっ!」

ホノカは持っていたハンカチで右足の傷口に巻いた。

「なんだか・・・・・・・高校時代を思い出すな・・・・・・・水白」

ハンカチを強く縛り、京助の顔を見る。

「覚えているか? お前が屋上で女子生徒に殺されそうになったときの事」

その言葉を聞き、ホノカの古い記憶が思い出された。



ホノカの通っていた高校はあまり知名度も高くなく、悪い評判もあまり少ない普通の高校であった。
昔から気が弱く、のろまなことから同性にイジメられていた。

トイレの個室で水をかけられたり、上靴を隠されたりとイジメはどんどんとエスカレートしていった。
周囲に信頼できる人もいず、家でもまともに相手にすらしてもらえない。

ある時、トイレの個室で水をかけられたホノカが図書室前で一人の教師とであった。
そう、古瀬京助だった。

いつも、教師にすら相手にされていなかったホノカが初めて相手にされた。
しかしそんな事は気にせず、暗い表情を見せていた。

「君、どうしたんだ? 制服がびしょびしょじゃないか」

「・・・・・・・・・・別に」

短い会話を済ませ、ホノカはそのまま歩いていった。

ある日のこと、人生で最大の事件が起こった。
いつものように学校へくると、女子三人に屋上へと連れられた。
自分が何をされるかはあまり予知はできなかった。

その連れられる一部始終を京助は見逃していなかった。


「あんたさぁー、マジでウザイんだけど
 いつもいつも見てるだけで腹立たしいんだよ!」

その女子生徒はホノカの右足を強く蹴る。

「つっ!!」

「あんたさ、別に悲しむ人なんてこの世にいないしょ? 楽にしてあげるよ」

女子生徒は右ポケットからカッターを取り出す。

「バイバーイ」

叫べなかった、今ここで殺されようとしているのに。
でも、いっそ死んだ方が楽だと思った。

そのときだった。

「ごらぁぁぁぁぁ!!!! なにしてるんだぁぁ!!!!!!」

列車の轟音の如し、古瀬の怒鳴り声がグランドに強く響いた。
グランドにいる生徒、三人の女子生徒、そしてホノカも身動きができなかった。

「お前らこれがどういうことかわかってるのか!?」

「うぜぇー死ね」

そう罵声を浴びせ、三人の女子生徒は校舎へと逃げていった。
ホノカはペタンと地べたに座り込む。

「おいっ! 大丈夫か!?」

ホノカは遅いが顔を古瀬の方へと向ける。

「なんで・・・・・・なんで助けたの?」

「当たり前だろ! 人が目の前で殺されそうになってるのに助けない奴がどこにいる!」

ホノカの表情は少し曇っていた、下へ顔をたらす。
そして小声で言った。

「私なんて・・・・・・生きててもなんも楽しいことなんてない・・・・・・
 親にすら見捨てられて、もう・・・・・・・私の居場所なんて」

「馬鹿野郎!」

古瀬の怒鳴り声にびくっと反射的に体が震えた。

「居場所がない? そんなことはない、君の居場所は君自信で作るんだ
 弱気じゃなにも出来ない、強く、優しい人間になれ!」

心に響いた、初めて自分を叱ってくれる人物がいた。
いつも自分は弱く、太刀打ちさえ出来なかった。
彼の言葉を聞き、自分を強く信じ、自分の居場所を作ると決心した。

「あり・・・・・がとう・・・・・」

小さいが、京助には聞こえた。
そしてにこっと笑い、それにつられホノカも笑った、久しぶりの笑みだった。

「足怪我してるじゃないか、見せてみろ」

京助はホノカの怪我をした右足にハンカチで巻いた。

「水白・・・・・・・ホノカ」

「えっ?」

「私の名前、水白ホノカです」

「そうか、俺は古瀬京助」

二人は立ち上がり、握手する。

「困ったときは俺に相談しな」

ホノカは軽く首下げた。




「あのときは本当に助かりました、ありがとう」

京助はスッと立ち上がる。

「なんか以前より強くなったな、水白」

高校時代のホノカとはまったく変わり、今はあの時のような弱弱しい姿はなかった。
京助は胸を撫で下ろす。

「これから、私たちと行動しませんか? このエリアから脱出するために」

「あぁ、俺もこんな変なところから早く出たいからな」


新しい仲間が増え、さらに心強くなった。