「あいつが・・・・・黒野・・・・・歩霧」

高校時代、怖いもの知らずだった亮が、歩霧に怯えている。
確かに亮の言うように、異常な殺気が感じられる。
歩霧は体を前に倒し、腕をプラプラ揺らしながら喋りだした。

「運命は決まっているんだよ? 君たちはここで死ぬという運命が・・・・」

まるで未来が分かるかのように話す。
佑作たちはここで殺されるということを・・・・。
亮は恐怖を止めるよう自己暗示し、歩霧に言った。

「ざけた事言ってるんじゃねぇ!!
 俺はこいつらと生きて帰るんや!」

亮は強くし言葉を発し、それを見た歩霧はクスッと笑った。

「滑稽ねぇ・・・・・君、ここで生き残れると思ってるの?
 君もどうせ金目当でしょ? そんなんでしょうね・・・・フフ」

「違うっ! 俺は生き残りたいんだ! こいつらと!」

「嘘ねっ! 人間はみんな金に弱いのよっ!
 どんな奴にでも心の奥底には欲望があるんだよっ!!!
 てめぇだってそうだろ!? おいっ!!」

「・・・・・・哀れやな、反吐が出るで」

歩霧は眉を顰める。

「何・・・・・ですって?」

「欲望を丸見えにしているお前がいっそ哀れやな
 金に取り付かれた厚化粧の糞ババァやな」

「黙れ・・・・・・・黙れっ!!」

歩霧は支持武器である鉈を亮に向かい横に一振りした。
その鉈に全神経を集中し、避けた。

「ほぅ、気にくわない事があったらすぐ武力行使かいな・・・・・
 とことん哀れな奴や」

亮は上着のチャックを下まで下ろし、フランキ・スパス12を取り出す。

「欲望に満ちたあんたを、俺は撃つ!」

「殺せるもんなら殺してみなさいよ!!
 私はその鍵が欲しいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

すると佑作が、亮の横に立った。

「佑・・・・・・」

「俺だって何時迄も怖気付いている訳にはいかない
 こんなださいところ、女に見せたくないしな」

佑作は、右のズボンのポケットから拳銃を取り出す。

「ホノカ・・・・・隠れてろ」

初めてホノカの名を佑作は言った。
ホノカは走り、支え柱の後ろに隠れた。
 
「さぁ、いくでぇ! 準備はええか佑!!」

「あぁ!! 万全だぁぁ!!!」

佑作と亮は己の中の恐怖を打ち消し、高く言葉を言った。

Readyyyy!! GO!!!!!

亮の掛け声と共に、二人は左右に別れ走った。

「きゃぁがれぇぇぇ!!!!」

歩霧は鉈を横に軽く振り、佑作に向かい疾走してきた。
鋭く尖った刃は、佑作目掛け突き刺さろうとする。この一撃が貫通したら一貫の終わりであろう。
佑作は方向転換し、真ん中に向かい走り出した。

「逃げてるだけじゃぁ無意味なんだよ!!!!」

歩霧は佑作に視点を向け、鉈を上げ佑作に襲い掛かる。

「(もう少しだ・・・・)」

真ん中の地点ある巨大な支え柱に向かって佑作は走る。
佑作は真ん中に到着し、叫んだ。

「今だ亮!!!」

その叫び声を合図に、亮が歩霧の後ろに現れた。

「終わりや!」

その気配を気付いたときは既に無数の弾丸が発砲されていた。

「ぐっ・・・・・!!」

無数の弾丸は歩霧だけでなく、周りにあった人形にも貫通していた。
佑作は、支え柱の陰に隠れている。

数分後に弾丸が切れてしまった。
佑作は、歩霧が死んだと思った。

「やった・・・・・のか?」

しかし亮の表情は険しかった。
すると、人形の綿が舞う中、何かが動き出した。

「マジ・・・・・かよ」

それは無傷の姿の歩霧の姿だった。
手に持っている鉈が歩霧を無数の弾丸から護ったのだった。

「こいつ・・・・・」

「残念だったな・・・・・。
 言うのを忘れていたが、私は素人に殺されるほど柔な女じゃないのさ」

「(クソッ! なんか他に手はないんか・・・・・!)」

亮は歩霧を睨みながら次の作戦を練りこんでいた。

「今度は私があなたをぐちゃぐちゃに切り刻んで上げるわ・・・・・」

鉈を構え、亮に突進してきた。

「亮っ!」

あと数㎝ほどで、亮の右の肩は切断されていたであろう。
間一髪、鉈をかわしたが、少し右の肩を切られ、鮮血が溢れ出す。

「くっ・・・・・!」

「あらあら、無様な姿ねぇ・・・・・
 さっきの攻撃をかわさなければ楽になれたのに・・・・・クスッ」

「黙れババァ・・・・・てめぇに同情されるほど俺は落魄れてないで」

「さっきからババァババァって・・・・・私はまだ二十歳よ?
 ババァは失礼じゃないのか?」

亮は鼻で笑った。

「てめぇみたいな欲望露出野郎にはババァが十分や!
 それにその厚化粧はないんちゃうか? ババァ」

歩霧は体を小刻みに揺らしている。

「いい加減にしなさい・・・・・ババァと言うな」

「やだね! 何度でも言ってやるわ! ババァババァババァババァ!!」

そして歩霧は鉈を強く握った。

殺してやる・・・・・・絶対に殺してやる・・・・・・
 全員皆殺しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!


鉈を無茶苦茶に振り回し始めた。
堪忍袋がブチ切れ、憤激している。

「やっべぇ~ちょっと言い過ぎたや」

「なにしてるんだよ!」

「大丈夫やって、俺にとっておきの作戦を思いついたんや
 一度しか言わない、よく聞くんや」

亮は佑作の耳元で語りかけた。

「・・・・・少し無茶じゃないか?」

「大丈夫や! 絶対に成功したるっ!」

二人は一斉に動き出した。