「逃げろ!」

その亮の声で佑作とホノカ、そして血に餓えた野獣も走ってきた。
佑作とホノカは黒い扉の中へと入っていった。亮も急いで中に入り、扉を閉める。
ゴンッ! と突進してきた猛獣たちが、扉を破壊しようとする。

「グオオオオオオオオオオオオン!!」

迫力のあるその吠え声。扉の中からでも聞こえてくる。何度も何度も扉に突進する。

「ハァ、なんだよアレ?
 猛獣がいるなんて聞かされてないぞ!?」

「もしかしてこれがスペシャルゲスト・・・・じゃ?」

「でもスペシャルゲストて一週間ごとに投入されるんやないか?」


キーンコーンカーンコーン~キーンコーンカーンコーン~
唐突にチャイムが鳴り響く。

「え~っとぉ、ルールの変更がぁ~ありますぅ~
 一週間ごとにスペシャルゲストを~投入すると言ってましたがぁ~へんこうで~すぅ
 エリア10がぁ~予想以上に早く開かれるのでぇ~、ゲストを全部投入しましたぁ~♪
 みんなぁ~食い殺されないようにぃ~気をつけてねぇ~」

唖然とする佑作たち。
放送の言っているスペシャルゲストと言うのは、さっきの血に餓えた猛獣であろう。
全猛獣を投入されたことで、一層に恐怖が増す。

「あぁ~言い忘れてましたぁ~
 罠も全部設置したのでぇ~気をつけてくださぃねぇ~~」

「おいおい、ホンマかいな!? ゲストを全部投入って・・・・
 しかも罠も」

「慎重に行動しないと・・・・・・ヤバイな」

罠も全てエリア全句に設置され、この大会も難易度を上げてきたようだった。
猛獣・罠・戦闘狂。三つの恐怖。残りの参会者は11人。
大会の参加者に数人は大金を求めず、生きて帰りたいと思っているだろう。佑作にホノカ、亮もその数人に入る。
様々な思いを抱えながら、参加者たちは殺しあう。




細い体で、おどおどとした仕草に弱弱しい姿。
それは森林道で小鳥が集団で飛び去る音に驚き逃げ出した桐生和久であった。
今、彼は通常道を歩いている。

「誰もおぉぉ来ないでぇねええゑゑゑゑ
 神様ぁぁ! 他の奴を殺してボクだけ生かしてくださいいぃぃ~!」

震え上がった声で、神と話している。それは単なる妄想に過ぎない。
和久は手を組んで、上を向いている。すると曲がり角から足音が聞こえてくる。

 
「ヒイィィィ! なにぃ!? なんですかあぁぁぁぁ!!?」

かなり高い高音で叫ぶ。そして身を丸め震え上がる。

「助けて助けて助けて助けてください! お願いしますお願いします!」

なんども助けを求める和久。すると可愛らしい鳴き声が聞こえる。

「ん・・・・? ト・・・・ラ・・・・?」

それはさっきの放送で千草が言った猛獣であった。しかしそれはまだ子供の虎だった。
すると和久はスッと立ち上がった。

「この貧弱動物めぇ!! 俺様を脅かしやがってぇ!!!!!」

さっきの怯えや震え上がりとは裏腹に、正体が子虎を分かってから変貌する。
罵声を発し、子虎を睨みつける。

「どいつもこいつも俺様を馬鹿にすんじゃねぇよ!!!」

和久は子虎の腹を蹴り飛ばす。
キャン! と子虎が痛がり、泣く。それを気にせず、楽しみながら子虎を痛みつける。
何度も蹴ったりして、子虎の体は血だらけになっていた。

「ウハハハハハハ!! いい気味だぁぁ!!」

子虎は必死に逃げようと、前足を一歩出す。
それを見た和久は、右足で踏み潰す。

「逃がさなーい♪ 打っ殺してやるよ!!!」

子虎が必死に鳴く。それは和久にとって負け犬の遠吠えかと思えた。
すると吠え声が響きだした。

「なっ! なんだぁ!?」

曲がり角から、猛スピードで走ってくる無数の音が聞こえた。そして和久は目を疑う。

「え? あ?」

驚きで声すらまともに出なかった。5匹の巨体の虎が、和久を睨みつける。
それはまるで、蛇に睨まれた蛙状態だった。

「たっ! 助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

周囲の虎は慟哭する。我が子を殺された家族は、怒りのオーラに包まれていた。
そして5匹の巨体の虎は、和久に向かい襲ってくる。

「ひぃぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

爪や牙が和久の喉や目玉を突き刺す。皮膚を引き裂き、そこから鮮血が噴出す。
頭蓋骨を破壊し、脳髄を喰らう。食いちぎられる四肢。和久の汚れた大量の血が牙に付く。
桐生和久。彼が5人目の死者であった。





新しい朝が来た 希望の朝だ

スピーカから流れ出すラジオ体操の歌。死者の出た合図である。

「は~い~とうとう5人目の死者がぁ~出ちゃいましたぁ~
 千草はうれしぃですぅ~たっくさ~んの打っ殺された死体を見られてぇ~♪
逝っちゃったのは桐生和久さん~猛獣に食い殺されるぅ~」

「とうとう5人死んだか・・・・・」

暗闇の道、闇黒道を慎重に進んでいる佑作たち。僅かに光る蛍光灯を頼りに、前へと進んでいる。

「はぃ~ではぁ~お約束通りにぃ~エリア10を開けましたよぉ~
 皆さん立ち寄ってみてくださ~い~~」

遠くの方で、鍵の開く大きな音が聞こえた。
謎に包まれたエリア10。そこにはなにがあるのであろうか・・・・・・?