新しい朝が来た 希望の朝だ


スピーカーからラジオ体操の歌が流れた。

「はーい! 早速一名様死にましたー」

それは今、佑作の目の前で死んでいるこの男だろう。

「安堂和哉さん、頸動脈切られて死亡しましたー♪
 まだお若いのに可哀相ですねぇ~♪」

それは明らかに人を嘲笑うような口調だった。
佑作も何れこんな嘲笑れながら放送されるのだろうか?
それは人間として最大の侮辱である。

「では皆さん、頑張ってください~」

放送が終わった。佑作は立ち上がり、再び歩き出す。




「ふぅ・・・・大会開始から僅か7分で一人死ぬとはねぇ~今年の参加者弱すぎじゃないですか~?」

放送していた女、千草郁美(ちぐさいくみ)が問いかける。
それに答えたのは等大会の司会者、剣崎俊憲(けんざきとしのり)が答えた。

「分かってないのぉ~千草
 9と14の参加者を見てみろ」

「ふぇ~? 9は黒野歩霧で14は麻寺暫ですよぉ~?
 この二人がどうかしたんですかぁ~?」

俊憲は少し笑みながら話した。

「この両者は今大会で面白いショーを見せてくれる・・・・
 恐らく2週間で全員殺戮されているだろう・・・・・・」

それはもうこの両者のどちらかが生き残ると分かっているような口調だった。

「ほほーお! つまりこのお二人さんは他の参加者を簡単にぶっ殺すんですねぇ~凄いですよー!」

郁美は満点の笑顔で俊憲に顔を近づけた。

「クックッ・・・・今回は久しぶりに楽しめそうだな・・・・・」



慎重深く行動している佑作がいた。
包丁を構えいつ誰かが現れ、襲われた時の為に包丁を構える。
十字路に差し掛かろうとした時、東方から小さな足音が聞こえた。
手に持つ包丁を強く握った。
こんなに緊張するのは恐らく生まれて初めてだろう。
徐々に近づく小さな足音が佑作のところへと近づいてくる。
佑作は足の震えが止まらない。

スッと長い髪が見えた。
それは佑作の想像していたものとは異なっていた。
ゴツイ顔つきに巨体で巨大な武器を持っている男。これがイメージ。
しかしこの人は男ではない、女である。

「イヤ!! 助けて!」

その長髪の女はかなり怯えていて、攻撃してこなかった。
佑作はソッと近づく。

「あの・・・・大丈夫」

「助けて助けて助けて!!!」

恐らくこの女は、佑作に殺されると思っているのであろう。

「大丈夫だ殺さない
 そんなに怯えないでくれよ」

怯えていた女はその優しい声? で安心したのか、怯えなくなった。

「あの・・・・本当・・・・?」

「俺は人殺しなんてまっぴらだ
 女を手に掛けるのはしょうに合わないからな」

その女は安心し、楽な体制になった。

「なんかすいません、あなたの事人殺し扱いして」

そう思うのも無理はない、この大会の状況を見れば誰しも疑うであろう。

「あんた名前は? 俺は久坂佑作」

「・・・・・・・水白ホノカ」

お互いの名前を名乗りあうと、佑作は問いかけた。

「ここは一体何処なんだ?」

「分からない・・・・私も気付いたらなにもない部屋にいたから・・・・」

今居るこの場所に、恐らくこの大会の何者かが連れてきたのであろう。

「とにかく今は身を潜めて隠れてないと誰かに見つかる」

と言った直前になにかが走ってくる音が聞こえた。
それも爆笑と共に。

「フハハハ! 獲物見つけたぞ!!」

サラリーマン風の男が機関銃を持って、こちらを睨んでいた。

「クソ・・・・・見つかっちまった」

「大金は俺のものだ! 誰にも渡さないぞ!!」

そう言うと男は機関銃を佑作たちに向け発砲した。

「逃げるぞ!」

佑作はホノカの手をとり、全力で逃げた。

「逃げるな! 大人しく死ねぇ!」

無差別に撃っている弾丸は壁や床に音を立てながら徐々に近づいてきている。

「クソ、絶対絶命ってか・・・・・!」

ホノカは怯えながら周りを見渡し、言った。

「左に曲がって!」

「え? あ、わかった」

ホノカの言うとおり、左の方へと曲がった。そこには緑色の扉があった。
二人は急いでその扉の向うへと入っていった。

「ちっ! 逃しちまった・・・・」

サラリーマン風の男、伊藤尋坂は、とぼとぼとまた獲物を探す。


緑色の扉の向うはエリア5、森林道であった。
二人は地べたに座り込み、ゼェゼェとかなり疲れている。

「ハァハァ・・・・・ギリギリセーフだな」 

「つ・・・・疲れた・・・・」

荷物を持ったまま走るのはかなり体力を消耗する。
二人は深く深呼吸をした。

「そういえば有難うな、教えてくれなきゃやられるところだったよ」

「イヤ・・・・さっきここ通ったから・・・・・偶々」

この道、森林道は本物の木や草が生えている。鳥も飛んでいる。
かなり忠実に再現された空間であった。

「あんな奴が沢山いるのか・・・・・
 この先どうなるんだろか」

先見えぬ不安に襲われる。この先もさっきの男のように襲ってくるだろう。
佑作の武器は包丁。ホノカの武器は手榴弾10個。残りの十二人は強力な武器か、弱弱しい武器だ。
あのサラリーマンの男は機関銃だ。あれ以上に強い武器が存在する。
できるだけ人を殺さないようにしないといけない。人を殺すのは経験が無い。
だからと言って、全員死ななければこの大会は終わることは無い。
やはり人を殺すのは躊躇いがある。

「人を殺めたくはない・・・・・だがそれでは・・・・・」

ガチャッと扉が開いた。

「みーつけたあぁぁぁ!」

さっきの男だった。野獣の目の如くその鋭い目つきが佑作たちを睨みつける。

「クソっ!」

佑作は包丁を持ち、構えた。
相手より先に動けばなんとかなる。しかし失敗すれば、後に待つのは死。
ホノカは尋坂男の鋭い目つきに、身動きできなかった。

先に動いたのは佑作であった。包丁を尋坂に向け、素早く突進する。
尋坂も機関銃を連射する。それをかわしつつ、男に徐々に近づいてくる。
あと数センチ、その時だった。

「うっ!」

弾丸が左肩に命中し、そのまま倒れこむ佑作。

「中った中った!」

尋坂は気味の悪い笑みを浮かべ、銃口を勇作の頭部に向ける。

「久坂さん!!」

怖い、怖いと思った佑作。この至近距離で撃たれたら確実に死ぬだろう。
死にたくはない、誰しも思う心境。
尋坂はゆっくりとトリガーを引く・・・・。その瞬間であった。

「あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」

どこからとも無く飛んできた銃弾が、尋坂の左手中指を吹き飛ばした。

「なんやなー、大の男が女の子泣かせるつーのは」

長身でオールバックの男がフランキ・スパス12を構えている。
それを見た佑作は驚いた。

「亮!」

その男に身覚えがあった。中高学校時代の同級生、麻生亮であった。