「不況だからモノが売れないのか?」 | 『リサーチングマーケター™』が綴る、定性マーケティング徒然草

『リサーチングマーケター™』が綴る、定性マーケティング徒然草

メーカー、IT企業、マーケティングリサーチ等の業界で、商品・事業企画、マーケティング戦略立案、定性調査・行動観察を行ってきた『リサーチングマーケター™』スタイリー・イノウエがマーケティングとリサーチへの想い、ノウハウを徒然なるままに綴ります。

この話、繰り返しになりますが、思いの強いところなので、もう少し突っ込んでしておきたいと思います。

たとえば、かつて自動車産業とならんで日本経済の牽引車だった電機産業の不振・・・。


ソニーも、シャープも、パナソニックも、かつてはそれぞれに特長をもって光り輝いていたメーカーでした。それが、今や、アップルや韓国勢におされ、青息吐息の状態です。

アップルや韓国勢の勢いの原動力になっている商品群は、シーズ的には、本来、日本勢が開発していてもおかしくなかったものです。しかし、それが出来なかったのは、「選択と集中」の美名の下、まだ見えない市場にチャレンジすることを怠ったためだと私は思います。

選択と集中とはGEのジャック・ウェルチが唱え、実行した理論です。1位と2位以外の事業からは撤退し、経営資源を1位と2位の事業に集中するというものです。それ自体は非常に合理的な考え方です。

しかし、これを正しく実行するのは、高度成長期には容易でも、成熟期には難しいと思います。それは、プロダクトライフサイクルを考慮に入れ、選択をする対象の中に「将来の事業」を含まなければ、停滞状態から脱し、成長することができないからです。つまり、既に市場ができているためにその順位や規模が明らかになっているものの他に、将来的に1位となれる可能性をもった事業を見極めなければならないということです。

そうでないと、成長の可能性を持っているけれどもまだ売り上げ規模が小さいものや、揺籃期にあって、わずかなファクターで順位やシェアが大きく変動する市場の商品などを成長前に切り捨ててしまうことになります。最近、
NHKで放映された[メイドインジャパン]という番組は、まさにそのような例をドラマ化したものでした。

もっと言いますと、まだ、世にそのようなコンセプトすら明らかになっていない「将来のスター」商品を、正しく見極めて、育てる必要があるはずです。

しかし現実は、そのドラマのように、「選択と集中」や「成果主義」という言葉に踊らされたのか、曲解したのか、はたまた社内政治に都合よく利用したのか、目に見える事業への集中と目に見えない「将来事業」の切り捨てを行ってきたのではなかったでしょうか?

たとえば、スパコン事業や宇宙事業を切り捨てようとした民主党政権の事業仕分けというのは、その象徴的なものではなかったでしょうか?

ともあれ、日本のマーケティングが新市場創造の可能性を見極める努力、力が足らなかった事は否めません。だからこそ、結果として新市場が創造できなかったのです。一方、新市場を創造した海外の電機メーカーは好調です。

つまり、この長年続く不況の責任の一端は、日本企業の「マーケティング」にあるということです。そして、その将来の方向性を指し示す役割を担う「マーケティングリサーチ」もA級戦犯であることは間違いありません。

もちろん幾多の例外もあることは事実ですし、自分としてもその中で奮闘してきたつもりではありますが、結果として多くの日本企業は浮揚しきれていない状態です。

不況の原因というのは、経済不安であるとか、消費意欲の低迷であるとか、様々なことが言われますが、人間の欲求というのはそれら全てを超越します。だからこそ、不況の後には好況が来るわけです。そして、その欲求を刺激するのは、新たな商品であり、サービスであるわけです。

つまり、不況だからモノが売れないのではなくて、欲しいモノやサービスがあまりないから不況が続くと考えるべきではないかと思うのです。

少なくとも、マーケティングにかかわる者はそう見るべきではないでしょうか。一般に不況と感じられる状態が20年も続いている日本では、その人間の欲求に応える努力が不足しているということです。

だからこそ、今までのマーケティングの在り方を見直す必要があると考えます。



それが「リサーチングマーケター™」という新たなスキルカテゴリーを提唱する理由でもあります。