~思いもよらないデビュー戦(後編)~

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 蓮とキョーコの想いも掛けない申し出に、社は一瞬目を見開いたが・・・
 万葉と蓮とキョーコをそれぞれ見比べる
 (オムツは変えたばかり、ミルクは今から・・・今起きたとは言え軽く見積もっても3時間はそんなに機嫌も悪くならない・・はず!!)
 素早くそう纏め上げ、キョーコに万葉を渡すとテキパキとミルクの準備をしてから渡す
 「キョーコちゃん、じゃぁミルク飲ませてみる?そうそう・・・そうやって持って・・・うん、そうそうそうやってなるべく動かさずにね」
 「蓮~このヌイグルミ使って、オムツの練習してみてくれるか?」
 「え?あ・・・はい」
 「こうやって寝かせて・・・そうそう、で女の子だからちゃんと丁寧に拭いてあげろよ?じゃなきゃすぐ炎症起こすからな。そうそう、そうしてこうやってこう止める」
 「・・・・・・これ最上さんの方が適役なんじゃ・・・」
 「何5ケ月児にまでフェミニスト根性出してんだ?自分で何も出来ない時に性別なんぞ関係ない!!ちゃんと世話してやるのが大切なんだぞ?」
 「・・・・・・・・・・・はぁ・・・・」
 ミルクを飲ませつつ、蓮と社の様子を見ていたキョーコにも声をかけもう一度紙おむつの実践をする
 「・・・と、まぁ大体こんな感じだな。でも本当に大丈夫か?」
 「往復移動時間を含めても3時間程でしょう?なら・・・大丈夫ですよ」
 「外にお散歩は無理ですが、お家の中で頑張ってみます」
 蓮とキョーコにそう言われた社が『なら、すぐ戻るから・・・本当ごめんな!!』と言い残してバタバタと部屋を出て行った
 それを見送って、キョーコが万葉の背中をポンポンと叩きゲップを出させてから下に降ろす
 「さぁ・・・万葉ちゃん!倖一叔父ちゃんが居ない間、私と敦賀さんと遊びましょうね?」
 「宜しくね万葉ちゃん・・・と言っても、何したら良いんだろうね?」
 蓮がそう言って困惑気味に周囲を見渡す。そして何気なく手元にあったヌイグルミを手に取りそれを万葉の前にそっと差し出した・・のだが
 「・・・・ふぇ・・・ふえぇぇぇぇぇぇ!!!」
 「え?えぇ!?うわ・・・ど、どうしようか?」
 「取り敢えず敦賀さん、ヌイグルミをいきなり至近距離はダメです!!離してくださいっ!!」
 キョーコにそう言われて、蓮が慌ててヌイグルミを遠くに放り投げた
 それと同じタイミングでキョーコが万葉を抱き上げ、ポンポンと背中を叩いてあやし始める
 「よしよし、怖かったのね~もう大丈夫ですよ~?」
 敦賀さんもワザとじゃないから許してあげてね?と優しく微笑むキョーコに、万葉も次第に落ち着くが・・・


 「・・・・・・何か・・・・臭いません・・・か・・・?」
 「う、うん・・・・・臭う・・・・ね?」
 2人が恐る恐る万葉を見てみれば・・・そこには真っ赤な顔で力む姿があり・・・
 蓮とキョーコはガックリと項垂れるのだった・・・
 やり遂げた感満載な万葉がオムツの気持ち悪さに愚図りだし、2人で慌ててオムツを取り換えるべく準備をしたのだが・・・


 「うわぁっ!?寝返りっ!?」
 「敦賀さんっ!!お尻まだ拭いてませんっ!!」
 「そんな事言っても!!っっ!!最上さんっ捕まえてっ!!」
 「え?っきゃぁぁぁ!!!万葉ちゃんお願いっ!!まだお座りしないでぇぇぇぇっ!!」
 「うわぁぁぁぁぁっっ!!引っ繰り返る!!」
 母親組から見れば、爆笑もののやり取りだが本人達は必死である
 だが、悲しいかな何せ何の知識も経験もないペーペー2人・・・事態は悪化するだけだった


 結果・・・社のリビングは見事に万葉の排泄物が引っ付きまわり、それを必死で掃除する2人と未だオムツを付けられていない万葉と言う状態で・・・


 「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!敦賀さんっ!!ソコ踏んじゃダメですっ!!」
 「最上さんっ!!万葉ちゃん抑えてっ!!あぁっ!!」
 蓮とキョーコの慌てっぷりが楽しいのか、万葉はキャッキャとはしゃいでいるが蓮とキョーコはもう必死、誰が何と言おうと必死である


 バタバタバタ・・・近々社に退去命令が出るんじゃなかろうか?と言わんばかりのドタバタ劇が現在進行形で行われていたその時だった・・



 「っただいまぁ~!!倖一~ちゃんと万葉の面倒見てくれた?って・・・何この騒ぎ?って・・・ええぇっ!?」
 「「 えっ!?・・・・・あ・・・・・ 」」
 社の姉が唖然として固まる中・・・蓮とキョーコも同じくオムツと雑巾を持って固まるのだった・・・




 いち早く我に返った万葉の母・・・旧姓:社千鶴がテキパキと万葉のオムツを取り換え周辺の掃除をするのを、蓮とキョーコは手持無沙汰のまま見ていた
 「ふぅ~よし、これで綺麗になったわ!」
 ごめんなさいね?迷惑かけちゃってと微笑む姿はどこか社に似ていて
 「あ・・・いえ、そのこちらこそすいません・・・」
 「社さんに豪語したにも関わらず、お手数をおかけしてしまい・・・」
 「仕方ないわよ~赤ん坊の世話なんて、産むか身近に産んだ人がいて叩き込まれないと出来なくて当然だもの」
 天下の敦賀蓮と、今話題の京子ちゃんに世話してもらえたってだけでもこの子は幸せ者よ~
 そう言ってカラカラ笑って万葉を抱き上げる千鶴に、蓮とキョーコも苦笑をするしかない
 「倖一から貴方のマネージャーをしてるとは聞いてたけど、あの子ったら絶対仕事の事話さないんだもの。何だか得した気分だわ~」
 どうせだから2人のサインも貰っちゃおうかしら?と千鶴が言うや否や・・・蓮とキョーコは顔を見合わせ、そして
 「敦賀さん・・・確か今日、お土産にハンカチいただいてましたよね?」
 「だね、じゃぁ俺が半分書くから下半分は君が書いてね?」
 「え・・・?私のサインなんて要らないですよ。全面敦賀さんで」
 「だって千鶴さんは俺と君2人のって言ったんだよ?と言う訳で・・・はい、最上さんはコッチ」
 サラサラとハンカチにサインを書き込んだ蓮が、有無を言わさぬ笑顔でキョーコにハンカチとサインペンを渡す
 渋々・・・それを受け取ったキョーコだが、蓮に指導されながらサラサラとサインを書いていく
 最後に蓮がもう一度ハンカチを受け取り、『千鶴さん・万葉ちゃんへ 蓮&京子より』と書き、それを千鶴に渡す
 「え?えぇ!?嘘っ!良いのっ!?」
 「はい・・・宜しければ」
 「きゃぁぁぁ!!嬉しいわ~~~!!!倖一に頼んでもいつも却下されたんだもの~~うふふふwww」
 ほら~万葉、凄いわよ~こんなの貰っちゃったわよ~wwwと、嬉しそうに話しかける千鶴に万葉もご機嫌で笑っている それを酷く羨ましそうにキョーコが見ており・・・


 「あれが・・・普通の母娘の関係なんですよね・・・・」
 ポツリと羨ましそうに小さな声で呟いたのを蓮は聞き逃さなかった
 何か言うのは変な気がして・・・蓮はそっとキョーコの頭をそっと撫でたのだった




 それから30分ほどして、社が物凄い勢いで帰宅し
 千鶴の姿を見て驚愕しついでに、蓮とキョーコに姉弟でまた『折角のオフを・・・ごめんな(ね)!!』と平謝りし、更に社から蓮とキョーコから万葉へのプレゼント(アルマンディ)を受け取る受け取れないなど、ちょっとしたバタバタはあったもののそれなりに楽しい時間を過ごすことが出来た
 主人が待ってるからと言って帰宅した千鶴と万葉を見送って、キョーコが夕飯の準備をし3人で食卓を囲む
 「赤ちゃんのお世話って・・・大変ですね」
 「そうだね・・・社さんすいません、部屋中汚してしまって・・・」
 「気にしない気にしない!俺も最初はそうだったしね~あの姉さんの容赦ない指導で、義兄さんも俺も世話が出来るだけだから」
 しみじみと遠い目をしてそう言う2人に、社は苦笑しつつも慰める
 「でも・・・可愛かったなぁ・・・万葉ちゃん」
 また是非遊んでほしいです。そう言うキョーコに蓮も『そうだね』と微笑む
 「万葉で良ければ何時でも時間作るさ!姉さんは蓮とキョーコちゃんの大ファンだからね」
 全ての用事を振り切ってコッチに来るさ、と言う社に蓮とキョーコも笑う


 「じゃぁ次会える時までに、お勉強しなくちゃいけませんね?」
 「そうだね・・・今度一緒に、育児DVDでも見てみようか?」
 事務所にその手の人形とかも置いてるから、借りてきて一緒に練習しようか?蓮のその言葉にキョーコも「そうですね!」などと返事をしている
 そんなやり取りを聞きつつ、食事をしながら社は思う



 付き合ってない癖に、既に家族計画実行中のようなこの矛盾だらけの恋愛音痴+恋愛拒否症の可愛い弟妹(のような存在)
 「思いっきり順不同な関係だよなぁ・・・」
 それでも2人が年相応の顔を見せてくれるから、自分だけには素直に頼ってくれるから
 「お兄ちゃんも頑張りますか・・・」



 何時かは本当の育児デビューで俺に甘えてくれよな?



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朱烙さんvV
本当に素敵なお話ありがとうございました!!