…こんなの、外国人からしたら、ちょっと感激した時の挨拶程度だよな……?そうだよな?……えーと、もしもし?それを羨む天使長様?

そんな二人を見守る天使長は-


 口元の笑みで出来た皺をより深くし、目元は-


爛々とギラつかせちゃってますからあぁーーー!!

 おいーーーっ!!蓮!!いくらリハだからって、メインが二人のシーンだからって、その表情はいくらなんでもまずいだろーー!?

 お前は謀反を企む堕天使か!?怖いから!!今すぐ止めてくれぇ!!

「カーット!!」

澤村監督の声が響き渡る。

「素晴らしい演技だった。香苑さん。京子さんも。特に見つめ合った後のアドリブは自然だった。今のシーン、そのまま使わせて頂く」

そのままって…?蓮のカットは?

「敦賀さん。今のカット、もう一度撮らせて頂く。理由は分かるね?」

澤村監督は、認める事は素直に認め、否定する時は頑固なまでに否定する。ハッキリした態度の監督らしい口調で淡々と告げた。

「…はい。わかっています」

「その前に映像の確認がてら休憩にする。その間に天使長として自然な演技を取り戻して下さい」

「……はい。もちろんです。」

「おい……蓮、お前、大丈夫か…?」

「社さん、すみませんが、一人にして下さい」

「ああ……わかった。」

俺はその場に残る事にした。すると…

「社さん!敦賀さん、どうしたんでしょう…?NGを出されるなんて…まさか体調でもお悪いんじゃ…」

キョーコちゃんが心配そうに話し掛けてきた。これは……

「そうなんだ。実は蓮のヤツ、調子が悪いみたいなんだよ。悪いけど様子を見に行ってやってくれないか?」

「やっぱり…!!わかりました!行ってきます!!」

やれやれ……君自身も原因のひとつなんだから、頼むよ……キョーコちゃん……




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アイツが

 -『カオン』なんて気に障る名前の-彼女の耳元に囁きかけた……俺にだけ聞こえるか聞こえないかの言葉。


『I love you.』


 確かにそう、言っていた。

あの顔と名前で、何も出来ない俺の目の前で!!!