武者にしては色白細 | 放荡のブログ

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武者にしては色白細身のこの優男が、そびえ立たせる一ノ谷兜からして、天下に名高い竹中半兵衛だと気づいた真田隊の足軽たちは、随一の首級を手にしようとして鼻息を荒くして襲いかかってきた。
 半兵衛は目を閉じて呟いた。
「南無八幡大菩薩。いくさに身を投じてきたこの命を捧げるゆえ、願わくば我が隊に勝利のご加護を」
 そうして、切れ長の瞼を押し広げ、太刀を抜いたそのときであった。突然、青黒い閃光が半兵衛の眼前に走り、それは襲いかかってきていた武田足軽を一瞬にして蹴散らした。http://www.watchsremarkable.com
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 八幡神に通じたか。
「我こそは簗田右近大夫広正っ! 武田の者どもっ、存分にかかって参れえっ!」
「太郎っ」
 半兵衛は柄にもなく感動して、叫んでしまった。日差しを浴びて燃えたぎる黒漆の甲冑と、黒光りする馬体は、すべての兵卒を飲み込まんばかりに巨大に映った。黒連雀の四肢が武田足軽を払いのけていき、馬上の太郎が槍を振り抜けば、敵方が次々に倒れていく。人馬一体となって余すところなく蹴散らしていくさまに、半兵衛は少年時代の太郎の姿と重ね合わせ、涙ぐんだ。
 簗田隊は大将に続いて次々に乱戦へと突入してき、
「三方ヶ原の借り、突き返しに参ったわあっ!」
 玄番允が太い眉をいからせながら猛然と槍を振るい、新七郎もこれに続いて武田足軽を押し返していく。さらに沓掛鉄砲衆の銃口が火を噴いた。金ヶ崎、姉川の激戦で活躍してきた彼らは、織田軍のどの鉄砲隊よりも熟練されていた。一人一人が放つ銃弾は、狙った相手を的確に一撃で仕留め、騎馬足軽の援護に大きく貢献した。
 真田隊の攻撃は簗田隊に堰き止められ、勢いも柵前に引き戻された。さらに、土屋隊が滝川隊へと突撃を開始したため、丹羽五郎左が再左翼の応援に回ってきた。
 半兵衛は柵門を開けるよう命じ、ここから簗田隊が一挙に飛び出していった。
 よもやの反抗と、織田兵卒とは思えない簗田隊の強靭さに、一度はたじろいだ真田隊だが、
「怯むなっ! ここを突破すれば、我ら真田が一番手柄ぞっ!」
 左衛門尉信綱の激に息を取り戻し、簗田隊を押し戻した。
 すると、部隊の体勢を整えた丹羽五郎左が半兵衛に一度目配せし、半兵衛がこれにうなずくと、五郎左は、
「引けえっ!」
 退き太鼓を鳴らさせた。これを聞いて簗田隊は一斉に柵の中へと引き返し、丹羽隊鉄砲衆が真田隊に銃弾を浴びせた。
 それでもなお、真田隊は馬防柵に突っ込んできた。ところが、真田隊の側面から、怒号を放ちながら押し寄せてくる羽柴隊があった。急襲された真田隊は攻防から身を退かせ、連吾川の向こうへと敗走していった。
「真田、どうだぎゃあっ! 見たかあっ! おりゃあが織田の出世頭、羽柴筑前守秀吉だぎゃあっ!」
 柵の向こうで、軍配を振り回しながら騒ぎ立てている藤吉郎を遠目にして、半兵衛も小一郎もため息をついた。
その生涯に光を放て(6)

 全軍総突撃の号令がかけられると、真田兄弟とともに丸山の馬場美濃の元を訪れ、右翼攻撃の手段を求めた。
「平八郎」
 齢三十一の土屋右兵衛尉昌次は、彼もまた、他の譜代家臣と同じように、徳栄軒や老臣たちからは幼名のままで呼ばれていた。
「わしはここに残り、もしものときは若殿のしんがりと転ずる。お主は真田隊に続いて、滝川伊予守の部隊を叩き、ここを突破して、茶臼山を一挙に襲撃せよ」
 口数の少ない土屋は、眼差しを屹と据えて、うなずいた。
 もっとも、この突撃は玉砕の様相を呈している。馬場美濃の悲しげな微笑からも、真田兄弟が握りしめた拳からも、それは感じられた。
 有り得ないことだった。百戦錬磨の武田軍が、敗北を悟りながらも、勝利を夢想して特攻するなど、絶対