メリー・クリスマス | ひより軒・恋愛茶漬け

メリー・クリスマス

  

    数寄屋橋交差点

捨てられた、ことも

捨てられてイル、ことも

全然

痛くなかった。


みいい、

みいい、と。


長いこと

強情をはって

使わなかった声帯を

震わせて鳴いたのは


淋しいとか

悲しいとかじゃなくて


ただ

寒くて

お腹が空いていたから。


あなたが

子どもの頃

線路脇で拾ったという猫、になる。


ジングルベルを繰り返す

デンショクで照らされた街の中で。


声をかけられ

暖かい部屋に誘われ

突然聞かされた

思い出の話の中で。


名前しか知らない人の

少年時代の出来事は

遠い外国の話と同じ距離感で

今の私をなごませる。


じいい、

じいい、と。


少年は

ジャンパーのファスナーをおろして

子猫を

まだ薄い胸に抱きかかえたのだろう。


彼の吐く息の白さが

冷え切った頬の紅さが

伏目で作るその微笑が


私の心の深いところで

粗い粒子の映像となって

とぎれがちに

それでいて何度も

浮かび上がる。


だから、だよ。

このまま

あなたに拾われたいと思ったのは。


今夜は初雪の天気予報。


大きな

クリスマス・ツリーの下で

立ち止まる。


優しさを確かめるように

下から覗き込むあなたの瞳の中に

映っているのは制服姿の幼い私。


メリー・クリスマス。


あなたは自分のコートの

ボタンを外して

大人の人の厚い胸に

私をやわらかく包み込む。


みいい。

みいい。


ただ

寒くて

お腹が空いていて。


淋しいとか

悲しいとかじゃなくて。





寒がりなので、寒い毎日はツライです。

でもバイトには自転車で行っています。

自転車だとちゃんと汗ばんだりするくらい

カラダは暖まるんですよね。


東京の街の中を

風を切って走っていると

あちこちでクリスマス・ツリーが

キラキラと光っています。


ツリーの飾りの中では

金色や銀色のボールの中に映っている

世界を眺めるのが好き、かな。


I wish you a Merry Christmas!