別れ | ひより軒・恋愛茶漬け

別れ

「別れ」


日に焼けた

カーテンの向こうで

しらじらと

夜が明ける。


旅じたくをする

あなたの背中越しに見えるのは

見慣れた私の部屋の

正方形の窓。


まだ

秋風も吹かない晩夏の

熱っぽい夜明けの空気の中で


なぜ今日なのか

理解できずに


かろうじて

出口をふさぐ位置に

ぺたんと腰をおろして

私はあなたを眺めている。


― 僕が先に行くんだ。わかるね。


どうして、とは聞けなかった。


いつも何を聞いても

悲しそうな顔で

いつか分かるよ、と

言われるだけだから。


あなたは忙しそうに

荷物をつめている。

一度も私の方を見ようとしないで。


あの背中にしがみついたら

ここに

とどまってくれるのだろうか。


子供のように声を上げて泣きながら

ふりほどかれても

ふりほどかれても

しがみついたら


そんなふうにあふれる涙で

思い切りその上着を汚してしまえば

あなたは

旅立つのをやめるのだろうか。


思いは駆け巡るけれども

いくじの無い私の体は

ただおびえるばかりで

少しも力が入らない。


泣くことも

理解することも出来ず

もちろん覚悟など

どこにもなく


せめて

あなたが最後に

あのあたたかい

私の大好きな笑顔を

作らないことだけを

ぼんやりと

心のすみで祈っている。


さようなら、と

告げられる時に。