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確かあれは高校時代,駅の近くのデパートで幼稚園児の絵の展示会があった.そこでは幼稚園児の夢という題目で,こうなったら良いなというアイデアを絵に書くというものだ.親の喜びそうなことを絵に書く子供もいれば,自由奔放のアイデアを絵にした子供もいた.私の友人でプロのデザイナーの G 君は,「幼稚園児の絵はあまりに強烈で時に負けていると思うので見るのが怖い」と私に話しをしてくれたことがある.曰く,「三次元的にこうだということはまったく考えず,見たものを,見たこととは関係なく感じたまま絵にしてしまう迫力に圧倒される」そうである.子供は口が大きいと思うと,顔よりも大きな口を書いてまったく疑問に思わない,その自由さに畏怖すら感じるというのである.
私の印象に残っているものの一つは,その絵の中の一つ,「引っ張ると伸びるテレビ」である.引っぱると伸び,押すと小さくなるテレビの絵がそこにあった.家族皆でテレビを引っぱっているのである.
以来,十数年,電化製品で巨大なスクリーンのテレビが出る度に,なんだ,まだ引っぱって伸びるテレビはできないのかと残念に思っていた.引っ張って伸びるキーボードやノートパソコン,iPot が欲しい.
先日亡くなった友人とは,このテレビの話を数年前に調布のとんかつ屋でしたことを思い出した.その時にはいろんな話をしたはずだが,「コンピュータグラフィックスに苦手なことは汚れている風景だ.町は塵一つなく,石畳には壊れているものもなく,どの建物の窓も綺麗で,車は皆新品だ.」駅まで一緒に歩いた時に,新装開店したばかりのデパートの壁を見て,彼が「確かに,実世界は汚れで満ちている.ポスターには折り目がある.」と言ったことを思い出す.彼はまったく聞き上手であった.
伸びるテレビも現実になる日が来るかもしれない.今日,折り畳み式のモニターの研究について聞き及んだ.友よ,世界が変わる様について一緒に語れなくなったのは淋しい.そして今迄何故気がつかなかったのだろう,僕らは貴重な時を一緒に過ごしていたことを.
Foldable Displays http://jp.youtube.com/watch?v=nhSR_6-Y5Kg
UIST 2008 (http://www.acm.org/uist/uist2008/
)