彼と会っていつものように話していた。
でも、あたしの中で決めていた。
もう限界だった。
彼のキスを受け入れることすら出来なかった。
別に避けようとした訳じゃなかった。
なのにあたしは彼から顔を背けていた。
いきなりのあたしの態度に彼はびっくりしていた。
「避けられるなんて思ってなかった」
そう言う彼に、あたしは笑顔を返す。
何度か試みる彼に、あたしはどうしても答えることが出来なかった。
無意味な笑顔を振りまくあたしは、彼の目にどう映っていたのか?
何も言わず、何もなく別れた。
いつもと変わらずに。
そしてすぐ彼に電話した。
誕生日に会ってくれる約束をまず断った。
「用事があるなら仕方がないよ。別の日にしたらいい?」
「ううん、いい。用事があるわけじゃないから・・・。もう、会わない。今日で終わり」
驚く彼だけど、薄々気付いていたはずだ。
「やっぱり子供かわいいんでしょう?」
「うーん、まぁそうやけど、全く別やしなぁ」
「でもわかるよ。早く帰りたそうなのが伝わる」
「あははは、そう?本人は全くそんな気ないけど」
「わかるよ、メールの感じとかでも」
「そうかなぁ?」
「うん。あたしの誕生日まではって思ってたんだ。でもね、もう無理みたい」
「そっか。ごめんね、傷つけて」
「ううん、全然。大丈夫だよ」
大丈夫と答えて、本当に大丈夫な人などいるのだろうか・・・?
なんて意味の無い言葉なんだろう。
あたしの言葉に彼は引き止めたりしない。
「幸せになってほしいから。いつまでも引き止めておく訳にはいかないから」
あたしが別れ話をすると彼が言う言葉。
その考えが変わることはない。
もう、引き止めて欲しいとも思っていない。
そしてあたしは彼に話した。
決して開けてはならないパンドラの箱を開けた。
このことはあたし達ふたりの決定的な別れになる。
もう戻ることなどできない。
それは充分すぎるほどわかっていた。
そこまでしてしまわないと、別れられないことを感じていたからかもしれない。
いつかは言わなきゃいけないことだった。
でも言えなかった。
言わないで別れようと思ってた。
でもどうしてもできなかった。
もうこうするしかなかった。
決定的な別れを作ることしか、あたしは彼と別れられなかった。
大丈夫。
彼のことなんてすぐに忘れる。
すこし我慢すればいいだけ。
すこしだけ・・・すこしだけ・・・。
不思議とあたしは泣いていなかった。
もう今まで何回も何回も別れ話をしてきた。
いつも泣きじゃくっていた。
それなのに少しも泣かなかった。
もう涙も出なかった。