夏は私を破壊して逃げていく | 壊れた錠前

壊れた錠前

添加物の一般的過ぎる普通の日記・・・・・・・だといいな。

たぶんオリジナルの小説 ↓



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蝉が自分の存在を主張しまくっている。

太陽が無駄に張り切っている。

選挙カーが蝉と太陽の役割をしている。

私、  楠  幸くすのき  ゆきの精神をこいつらは崩壊しようとしているとしか思えない。

もともと崩壊しているけど。



夏休みになったから、クーラーつけて

氷がいっぱい入ったコップにジュースを注いで

テレビを見ながら携帯をいじる予定だったのに、

私はなぜか――――

外にいる。



暑い。

そして、熱い。

玄関の前に座ってみたら、思っていた以上に地面が熱い。

でも、部活帰りで体力がない私は立ちたくない。

「なんで家に誰もいないのよ……。」

鍵を持っていかない事を家族に伝えたのに

スルーするなんて信じられない。



水筒の中のお茶もあと少しだし、家族がどこに行ったのかもわからない。

弟の自転車がないから、あいつは友達の家だろう。

マジで死ねばいいのに。

はぁ……。

暇つぶしにカバンの中をあさってみる。

水筒、ハンドタオル、制汗スプレー、筆箱、シャツ、携帯。

特に使えそうなものがな……。

あるね。使えまくるよね。

携帯で弟に電話したらいいじゃん。



…………。

呼び出し音しか聞こえてこない電話。

仕方がないのでとりあえず切る。

サイレントマナーモードにしてるよあいつ。

とことん駄目な弟だことで

「がっかりだよ」

言ってみたけど、弟が帰ってくるわけがない。



両親にも電話してみたけどダメだった。

このまま私は孤独死か、乾燥して死ぬ乾燥死してしまうだろう。

彼氏いない暦と年齢が同じ私が孤独死は絶対にいやだ。

まだ、好きな人に告白をしてないのに死ぬのはいやだ。

別に、今死ぬわけではないけど……。

この暑さにやられたのかな。

なんか、今なら告白できる気がする。



友達であり、私の好きな 大滝 怜おおたき れい

部活中かもしれないけど、今の私には関係ない。

この機会を逃せば、二度と告白をすることは無いと思うから。

携帯を開くと3時28分。

本当に微妙な時間で、少しテンションが下がる。

だけど、告白することは変わらない。

あ行の中に1つしかない大滝の文字。

メールにしようか悩んだけど、電話にした。



………

やっぱ、まだ部活中かな

……………

『はい……、もしもし』

出てきた。

どうしよう。出てくるなんて思ってもなかった

「あ、私。幸だけど」

『こんな時間になに』

声がいつもより低い。さっきまで寝ていたのだろうか。

「今から会えるかな」

なに言ってるんだろ私

『……、いいけど』

「じゃあ、今から私の家に来て」

『はいはい。じゃあ』



しばらく何も考えられなくなってしまった。

なんて状態になってられない。

家に呼んでどうするのよ。

鍵持ってないから入れないじゃない。

玄関の前で告ることになるじゃんか。

近所の人とか、家族に見られるかもしれない。

どうしよう、どうしよう、どうしたらいいんだろう。

自転車が近づいてくる音。

振り向くと怜がいた。



「突然呼び出してなに」

「いやぁ~、その~」

自分ってハッキリしてないよねー

「今日はいつもより暑いんだからさ」

「分かってるよ……」

本人を目の前にして何も言えなくなってしまった。

雲ひとつなく、太陽が私を直視している。

蝉が沈黙を破り続けている。

選挙カーがまったく通らない。

暑さで理性が消えていく。

目の前の彼はやはり可愛らしい。

早くこの思いを伝えなければ、誰かに先を越されてしまう。

でも、言うのが恥ずかしい。



………。

視線をカバンのほうにやると、筆箱が目に入った。

そういえばこの前、好きな人を教えることになって紙に書いたっけ。

そのときの紙は、まだ入ってる。

私は急いで筆箱を手に取り、中をあさる。

あった。

きれいに折られた紙が1つ。

「これ」

「なにこれ」

「紙。この前のやつが書いてある」

丁寧に開く怜。

手紙にはこう書かれている。

[ 大滝 怜 ]



「なんのことかな」

若干ニヤニヤしながら言ってくる怜。

完全に理解しているだろコイツ。

「言葉で分かりやすく言ってくれなきゃ」

うぅ……。なんてドSなやつなんだ。

他の友達といるときはいじられ役なのに。

てか、これでふられたら死にたいんですけど。

でも、言うしかないよね。

「私と付き合ってくれるかな」

「いいよ」

いつもの可愛らしい笑顔ですぐに返事をくれた

でも、ドッキリだったらどうしよう

「本当にいいの」
「……、俺も好きだから」

二人とも熱されたアスファルトを見る。

今日は暑いから、怜と私の顔は少し赤くなっているだろう。