Xair‐エクセア/世界的工業デザイナー奥山清行氏が創ったモダンでシンプルでタイムレスな椅子(1 | Michi-kusa

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大切なものはいつだって形のないもの ... The important things are always the ones without form ..

( Xair - KEN OKUYAMA x Inaba イベントレポート No.1 ; 奥山清行氏のデザイン哲学とは )

Michi-kusa-Xair エクセア Inaba x KEN OKUYAMA





表参道にあるデザインスタジオ「CREATIVE BOX(クリエイティブボックス)」で開催されたイベント

「世界的な工業デザイナー奥山清行氏が
次世代オフィスチェア誕生にかけた思いを語る!」

に参加してきました。



会場は、クリスマス・イルミネーションで賑わう外苑前からちょっと外れた住宅街。 この静かなエリアにある「CREATIVE BOX」 さんは、日産自動車のコンセプトカーのデザインを手掛けられたスタジオ。 狭い地下の階段を下りると、モダンで洗練されたインテリアと照明が印象的な、明るい空間が広がっています。 床材は無垢の木を使っているのでしょうか、温かみのある靴音を響かせながら奥へ向かうと、20席ほどのトークイベントスペースが設けられています。 

今回は、革新的なデザイナー「奥山清行」さんと歴史ある日本メーカー「稲葉製作所」のコラボから生まれたオフィースチェア「 Xair[エクセア] - KEN OKUYAMA × Inaba - 」のイベント。 その誕生秘話を奥山さんのデザイン哲学とともに聞かせていただきました。

私の頭の中にぼんやりとあった「モノ創りの理想」をそのまま、ひとつひとつカタチにしてこられたような奥山さん。 そのアグレッシブなモノの考え方、生き方、こだわりに熱いものを感じました。 そんな心に残ったお話と、懇親会でのXair体験を、撮った写真と一緒に記録しておこうと思います。


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フェラーリをデザインした世界的工業デザイナー奥山清行さんって
いったいどんな方なのでしょう。

山形県出身の奥山さんは、高校卒業後にデザイナーを夢見て上京。 武蔵野美術大学でデザインを学ばれ、卒業後は渡米してアメリカの名門「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」へ。 素晴らしい才能をもった多くデザイナーの方々と出会い、カーデザイナーへの道を志すようになったのもこのアートスクール時代だったそうです。 GM(ゼネラルモータース)の研究所でデザイナーを務められた後はドイツへ渡り、子供の頃から憧れていたポルシェへ移籍。 その後、イタリアのカロッツェリア「ビニンファリーナ」でフェラーリやマセラッティのデザインを手掛けることになったとか。 

人材の育成にも活動の場を広げ、現在は日本と海外とを行きしながら、KEN OKUYAMA のブランドで活躍されていらっしゃいます。 車、建築、ロボット、家具、家電、メガネから鉄瓶に至るまで多様なデザインを手掛けられ、新風を巻き起こし、独特な感性で多くの人魅了している日本が誇る世界的工業デザイナーです。

でも、順風満帆なスタートというわけではなく、学生時代も仕事をはじめられてからも、常に努力を重ねてこられたようです。 読ませていただいた著書「人生を決めた15分 創造の1/10000」の中では、いくつもの壁を壊しながら、自分の道を切り開いてきたドラマチックなストーリーが、デザイン画ともに綴られています。 デザイナーを志す方でもそうでない方でも、一度手にされたらいいと思う書籍です。

そんな奥山さんのデザイン哲学とは...


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デザインとは何かを壊しながら
想像と創造を繰り返し新しいものを創りあげていくもの。

「私は、イケスの中のナマズです」こんな言葉で自己紹介ははじまりました。 

生簀の中にナマズを入れると、魚達はビックリして活発に活動するようになり、元気になっていくそうです。 海外での自分はそんなナマズのような存在。 日本からやってきた異端児(?)は、現地のデザイナーにはない何かを発信。 それが上手く生かし受け入られて、新しいものを生み出すことができたのだと。 自動車産業の町「デトロイト」では憧れの昔懐かしいアメ車を、ドイツびいきのイタリア現地デザイナーにはいい時代のイタリア車を。 現地デザイナーの発想にはない新鮮な感覚を持ち込んだことで、想像と創造が活性化。 それは、帰国してからも同様で、働いたことのない日本でもまた新しい風となってモノ創りをしてこられたようです。

では、何故そんな世界的な工業デザイナーと稲葉製作所とのコラボが生まれたのでしょう。




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やりたいことをやる

現在も30以上のプロジェクトを一度に動かしているという奥山さんですが、「自分がやりたいこと」を選んでいるとおっしゃいます。 やりたいこととは...


自分が好きであること。 自分が学べること。 自分が求められていること。


長年、堅実・実直にやってこられた信頼感、しっかりとした製品造り、でもちょっと地味な印象の稲葉製作所が造る製品にこそ、奥山さんの発想、デザインが生かせると感じたそうです。 


キーとなったのは「人」。 仏の稲葉といわれる社長の人柄の他にともう一つ、惹きつけられるものがあったといいます。



日本が世界に誇れるブルーカラーのモノ創り

それは、アルミダイキャストの自社工場を日本にもつ稲葉製作所の「犬山工場」を訪れたときのこと。 アルミダイキャストとは、アルミ素材に熱を加えて熔かしそのカタチを自在に創り上げるものだそうです。 (ダイキャスト=鋳造) 白い湯気が上がる製作ラインで、無心にモノを造り続けるブルカラー(職人、技術者」)達の姿。 それを見た瞬間、「これだ」と感じたそうです。 その動きは舞うように美しく、熟練された職人がひとつひとつ精巧につくりあげていく姿は、まさに、日本が世界に誇れる技術と繊細さそのもの。 

しかし残念なことに、最近ではそんな製造現場はコストの安い海外へと移り、日本の製造業の町は空洞化。 そして更に拠点を移しつつ空洞化の波は続いています。 まるで焼畑農業です。 いつまでそんなこと続けるのでしょう。 何のためにつくるのか...

「日本の価値(素晴らしい日本のブルーカラーのモノ創り)」を残していきたい。 そんな思いはいつも奥山さんの心にあったそうです。 



欲しいと思わせる、値段以上に価値のあるものを創りたい

いい品質だから、いいモノだから、というだけでは売れない時代だといいます。
必要だから買うのではなく、「今は必要じゃないけど、どうしても欲しい!」そう思わせる何かを創りたい。 値段以上に価値のあるものを。 

そう言えば、最近購入したMacBook Airとちょっとにてるかも知れません。 今持ってるVAIOで充分だったはずなのに、やっぱりどうしても欲しかった... 



モノそのものだけでなく、
それがあることで生まれる世界感を創りだしたい

何かを目にしたり手にした瞬間、その空間や見える景色が変わってくることってありますね。 そこにいる自分もまるで別人にでもなったかのように...。 世界感を創るとは、そういうことなのでしょうか。 

世界観、ストーリーのあるモノ創り...

今回のイベント会場もそうでした。 トークイベントの後は懇親会。 洗練されたデザインのインテリアに囲まれたスペースには、特別に用意された料理とお酒。 それを囲み、世界的デザイナーの奥山さんのお話に耳を傾けます。 その傍らにはさり気無く置かれたXairがスタイリッシュな空間を演出しています。 そこで時間を共有している自分もまた特別な存在であるようにさえ感じられます。

Xairを実際触って、座ってみるとこんなイメージもわいてきます...

高層階のオフィース空間。 東京を一望できる大きな窓の外には高層ビルが建ち並び、まるでニューヨーク摩天楼のよう。 その向こうには青い広い空が広がっています。 パーティションで区切られた自分だけ空間。 デスクには入れたての美味しいコーヒー。 そこに、ゆったりと身体を預けられるXairがあったらとしたら...。 最近、仕事をするオフィースのひとつは、ちょっとだけこれに似た環境で、やはりメッシュの椅子がおいてあります。 そこに座ると一遍にスイッチが入るのを感じます。 

映画、音楽、読書だけを楽しむような自分だけの大人の空間をもてたなら、Xairはそこにおいてみたい椅子のひとつになるかも知れません。 安定感と身体を包み込むようなフィット感は、安らぎを覚えます。 オフィスチェアとしてではなく、家具として空間演出をしてくれそうです。

奥山さんは、「赤いフェラーには赤いXair」「マセラッティにはダークブルーのXair」というようにガレージにあるXairをイメージされたようです。 日本国内に生産拠点があるので、オーナーの嗜好に合わせたカスタマイズも可能だというお話も伺ったような気がします。 それができれば、自分の描く世界感に近づけそうです。


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使いこめば使いこむほど
創り手の苦労と工夫が見えてくるものを

第一印象「ひらめき」は大切です。 五感を呼び覚ます美しさや驚きには何事にも代えられない感動があります。 そして、第二印象「再発見」は、愛着とともに喜びや安らぎを与えてくれます。 使いこめば使いこむほど、創り手の苦労や工夫が見えてくる、飽きのこないモノ。 そんなモノ創りを心掛けているそうです。 アンティーク家具や年代ものの皮製品の味わいにも通じるところがありますね。 新品にはない、いつまでも新鮮な美しさに人は魅了されます。

たとえば、奥山さんが創られたメガネフレーム。 塗装が剥げてもその下からのぞかせる朱色の下地はまた魅力的だと。 まるで着物の裏地や半襟、美しい長襦袢のようですね。 昔から日本にある「隠す美しさ」へと通じるものもあるようでちょっとうれしくなりました。 今回拝見したXairの中にも、そんな隠れてた美しさがそっと潜ませてあるのではないでしょうか。

手を奥へ入れないと分からないところにも、感触や安全性を考慮した心配りがされているそうです。 使っているうち徐々に、あるいは突然、その使いやすさに気づかされるのでしょうか。 ふつう、体形や体勢に合わせて調整するコントローラは、美観を損なわないよう目立たぬところにあります。 Xairの場合は、美しいデザインの一部となって表に。 何気なく手を伸ばすとそこにある。 ちょっと不思議な感覚です。 

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理にかなったモデリングは、どの角度から見ても洗練されている

シンプルで洗練されたデザインはどこから生まれてくるのでしょうか。

不要なもの取り払っていくと、シンプルなデザインが生まれるといいます。 たとえば、Xairの象徴的な背もたれのX。 強い力(負荷)が一点に集中しないようにと設計したところ、このⅩができあがったそうです。 どの角度から見ても洗練されているそのカタチには、必要なワケ(理由)があったのですね。 そこに若干のスパイスを加えてあの洗練されたデザインを完成させたそうです。

車をデザインする場合は、四角いビルや街並みに丸い車がアクセントになります。 椅子をデザインする場合にも、丸みのある曲面と曲線のあるデザインが、直線のオフィース空間にはマッチするようです。 曲線と曲面が、力強いXをより美しく魅せますね。



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人がこの世を去っても、モノはこの世に残る
だから、愛される続けるもの、残るものを創っていきたい

そんなデザイン哲学から生まれたXairが、大切にしていることのひとつが素材感。 Xairはアルミ本来の質感を生かすため、メッキは加えずありのままのアルミを磨き上げ、あの美しい金属の光沢と輝きをだしているそうです。 その輝きを増すため、微妙に調整された曲線や曲面がつけているそうです。 複雑で完成度の高いモノを造りたかったので、価格も高いものになってしまったけれど、それでも、愛され続ける 「一生ものの椅子を創りたかった」そうです。



奥山清行さんから学んだデザイン哲学は 「モダン、シンプル、タイムレス」

いつも新鮮で、洗練されたものそこが、時代を超えて生き残る。
だから、そんな愛され輝き続けるものを...

私の心に残ったメッセージです。
モノを創ることがただすきなだけの今の私にも、言葉のひとつひとつがとても刺激的でそれでいて優しく響いて、何だか目頭が熱くなってしましました。

奥山さんとお会いして
KEN OKUYAMA のあの強くて優しい繊細なラインを創りだせるワケ
少しだけわかったような気がしました。



Xairと懇親会の様子を撮った写真は、後でまとめてアップしたいと思います。


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『参考』

KEN OKUYAMA DESIGNオフィシャルサイト
Xair[エクセア] - KEN OKUYAMA × Inaba -
CREATIVE BOX
世界的な工業デザイナー奥山清行氏が次世代オフィスチェア誕生にかけた思いを語る! レポート(フライシュマン・ヒラード・ジャパン株式会社)