「紫紺の優勝旗がはじめて長崎に渡りました!」

ラジオから放たれた実況の叫びに、僕の胸は震えました。運転中の僕の目には、信号の赤もピンクに見えました。


吉田監督は言いました。「3年前に苦い経験をした事が生きた」と。

吉田監督は言いました。「その苦い経験をさせてしまった選手たちに、少しは恩返しが出来たかな」と。

そうです。清峰にとってセンバツの決勝と言えば、だれの記憶にも残るあの惨敗です。

そうしてあの3年前の準優勝は、「決勝進出という快挙」と「歴史的大敗」という、明と暗の両方をもたらした、忘れられない日なのです。その不名誉を、今村率いるナインたちが全て払拭してくれました。もう洗いざらい拭い去ってもひとつ全国にえへんと胸を張っていい素晴らしいプレーでした。借りはきっちり返してくれました。


「ウソから出たマコト」という言葉がありますが、吉田監督の場合は「マコトから出た真実」でしょうか。限りなく優勝に近いところにいると。優勝出来る可能性を言うならば、100とは言わないまでも90を超えているというような事を言ってました。もうこれはほんとに何年に一度というような大チャンスなんだと。そうしてそれを本当に成し遂げてしまうなんてまさに夢のようです。それを言ったのは、去年の神宮大会に敗退したその日です。その目は確かでした。


今村が果たしてどの程度の投手なのかを、僕はその時よく知りませんでした。夏の大会は全てラジオ中継を聞いていただけでしたから、今村の投球を一度も見ていませんでした。あの頃はお店が佳境に入っていて、気にはなるけど自分の事で精一杯だったのです。センバツの今村を見ていて納得しました。失点どころか連打される気がしませんでした。終始落ち着いたマウンドさばきとクールな表情。絶妙なコントロールと唸るまっすぐ。ブレーキの効いたスライダー。こりゃよほどの高校生でも打てないなと感じました。

結局、この大会を通じて今村が許した失点は報徳学園戦における1点のみ。5試合で1点しか与えないんですから、負けませんわね。凄いとした言いようがないものです。1失点完投、8回を完封、あとは完封、完封、完封です。改めてその完璧さが際立ちます。

で、優勝を決める最後の打者に向かった時のコメントがまた泣かせます。

「最後は自分でもよくわからなくなったんで、あとはバックを信じて投げました」です。お山の大将ではないのです。ちゃんとわきまえています。どれだけ凄いピッチングをしたとしても、バックの守りがなければハダカの王様です。野球は仲間と共にある事をわかっています。


長崎県に史上初めてもたらされた紫紺の旗。その歴史的快挙を、地元の、母校の後輩たちが成し遂げてくれた。本当によくやった。おめでとう!そしてありがとう!何回でもありがとう。普通の子でも、努力し続けていればこれくらいの事はやれるんだという証明です。清峰の魂はきっとだれの胸にもある。それを育み続けるかどうかです。


こりゃ夏が楽しみというか、大変です。次は当然、春・夏連覇が目標ですからね。


<こぼれ話>

決勝で唯一のホームを踏んだ嶋崎くん(2アウトから四球で出塁して、橋本の長打で一挙生還)は、もともと控えの選手です。それは知ってました(背番号もふたけたの14番)が、うちの常連さん(Tさん)のお向かいさんの息子さんだということを決勝の前日に知りました。明日は決勝という日にそのTさんがうちに来ました。

「息子さん活躍しよるネェ」とお母さんに声をかけたら「もう心臓がばくばくして試合なんか見てられん」と青ざめた顔だったそうです。大事な場面でエラーなんかした日にゃ表を歩けませんからね。その気持ちはよくわかります。でも大丈夫。息子さんはどえらい活躍をしましたよ。凄いですよ、嶋崎さん!!帰ってきたら、息子さんをほめてやらんば。




さざんカルビ-清峰優勝!