午前中から、入院している父に会いに行き、その後は真っ直ぐ店に入った。前日がそこそこ忙しかったから何やかやと仕事があって、1時過ぎから網洗いやら肉切り。本来なら家でじっくり観たい試合だったが、仕方がない。それきり家には帰ってないからこの時間に更新。仕事をしながらテレビを気にする。


実は、PLとの対戦は6割がた負けるかなと覚悟していた。何しろPL学園だ。あのKKコンビのPLだ。強豪校をなぎ倒して勝ち進んできた清峰といえども、PLの壁はさすがに高かろうなと。僕自身、テレビを観ているだけにも関わらず、あのPLと対戦する位置まで登りつめた事だけでドキドキしている始末。初戦からくじ運悪く当たってしまったのでなく、勝ち進んで当たっているのだ。とうとうここまで来たのだなと、「もうそれだけで感無量っす」てな気持ちだった。

だが、彼ら清峰ナインはKKコンビをよくは知らないらしい。それほど意識はない、と。そして、試合が始まってみると、あにはからんや、先制したのはうちらではないか。初回は3人で切って取られたが、ちゃんとバットに当たってるしライナー性のものもあって、「だめじゃないじゃん」。早速、二回表には主砲木原が大きな当たりをかっ飛ばしてくれた。

そして、あの永遠の名作「ドカベン」のワンシーンのような(きっと殿馬の秘打であろう)超絶技巧をもってしなければ絶対あそこには転がらないという、佐々木伸行のスーパースペシャルバントヒット!守っている方は「あ~っ・・・あぁ~・・・がっくし」となる。清峰の各打者はいい意味でヒーローになる事をよしとしない。後ろの打者につなげる意識だけを高く持ち、すべからくミートを心がけ、決してボール球に手を出さないのだ。そうして、ひとたび犠牲バントで得点圏に走者を進めるや否や、恐ろしいまでの集中力を発揮して彼(走者)を返す事のみに徹する。まさに集中打だ!


テレビで観ている限り微妙にわかりづらいが、清峰の打者はくさいボールをことごとく見送っていた。PLの前田投手は初戦で16?奪三振を記録したらしいが、恐らく、その時の打者はボールを振らされていたに違いない。しかし、清峰の打者は決して振らない。しっかり見極めていた。前田投手は思ったはずだ。

「・・・あかんわ。こいつら振ってこんし・・・ようひっかかりよらんで。」

桑田二世の呼び声高い彼であっても、例えば絶妙な「ストライクくさいボール球」を2球は続けられても、「ハイレベルなくささを帯びたボール球」を3球目にも投げ込む事は至難だろう。彼は今大会の過去3試合で四球が2個しかなかった。図抜けた制球力と周囲から誉めそやされていたはずで、根負けして四球を出す事は相当に恥だったに違いなく、それを嫌って、嫌った分制球が逆に甘くなったきらいはある。解説が何度も叫んだ「きわどいっ!」という言葉と共に「ボール!」と判定される球が増えるに従い、前田投手はじりじりと追い込まれていったのだ。でもたぶん、清峰の各打者は相当のレベルで見極めていたはずだ。


PLには叶わないだろうと考えていた僕は、後輩達に詫びなければならない。叶わないどころか、ねじ伏せてしまったではないか。攻撃面はバント、エンドラン、盗塁、そして本塁打のおまけつき。エース有迫は僕の記憶している限り、四球は2個(ぐらい?)。そしてわずか2安打に完全に封じ込めた。野球の神様が清峰に味方したとか、甲子園の魔物にPLがやられたとかいうのではなく、もう完膚なきまでに叩き潰したという内容だった。PLナインはまさに手も足も出なかった。


清峰ナインの可能性はいったいどこまで広がるのだろう。もうあと一試合を残すのみだ。相手はもちろん強豪の横浜高校。だが、清峰が破ってきた強豪校はといえば、昨夏の愛工大名電、済美、そして今春は岡山東、東海大相模、そしてPL学園と名だたる学校ばかり。ついでだが、去年の神宮大会では(大魔人・佐々木の母校)東北高校を破り、秋の九州大会では鹿児島の樟南をコールドで下している。あ、そうそう、九州大会の決勝戦において、今大会で横浜を最後まで追い詰めた石垣島の八重山商工をあっさり破っている。そう考えると、横浜だからといって臆するところは本当に全くない。自分たち本来のプレーが出来さえすれば、清峰は勝てるのだ!


PLを叩きのめしてしまうほどの強さがいったいどこから来るのか、ふと思い出した事がある。清峰は去年の国体であの駒大苫小牧に負けている。その時は有迫(当時はまだ二年生)が先発してノックアウトをくらった。その後、秋の大会で経験を積み、力をつけた結果、九州王者に輝いた。そして、明治神宮大会に出てきたら再び駒大苫小牧に当たってまた負けたのだ。WBCでの対韓国戦において「同じ相手に3度負けるわけにはいかない」とイチローが言ってる(ご存知のように3度目は勝利した)が、清峰にもその思いはあったのだ。このセンバツでは、是非勝ち進んで行って駒大苫小牧と当たり、そして必ずリベンジを果たすのだとナインはかなり燃えていた。従って、目標を駒大苫小牧に定め、彼らは懸命に冬場のトレーニングに取り組んでいる。相手が出場辞退でいないから対戦は叶わないが、その成果がそれ相当に実っているのだとすれば、結果的に決勝の舞台まで来れたというのはある意味では当然なのかもしれない。


佐々木伸行