それは先週の木曜日の事。彼女は僕に、突然別れを告げた。ふいに押し黙ってしまったのだ。愛撫したところでどうにもなりはしなかった。


彼女との出会いをもたらしてくれたのは、僕の3つ上の姉だった。13年も前の話だ。思えば永い付き合いになる。

彼女はいつも僕にうるおいを与えてくれた。共に笑い、そして泣いた。どちらかというと、泣く事の方が多かったかもしれない。僕が仕事を終えて家に帰ってくる。彼女は僕の望みどおりに反応してくれた。僕が彼女と過ごす時間は夜、それも深夜が多かったせいもあって、誰にも邪魔されずにすんだ。だが深夜のこととて、一軒だけ存在するお隣りさんには一応の気を遣い、僕は彼女の声を押し殺す日々。もう少し小さく、おさえて、おさえて。


そういうシチュエーションを選んでいたせいもあるが、僕はよく泣いた。涙を流すと、人はすがすがしい気分になれる。そうして「明日もまた頑張ろう!」という活力を得るのだ。彼女と過ごした13年間、僕にはいろんなことがあった。仕事だって変わったし、かなしいかな、腹の肉もだぶつき、頭の色もずいぶん薄くなった。人間の細胞は毎日生まれ変わるというが、マイナスに向かう部分もあるという事を身を持って知らされた日々。


彼女の微妙な変化に全く気付いていなかった訳ではない。一ヶ月くらい前も、妙な独り言を彼女はつぶやいていた。それが聞こえなくなれば僕は安心する。しかし気付くとまた・・・。はじまりがあれば、いつか必ず終わりがやってくる。ひょっとしてもう終わりなのかもしれない。僕にはそんな気がしていた。

それが僕の考えすぎだったらよかったのに。

終わりが来るとしても、もっと先ならよかったのに。


しかし、先週の木曜日の夜、彼女は僕に(予感があったとはいえ)唐突に別れを告げた。いや、正確には無言のまま、彼女は「彼女でいる事を」終えたのだ。


彼女の名前は「シャープ製21型ブラウン管」テレビ。92年の製造。13年間お疲れ様でした。

新しい彼女は、これもたまたまシャープ製の21型が部屋に来ています。現在関係構築中。いったいどういう訳なんだろう?ビデオ入力ではきっちり映るのに、テレビに切り替えると惨憺たる荒れ具合なのですよ。室内アンテナからテレビ単独はきちんと映るが、それではビデオ録画ができないっ!

ビデオ録画をしながら、別のチャンネルを観たりしたいのだっ!

う~む、これは室内アンテナを別途購入して付けんとしゃぁないのかなぁ?