形影相弔う⑤ | コスプレとネトゲのしおしお部屋

コスプレとネトゲのしおしお部屋

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体が重い。
ベッドに沈み込んだ上体をゆっくりと起こす。
自由のききづらい体とは別に、頭はここ最近感じたことのないほど
すっきりと、クリアに感じられた。
今まで、何を悩んでいたのだろう。
むしろ、何を悩む必要があったのか。
最近はずっと利用している包帯を無造作に巻く。
左腕、それから右手。
そして顔…。
鏡もみずに無造作にぐるぐると巻きつける。
ミスラはフォモルは夜のいきものだから、陽の光に触れるとよくない、とこの包帯を渡した。
律儀にそれを守る自分もばかばかしいが
それでもこの包帯を巻くと気分が高揚した。
いよいよ、人間からかけ離れていっている感じがするじゃないか。
濁った眼で寝室の出口を見つめた。
もう、あと少しだ。




「遅いね。」
ユウが宿屋の入り口に座り込む。
人を待たせることはあっても、待たされることの苦手な彼女は
退屈そうに口をとがらせた。
「アイク、なにしてるんだろーね。」

セナは、昨日の出来事を思い出していた。
もちろん、あのまま酔いつぶれて寝てしまったユウには何も言えていない。
自分への拒絶するような態度。
ユウを見る目…。
そしてずっと包帯を巻いていたあの左腕。

いつも隠すようにかばっていた左手には

何も… 何もなかった。

彼はどうしてあの後走り去ってしまったのだろう。
心配をしてもらいたくて、気をひくために巻いていた?
嘘だと知られて恥ずかしくなったとか?

……わからない。

それなりに長い間彼と過ごしてきたが、少なくとも
そんな下手な小細工をするようなやつじゃない。
深夜に部屋に帰ってきてる足音はしたから
宿にはいるんだろうが…
「ちょっとみてくるよ」
壁によりかかっていたからだを起こし、セナが言った。
考えるより聞いた方が早い。
「うん、わかったー」
ユウがいってらっしゃい、と手を振ってみせた。

アイクの部屋は2階だった。
食堂兼酒場でもあるホールを一瞥していないのを確認すると
2階へと続く細い廊下を歩く。
いつものことながらあまり人気のないこの安宿は、
昼間はなおさらひとけも少なく
一歩すすむごとにブーツの踵が石床を踏みしめる音が響く。
と、それにかぶさるかのように

ずずっ ずず

上の部屋で何か重いものを引きずるような音がするのに気が付いた。

ずず…

音はゆっくりと頭上を通りすぎ、階段の上でぴたりと止まった。
なんだろう…。
そう思うのと同時に
アイクではないか?という思いが強くなり、必死で振り払う。
しかし、嫌な予感は拭えず、武器に手をかけつつ階下から呼びかける。
「おーい、アイクー!起きてるか、でかけるぞー」

かすれた笑い声が聞こえた気がした。

階上にゆらり、と現れたのは黒い、影。
しかしその姿には見覚えがあった。



「アイク…」
苦々しくセナがその名を呼ぶ。
アイクはいまやその全身に包帯を巻き、表情すらもみえない。
ただ包帯の上に着こまれた戦士AFと斧だけが彼の印だった。
「なぁ…アイク、やめろよ。なんでそんなことしてるんだよ。」

彼は何も答えず、ただ立っている。


この声が聞こえているのかどうかもわからず、セナは叫ぶ。

「その気持ち悪い化け物ごっこやめろっていってるんだよ!」

その声に呼応するようにアイクが動いたのが見えた。
地鳴りのかと思うほどのという大きな音が響く。
階上からアイクが一気に飛び降り、階下のセナの目前まで距離をつめたのだ。
着地の衝撃で塵が舞い上がる。
「つっ!」
とっさにかばうようにセナは腕で顔を覆う。
視界の端でアイクの腕が動くのがみえた。
空いた方の手で彼を制しようとするのと
彼が右手にもった斧が振り下ろされたのは同時だった。
とっさに後ろに身をひくと
ぷん、と風を切る音がした。

……?!

自分は、切り付けられたのだ。
その事実が受け入れきれず、セナが放心する。
仲間だろ?そんな、なぜ??
セナが茫然とアイクを見返すと、彼の肩口に構えられた斧が鈍く光った。
「やめろ!」
叫んで、セナが体の中心線に槍を掲げる。



金属同士が激しくぶつかり、妙に長い余韻を残して音が響いた。
手に伝わる衝撃と振動にセナが顔をしかめる。
アイクは本気だった。殺すつもりで斧を振るってきた
受けた斧の重みがなによりの証だった。
セナの背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「やめよう、話をしよう。な?」
声がかすれる。
アイクは何も答えない。
彼の踏み出した右足が沈み込んだ。
「っ…!」
セナがとっさにまた身をかばうように剣を前にだしかまえる
だがアイクは横なぎに両手斧の刃先でセナの剣を腕ごとはじく。
すさまじい力だった。
反動で壁際に腕をついたセナが追い込まれた。
剣を手前にひきもどそうとするセナよりも先に
容赦のない蹴りが襲うと、彼をそのまま壁に叩きつける。
「!」

みしみしと軋む音をたてるのは鎧なのか、この骨なのか。
脇腹をなおえぐるその痛みに声すら出せず
力を失ったセナの体が階段に崩れ落ちる。
どっと、汗がふいてわいた。
顔面から血の気がひいていくのがわかる。
めまいと吐き気で意識が遠のくのを感じ、焦点のさだまらぬ目で瞬きを2,3度繰り返した
「なんで…なんでそんなになっちまったんだよ」
倒れこんだまま、絞るような声でセナが言う。
「そんなナリして!モンスターにでもなったつもりかよ!
自分のツラみてみろよ!」
アイクは無言でゆっくりとセナに近づいてくる。
「なんか、いえよ…!」
鳴き声混じりでセナが叫ぶ。


セナは優しいな。
アイクは感情もなく、セナを見下ろす。
たとえ殺されかけていても友人を殺すなんてできない。
自分よりも相手を優先する。
彼はいいやつだ。


だがそれがなんだというんだ。


斧を握る手に力がこもる。
自分は決めてしまった。
彼を 殺すと。
もう迷うことはない。
振り上げた斧に自分の顔が歪んで映った。


「セナ!?」

ユウが現れたタイミングは最悪だった。
様子をみにいく、と出ていったセナは戻らないし、なんだか騒がしいし
ケンカでもしているのだろうと悠長に廊下の角を曲がると、信じられない光景が広がっていた。
倒れこむセナと、斧を振り上げたアイクの姿が目に入った。
あまりにも現実感がなくて、これは夢なのではないかとも思える。
「嘘でしょ?やめて…」
セナが驚いた顔でユウをみやり
なにごとかを口にしかけたところで…
無慈悲にも斧が振り下ろされた。

頭蓋骨をわる、低く鈍い音がした。
「い、いやーーーーーーー!!」
絶望を思わせる悲鳴が響く。
セナはびく、と大きく体を一度震わすと人形のように頭をたれ、微動だにしなくなった。
うつぶせた顔から血がゆっくりと階段を這い、滴る。

ユウはふらふらとセナに駆け寄る。



いやだ、いやだ、いやだ。なんで、セナがどうして。
これは本当にアイク…?
ざりざりと足音が近づき、すぐそばまで彼がやってきているのがわかった。
けれどもユウは顔をあげられずにいた。
怖い。誰か、だれか、助けて。
セナ…
視界のはしに彼の血まみれの手がみえた。
ああ……。
祈るように目を閉じ、ぐっと奥歯をかみしめる
彼らの間になにがあったのか。
何が彼を変えてしまったのか。
アイクはどうしてしまった…?
がくがくと震えの止まらない体を支えるように抱きしめ、
彼の真意を確かめようと意を決して顔をあげる。

ユウの、自分の死はもう目前に迫っていた。
高々と斧を振り上げている彼はいつもと同じようにみえた。。
獣人どもを屠る時と同じようにそのまま腕を真一文字にひきしぼり、
ひねった上半身はその反動を解かれる時を待っていた。
その瞳に迷いも、戸惑いも、怒りも、悲しみも…
何の感情もうつってはいなかった。
逃げ出したくとも、もう体が動かなかった。
ただセナをかばうようにその体重を彼に預け、その時を待っていた。

……変わってしまったのは、私たち、だったのかな。

横薙ぎの一閃は彼女の細い首をとらえ壁に叩きつけた。
いくつもの骨のくだける嫌な音がした。



歪な形に曲がった首を伝う血は、涙のようにゆっくりと地面をぬらしていった。


二人の死体を作ると、アイクは鼻歌まじりに宿屋の出口へとむかった。
なんとあっけない。
自分が今まで悩んでいたことがうそのようだ。
こうするだけでよかったのだ。
血を吸った包帯が肌にはりついて気持ち悪い。
ひっかくようにしてすべてを引きちぎる。
これでいい。
このまま、外にでれば…
フォモルである自分は陽の光に焼かれて消えて
この世のわずらわしいことは全てなくなる。

そういえばこの鼻歌、よくユウが歌っていたな。
まばゆいほどの光を真っ向から受け、アイクは瞳を閉じた。