昨夜、私が通うカレッジ内にある音楽ホールでPeninsula Symphonyのコンサートがありました。
この日の演目はワーグナー、ベートーベン、マーラー。
ベートーベンはピアノ・コンチェルト(Concerto No.4 for Piano,Op.58)でピアニストがJon Nakamatsu。
カレッジの日本人クラスメイトが以前、彼のコンサートを聴きに行って、あまりにもトークがおもしろく、しかも、しゃべり終えていきなりピアノに向かい、すぐに演奏を始めるのがなんともコミカルだった、と言っていました。
ふつう、ピアニストはトークショウ形式だとしても、話し終わってピアノに向かい、呼吸を整えて精神統一をし、それから演奏を始めるもの。
なのに、彼はそういう手順が全くなく、しゃべり終えた途端にピアノを弾き始めたそうです。
だから、私は彼の名前だけははっきり覚えていました。
今回、Peninsula Symphonyと一緒にやるというので、どんな演奏をしてくれるのか、楽しみにしていました。
通常、オーケストラだと座席は真ん中がベストなのですが、ピアノ・コンチェルトの場合は、ステージに向かってやや左寄りの席を選びます。
その方が、ピアニストの手元がよく見えるからです。
昨夜はオープン・シート(料金が一律で座席は自由)だったので、夫・Cと私はMezzaneと呼ばれる中二階席に行きました。
ステージ全体が上から見下ろせて良かったです。
オープニング曲、ワーグナーのプレリュードの後、Jon nakamatsuの登場です。
小柄ながら、堂々と胸を張り、歩くのが速いな~という印象を受けました。
私の主観的な感想ですが、彼の弾き方はエモーショナルというよりは、正確な機械のよう。
前に私はバレンボイムの演奏について、「バッハの曲でありながら、バレンボイム自身の曲になっている」というようなことを書きましたが、Jon Nakamatsuの場合は、作曲家の譜面に忠実な演奏、という感じがしました。
ベートーベンの曲が終わった後は「ブラボー」の大喝采。
本人も満足な演奏だったようで、コンダクターと抱擁していました。
そして、一度は袖に引っ込んだものの、また出て来て、ピアノの前に座り、ショパンのノクターンを弾いてくれました。
私はどちらかというと、ドライなタッチの彼がショパンをどのように弾くのかすごく興味があったので、期せずして生演奏が聴けて嬉しかったです。
思ったとおり、淡々としたショパンでした。
でも、それはショパン弾きにありがちな、sweetに弾くよりも劣っている、ということではなく、無駄なものを一切付けない弾き方。
コンサートの冒頭でコンダクターが短いトークをし、その中で、「今日のピアニスト、Jon Nakamatsuがインターミッション(幕間)でCDにサインをしてくれます」と言っていたので、彼のショパンを聴いた後、ロビーに行ってみました。
CD売り場では、Jon Nakamtatsu演奏の4枚のCDが売られていました。
ラフマニノフのピアノ・コンチェルト、ブラームスのソナタ、ショパン、あとひとつは・・・忘れてしまいました。
私は迷うことなくショパン集を買い、サインの列に並びました。
Jon Nakamatsuはサービス精神が旺盛な人のようで、サインを求める人と何か会話をしながらニコニコしてペンを走らせています。
そのせいか、なかなか列が進まず、私の番が回ってくる5人ぐらい前で、間もなく後半が開演のお知らせが・・・。
でも、ここまで来てサインをもらい損ねるのはいやなので、そのまま列にいました。
そして、やっと私の番。
「What's your name?」と聞かれ、私が名前を告げると、スペルアウトもしなかったのに、正確に私の名前を書いてくれました。
夫が横から「彼女はカレッジでピアノを習っているんですよ」と言い、Jon Nakamatsuが「Is that right ?」(へえ、そうなの?)。
「For E(←私のファースト・ネーム)、Best Always」とジャケットに、そして、CDの上に彼のサイン。
写真も一緒に撮ってもらって、大満足。
私はそれですっかり舞い上がって握手してもらうタイミングを逸してしまったのですが、夫・Cががっちり握手してもらい、私は夫と握手して、それで良しとしました・・・。
これがサインしてもらったCD。 ↓
彼は名前から分かるとおり、日系人です。
この辺りの出身のようです。
詳しくは、彼のHPに書かれてあります(英語版)
また、短い記事ですが、彼の履歴を簡潔に日本語で紹介しているものがこれです。
http://www.chikawatanabe.com/blog/2004/06/post.html
彼のピアニストとしての履歴はちょっと変わっていて、「遅咲き」という言葉がぴったり。
子供の頃からロシア人の先生に教わってはいたものの、彼はスタンフォード大学でドイツ語を専攻し、マスターを取って、しばらく高校でドイツ語教師として働いていたそうです。
1997年、Tenth Van Cliburn International Piano Competitionのゴールドメダリストに輝き、そこからヨーロッパや日本でも演奏活動をするようになったようです。
1998年と99年にはホワイトハウスに招かれ、クリントン大統領夫妻の前でガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」を演奏したとか。
さて、後半はマーラーのシンフォニーだったのですが、大曲で聴いていて疲れてしまいました。
10時過ぎに終わって、ロビーに下りると、なんと、そこにはまだJon Nakamatsuがいて、相変わらずニコニコとサインに応じていました。
今や偉大なピアニストのひとりなのに、飾ったところや神経質そうなところが全くなく、「CDを買ってくれた全ての人にサインするまでは帰らない」みたいな姿勢が感じられました。
そういう人柄がまた、彼のファンを増やしているのではないでしょうか。
日本へも演奏旅行しているようなので、もし、機会があればぜひ足を運んでみてください。