「オフ会で男と会ってくる」
妹のこの発言を聞いた時、私は極大の不快感に襲われた。
昨日の話をしよう。
紅チャリです。
オフ会…何の?
スカイプで知り合った奴?
オフ会なのに1対1?
山の麓のホテルに相手は泊まる予定だけど場所が分からないらしいから案内してくる?
でも私も道分からない?
じゃあオフ会って?
…嫌な予感しかしない。
聞けば聞くほどワケが分からぬ妹の発言。
しかし家には僕しかおらず、私は外出許可を与えるべきか否か判断に困窮した。
オフ会の相手は近所のパチンコ屋まで出向いてきているというのに、
我が家まで顔を出そうとしない。
家の窓からパチンコ屋の方を見てみると、なるほど、
それっぽいのが突っ立っておる。
「だったら俺がクルマでホテルまで送ってやるよ、そいつを」
「いや、そんなことはしなくていいよ」
「そいつ明らかに怪しいぞ。電話で聞いてみろ」
…某国立高専の方ならご存知かと思うが、
山のふもとのホテルって、某宝石の名前の付いたラブホの事に他ならない。
1人旅ならば、ラブホは宿泊代が安いらしいから理解できないでもないが、
空はすでに夕暮れで赤く染まっている。
こんな時間から妹をラブホまで送り出すようなことは、
未成年の女子の兄貴としては許されざる事なのである。
…などということを考えているうちに、妹の電話が終わったらしい。
「私と一緒に泊まるつもりだったって…」
…ほれ、見たことか。
そいつは関東の秘境と呼ばれる某県からはるばる、
股間おっ勃ててお前の貞操を奪いに来たのだ。
遠路はるばるやってきた結果がウチの妹だったというのは非常に申し訳ないけれど、
そんな話はどうでもいい。即刻お引き取り願おうか。
「かわいそうなので駅まで送ってくる」
ああ、それくらいならば仕方あるまい。
早く帰って来いよ。変なことされそうだったら逃げろよ?
「股間蹴りあげて逃げてくるわ」
ならばよし。
~5時間後~
…全く良くなかった。
時刻は23時を回ったところ。
歩いて20分ほどの駅まで行っただけのはずの人間が、
5時間経っても帰って来ない。
「町内にいる。ジュース飲んでる」というメールを最後に、
携帯を切ったのか連絡が全くつかない。
私はそろそろ寮へ向けて出発せねばならないのだが、
親父が酒に酔ってグデングデンの状態で、
まったくあてにならない状態なのでそうもいかぬ。
オカンを連れて深夜の町内大捜索が開始した。
「ジュース飲んでる」という発言から、町内の飲食店をしらみつぶしに探すも手掛かりなし。
この時間帯になると閉まっている店がほとんどであり、何の成果も得られなかったに等しい。
TSUTAYAやゲオなど、若者が顔を出しそうな店舗にも出向いたが、結果は同じであった。
ただ、駅に妹の自転車の陰は無く、無茶なことをしていない限り町内に居ることは確定した。
…となれば、最早行き先はひとつしかないではないか。
某ラブホである。
この世に生を受けて21年、もうすぐ22年になるが、
初めてラブホという未知に満ち溢れた新大陸に上陸した瞬間である。
些かコロンブスやマゼランやバスコ・ダ・ガマのような心境であった。
また、オカンとともにラブホの敷地に入るという超体験もしてしまった。
しかし、そのような些細な心情は、即座に遠い彼方へとはじけ飛んた。
妹のチャリがそこにあった。
あとはもう怒りにまかせて乗りこむのみである。
ロックはかかっていたが、特に目立った抵抗も無く敵軍は投降した。
妹はすぐに出てきたが、相手方の男(以降、サル)は、逃げるように部屋の奥に引っ込んでいったため、
遠方から遥々本能丸出しでいらっしゃったおサルさんのご尊顔を拝むことはできずじまいであった。
無論、サルがオカンと私に謝罪するようなことは一切なかった。
部屋の中へ乗り込んで一発ぶん殴ってやろうかとも思ったほどである。
ホテル代は無論全額そのサルに払わせて、我々は妹を連れて早々に帰宅した。
…以前から妹はネットで知り合った人間とやたら交流があり、
その人たちをやたらと根拠の無い信頼をする節があったから、
危ないなとは思っていたのだが、現実になってしまった。
股間蹴りあげて逃げるはずだったんだろうお前。
「何回も帰ろうとしたけどその度に抱きつかれて「帰らないで」って言われた」
そーゆーからくりか…
何よりも初対面の未成年者捕まえてラブホへ連れ込むサルは、
怒りを通り越してもはや呆れるばかりである。1周して怒りまで戻ってくるのだが。
最近の若い人はこんなもんなもんなのかもしれないが、
我が家ではそれは許されない。
聞けばそのサルも19歳だという。どうなってんだ全く…
…という夢。
ではない。
この物語はノンフィクションです。
それではまた、明日の更新で。
にほんブログ村 平社員(一般社員)
人気ブログラングへ