続212冊目『暗闘 上』(長谷川毅 中公文庫) | 図書礼賛!

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暗闘(上) - スターリン、トルーマンと日本降伏 (中公文庫)/中央公論新社

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駐ソ大使の佐藤尚武は、再三、帝国政府のソ連対策を見直すように提言を続けていた。「佐藤ロングテレグラム」(佐藤、一四二七号)と呼ばれるメッセージでは、「すでに抗戦力を失ひたる将兵およびわが国民が全部戦死を遂げたりとも、ために社禝は救はるべくもあらず。七千万人の民草枯れて、上卿一人御安泰なるを得べきや」と不敬罪に問われてもおかしくない中身だった。そして、ポツダム宣言が世に出された後、帝国内では、どのように対処するかが議論された。相変わらず、ソ連に斡旋を依頼する従来の立場を堅持したまま、ポツダム宣言を「無視」することにした。これが、有名な鈴木貫太郎首相による「黙殺」声明だが、どうもこれは鈴木首相はこの言葉は使っていないらしい。報道の一人歩きが、対外政策にまで影響を与えたとなれば、事は重大だが、帝国政府は、訂正する努力も見せなかった。そして、ついに、米国は二発の原子爆弾を日本に投下した。

以上が、『暗闘 上』の中身である。時系列的にはうまく整理されていないし、重要な事実の指摘のし忘れもあると思うが、ひとまず事情の一端は垣間見れたはずである。本書を読みながら、降伏をもっと早くできなかったものかと訝しく感じること、頻りであった。また、ひとつの国においても様々な立場があることが改めて分かった。「米国は、…」、「日本は、…」という国を擬人化した歴史語りは、話の単純化に役立つか実装からほど遠くなってしまう。帝国日本にも、もちろん和平派はいた。原爆が投下される前から和平工作を練っていたが、彼らが表立って活躍するのは、原爆投下後である。私たちが、この戦間期の歴史から学べることがあるとしたら、その一つはまず、いかに国内の和平派が主導権を握れるようにすべきかということだろう。もちろん、開戦に至らないことが一番いいのだが。