トキたちが通された部屋は、予想より狭く少し質素な感じだった。

同じホテル街とはいえ、やはり建物内の造りや装飾には差が付けられているようだ。


「まぁ、なんせタダだしな~」

「タダにしては、すっごく良い方よね~♪」


クラウドとキラは相変わらずで、それぞれに部屋の感想を述べる。

先程横切った一際豪華なホテルより劣っているとはいえ、旅人には贅沢すぎる程の施設である。


「2人とも、タダタダって・・・」


トキはため息をついた。

確かに無償でここまでの部屋に宿泊できることはありがたいが、

2人にはもう少し礼儀をわきまえて欲しいものだ。


「見て見てー トキ!! ベッドがフカフカよ」

キラは疲れを忘れてはしゃいでいる。

「しっかし、豪華だな。こんなじゃ儲けがないだろうに」

クラウドが窓辺に設置された小テーブルの装飾を突付きながら言った。


「よっぽど人を集めたいんだろうな」



町の通りは、住人の他に観光客や旅の通行人で賑わっておりその分流通が盛んになる。

小さな市場でさえも、十分にその恩恵を受けているようだった。

国を挙げての町の改革は大成功を治めているといえよう。



「ところで」


しばらく、部屋を見て回ったあとトキが口を開いた。

「あなたはいつまでここでくつろいでいるつもりですか」

トキの視線が流れる。

視線の先の相手は言うまでもない。


「・・・え、俺?」

「他に誰が」


備え付けの椅子で優雅に座っていたクラウドは、しばらくシクシクと泣き真似をした。

ひどいよ~トキぃ

俺たち仲間じゃん~

などという呟きなど無視したトキは、即座に退室を促す。

「一人ずつ部屋を与えられたんですから、自分の部屋へ行ってください」

トキのペットとして登録したキラは人数には入っておらず、

そのキラがすでに一つしかないベッドの真ん中を陣取っているのだから

出て行くのは必然的にクラウドということになる。


「えー、別にいいじゃねぇか。二部屋借りたって同じとこで寝ても」

「何の為に」

「つれないな~ 俺たち友達だろ?」

「それは初耳ですけど」

「俺、夜は一人じゃ眠れないんだよな」

「知りません」


いつまでも小さな子供のように駄々をこねるクラウドにトキはそろそろ嫌気が指してきていた。


「俺、この部屋がいいんだよっ」


「・・・わかりました」


え!?という驚きと期待の入り混じった声を上げたクラウドを横目にトキは入ってきたドアに手を掛けた。

「ぉ、おい!どこいくんだよ」

「あなたがそんなにこの部屋がいいなら、僕がもう一つの部屋へ行きます」

「なんでそうなるんだよ~! トキは俺が嫌いなのか」


トキの肩がピクッと反応する。

クラウドには背を向けたまま、トキは少し俯いた。

「嫌いっていうわけじゃ・・・ありません」


「えっ」

急に素直な態度を取られて、調子を崩されたのはクラウドだ。

「リザさんの所では、本当にお世話を掛けました」

「や、何言ってんだよ! あの時はお前、体の調子が悪かったんだし。全然構わないって言っただろ」

「・・・・・・」


「クラウドったら、意外とまだお子ちゃまなのね」

妙な雰囲気に包まれた2人の空気を打ち破るようにキラが口を挟んだ。

「トキは旅をしてきて、誰か人に頼ったことがないの。 自分の弱みも見せたことが無いわ。

 それなのに、クラウドなんてよく分かんない男とあんなに長く関わりあったんだもの。

 戸惑っているのよ」


「っキラ!!」

トキは顔を赤らめながらキラのおしゃべりを抑制した。

「余計なことは言わなくていい。ほら、行くよ」

ドアを開けるトキにやや強めに捕まれたキラはクスッと笑いながら去り際に言った。

「恥ずかしいのよ。・・・あんたとどう接すればいいのか、わからないのね」

トキは耳まで紅に染めていて、キラの最後の言葉までは聞こえなかったようだ。


「あんたが、本当にトキの仲間になるって言うなら 最後まで傍で。 ・・・守ってあげて」


目を見開いてボーとしていたクラウドが「ちょっと待って」と言う前にドアは静かに閉められた。

部屋に取り残されたクラウドは、惨めさと恥ずかしさと戸惑いを隠しきれないと言った様子でベッドに飛び乗った。

「クラウドなんてよく分からない男、ってなんだよ。 ”なんて”は余計なんだよ・・・」

クラウドの蒼い瞳は先までのトキの様子を写しだし、キラの言葉に揺らめいでいた。




                        by 蓮