扉の向こうには真っ直ぐに伸びた歩廊のような空間が広がっていた。
四方は真白い壁に包まれ、まるで建物の中にいるような雰囲気だった。
脇には等間隔で蝋燭に炎が灯され辺りを照らしている。
その光景を見ていると、自分は夢でも見ているのではないかという錯覚に陥りそうだ。
その歩廊の遙か向こう側に先程とは打って変わって小さな扉が見えていた。
「一体どうなってんだ、ったく。本当にこのまま進んで大丈夫なのかよ」
この不可思議な現象を理解できずに頭を悩ませているクラウド。
「四の五の言わないの。道は一つしかないんだから。それに…」
「それに何だよ。最後まで言えよ」
珍しく言葉を躊躇ったキラにその先を話すよう促す。
「アンタ、トキと一緒に旅する気ならこんなことくらいで驚いてたらやってけないわよ」
少し冗談交じりにそう語ったが、決してそれだけではないということをクラウドは瞬間的に悟った。
「別に驚いてなんかねぇよ。ちょっとビックリしただけ」
「バカね、同じじゃない」
「なんとなくニュアンスが違ぇの。つーか、トキって一体何者?こんなおかしなことにしょっちゅう巻き込まれてんの」
「ま、本人に聞いてみることね」
「何だ、教えてくれねぇのかよ」
そう言い”ちぇっ”っと舌打ちして、後でトキに聞いてみようかどうか考えていた。
一方、当の本人は二人の話には耳も貸さず、ひたすら扉へと続く白一色の道を歩み続けていた。
ついに扉の前に到着し、トキが扉を開こうとした瞬間、それはクラウドの声によって制止させられた。
「ちょっと待った!次こそは俺が開けてやる」
先ほど扉を開けることができなかったのが悔しかったのか、
トキにいいところを見せようと思っているのかはわからないが、自ら扉を開けることを志願した。
「やめときなさいよ。どうせ開きっこないから」
キラが飽きれた口調で言う。
「そんなんわかんねぇだろ」
「わかるわよ」
完全にそう言い切った。
キラはなんとなく悟っていた。この先にはトキが言っていた魔女がいるであろうこと。
そして、魔女に招待されているのはトキだけだということを。
だから、扉を開くことはトキにしか許されていないのだ。
案の定、扉は開かなかった・・・。
クラウドは一人その場にしゃがみ込み落ち込んでいた。
「チキショー・・・何で開かないわけ。一体なんなんだよ。俺専用の特殊な嫌がらせのつもりかよ」
などとブツブツ言っている始末で半ば手に負えない。
「だから、言ったでしょ。さ、トキ早く扉を開けて中に入りましょ」
「うん」
そう言って手を触れると、またしても扉は簡単に開いた。
「クラウド、アンタもいつまでもそんなことしてないで行くわよ」
「はい・・・」
意気消沈した声でそう呟いた。
扉を開くとそこは大広間のような場所だった。
先ほどと同様四方を真白い壁に囲まれていたが、
壁にはこの部屋へと繋がるであろう白い扉が点在しており、
ちょうどトキ達が出てきた扉の正面には一つだけ黒に塗られた扉が印象的に映っている。
部屋の真ん中にはぐるりと一回りの溝が掘られてあり水が張ってある。
そして、溝に囲まれた中心の空間に彼女はいた。
トキが捜し求めていた女性、
エメラルドグリーンのゆるやかなウェーブのかかった髪を靡かせ
薔薇の香りを漂わせる砂漠の伝説―――
彼女はトキ達の気配に気付き、ゆっくりと振り向いた。
そして、一言告げる。
「こんにちは」
その声はまるで待ち侘びていたかのように静かに優しく、トキの耳に響いた。
by 沙粋