「お兄ちゃん、魔女に会ったの?」

    「うん、ここからは随分遠いけど東の方に行くと大きな砂漠があって、そこに昔から住んでる」

    「本当に?」

    「本当だよ。お兄ちゃんがトキに一度でも嘘をついたことあったかい?」

    「ううん、ない」

    「トキも大きくなったら会いに行ってみるといい」

    「うん、絶対行く!」


    他愛もない会話―――

    これは僕…… 昔の僕と兄さんだ


    兄さん、僕は魔女に出会ったよ。昔、兄さんが言っていたように…



「―――キ、トキ!」

誰かが僕を呼んでる。一体誰…?

ゆっくりと瞼を開いみる。目が霞んで視界がぼやけていた。

意識も少し覚束無い。けれど、確かに目の前には誰かがいる。

「・・・誰?兄さん?」

思考が追いつかないまま言葉を放った。


「おい、トキ。大丈夫か!」

「トキ、しっかりしてよ」

肩を揺さ振られ正気に戻った。

クラウドとキラが心配そうな顔で自分の方を覗き込んでる。

我に返り、ガバッと上体を起こした。

 ズキン――

「っっつ!!」

鈍痛が左足に走った。足首を捻ったみたいだ。

「トキ、大丈夫か?」

クラウドは何度もその質問を繰り返した。

「大丈夫です」

足は痛むが歩けないほどではなかった。


辺りを見渡すと岩がゴロゴロしているのが目に入る。その岩のくぼみに水が溜まっている。

その水を手に掬い渇ききった喉を潤した。それにしても自分はなぜここにいるのだろうか。

「どうして僕たちはこんなところに・・・」

「落ちたのよ」

キラが神妙な面持ちで語る。

「私もよくわからないんだけど、砂漠の下に空洞があったみたい。

 砂に呑み込まれたと思ったら突然ここに落ちたの。ほら上を見て」

視点を上ずらすと確かに一面砂だった。そんな事在り得るはずがないのに。

その光景はまるで時間が止まっているかのようだ。

あの小さな砂の粒が空(くう)で静止している。

「トキが気を失っている間に少し調べてみたんだけど、

向こうに大きな扉のようなものがあるの。押しても引いてもビクともしないんだけど。

それ以外に道はなかったわ。どこも砂の壁で行きどまり」

トキは少し思案してから口を開いた。

「――わかった。もう一度そこに行ってみよう。とにかく出口を探さないと」


これは魔女の仕業なのかもしれない。

あの静止している砂といい、人が為せる業じゃない。

きっと、この場所のどこかに魔女はいる。


そう確信し ”早く逢いたい” その想いがトキを突き動かした―――



                                                by 沙粋


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