宿の外に出ると、明るい朝陽が射す。眩しくて、トキは思わず目を閉じた。

頭の上に手をかざして、光への目の直視を避けると

少しずつその瞼(まぶた)を開いた・・・


すると、目の前にはなぜかクラウドが。

「!・・・なんの用ですか?」

顰(しか)め面のまま、トキが一言。

昨夜の”トキ 女の子疑惑”事件で、彼も相当懲りたと思っていたのに。

クラウドは昨日のようにトキに笑顔を返した。


「さぁて、どうしようか?」

クラウドが街の広場の方へ歩き始める。

トキはそれをぼーっと見ていたが、キラの「どうするの?」の一言で

思わず彼の後を追った。

――どうせこの国の中を見て回ろうと思っていたし

別に1人で行っても良かったのだけれど、ただ 何となく・・・

自分の行動にどこか疑問を持ちながら、トキはクラウドの2歩程後ろを歩いていた。

キラは何だか楽しそうだった。


トキの足音に気付いたクラウドは、広場に抜けると

大きな噴水の前でくるりと振り返った。そして、今までで1番嬉しそうな笑顔を見せた。

「・・・(この人、こんな風に笑えるんだ)」

トキの長い髪が風に吹かれて靡いた。

その細くてサラサラの髪を見れば クラウドが”女の子”と間違えても、無理も無い話だ。

トキがジッと視線を送るものだから、クラウドも照れくさくなったのかポリポリと頭を掻く。

「お前本当に男なのか?」

「はい」

クラウドは、やっぱりそうなんだよな、と残念そうに改めてその事実をかみ締めている。

噴水から出た細かい水飛沫がクラウドの短く蒼い髪にかかる。
「まぁ、トキが可愛いのに変わりはないんだし。俺は別に男だっていいんだけどな!!」

開き直った表情で冗談を言う。多分、冗談だ。

トキもなぜだか微笑を返してしまっていた。

クラウドがあまりにも気持ち良く笑いかけたから・・・


その時、バッと急にトキの目の前が闇に包まれた。

    ――― 足元には大量の血

         空は暗くて、体が震える程寒くて

         凍てつく表情  哀しい背中


    ――― 今度は眩い光に包まれて・・・

          「まってよ~!!・・・ちゃん」

         小さいトキが笑いながら走っている

         「まって!おにいちゃん!!」

         トキの前方に走っている人影。

         逆行で顔が良く見えない

         「トキ・・・こっちだよ」

         大きくて、暖かくて、優しくて

         トキは”おにいちゃん”が大好きだった

         笑顔に溢れていた・・・遠い 遠い 記憶


    ――― そして その幸せを一瞬で消し去り再び戻ってくる暗闇。

          幼いトキの、小さな少年の両手には生々しく、そして溢れんばかりの血

          表情は歪み、心は砕かれ

          少年は その時、全てを奪われた・・・




ハッとした。

見ると、クラウドがさっきのまま、その笑顔をこちらに向けている。

しかし トキは彼に背を向けて、ギュっと拳を握り締めた。

キラが心配そうに様子を伺う。

「どうした?トキ?」

クラウドも また怒らせてしまったのか、と不安そうに聞いてきたが

トキはだんだん居たたまれなくなって、ついにはその場から駆け出した。

残されたクラウドは、

「ありゃりゃ・・・そーとー嫌われてるなぁ。俺」と言いながらトキとは反対の方向へトボトボ歩いていった。


                                                              by 蓮




クロニクル★目次へ