「・・・・・」

トキは絶句した。部屋は一人部屋だった。もちろんベッドは一つしかない。

ふとクラウドの方を見ると、なぜか目を輝かせていた。

どうせまたくだらないことを考えているんだろうと思い、一応キラの方を見て

合図して、すかさずトキは部屋を出ようとした。

「どこ行んだよ。トキ」

クラウドは慌ててそう尋ねた。

「ここは一人部屋でしょう。あなた一人で好きに使ってください」

クラウドは目を丸くした。

「えっ!?じゃあ、トキはどうすんのさ」

「その辺で野宿します・・・」

「そんなの絶対ダメ!」

何がダメなのかよくわからないが、トキにしてみれば、

ここに泊まるよりは野宿の方が数倍マシだった。


「トキがベッド使っていいから、出てかないでよ」

とにかく必死でトキを止めようとしている。この様子では、トキが泊まると言わない限り

納まりそうもない。何でこんなことになったんだとか、いろいろ頭では考えたが、

トキも長旅のせいで疲労がたまり、眠気が襲ってきていた。

「わかりました。けど、ベッドはあなたが使ってください」

「じゃあ、トキは?」

そう問われ、部屋のベッドとは反対側の隅を指差した。

「そこで寝ます」

そう言って、トキは部屋の隅へ行き、そこに座り込んで

自分の横に一枚の綺麗なハンカチを敷いた。

「ありがと」

キラがそう言い、ハンカチの上で眠る体制に入っていた。

そして、トキも眠ろうと瞳を閉じたその瞬間―――


フワッと宙に浮く感覚に襲われた。瞳を開けると、なぜかクラウドに抱きかかえられていた。

「ダメだよ、女の子がそんなところで寝ちゃ」

その言葉に驚き、一瞬硬直してから、トキは赤面し、クラウドの腕の中で叫んだ。

「なっ、僕は男です!離して下さい!!」

どうして、クラウドが自分に対して "ちゃん付け" してたのかやっと分かった。

クラウドは自分を完全に女の子だと思い込んでいたのだ。

「アハハハハ」

その二人のやり取りを見ていたキラが大爆笑している。



「えっ!トキが男・・・・?」

クラウドは、信じられないといった顔つきでトキの方を見たが、

まだ自分の腕の中にいる綺麗な顔をした人間が男だとは到底思えなかった。

クラウドはとりあえず、トキをベッドの上におろした。

「おっ、落ち着いて話し合おう」

しどろもどろになりながらクラウドが言った。

「僕は、落ち着いています」

「うわぁ、また僕とか言ってるし!!」

頭を抱えながら、じたばたと大騒ぎしている。


その隙を突いたようにキラが口を挟んだ。

「女の子は床に寝ちゃいけないんなら、もちろん、私がベッドで寝てイイってことよね」

悪戯っぽくそう言って、ベッドに飛び乗りトキの横でスヤスヤと眠りについた。

キラがいいところを全て持っていった気がした。

そんな中、クラウドは部屋の片隅でこの世の終わりが来たかのように落ち込んでいた。


もうどうでもいいと思い、トキもそのままベットに寝転び眠りについた。

クラウドがいつまで落ち込んでいたのかは不明―――



―――次の日の朝


トキが目を覚ますと、そこにはクラウドの姿がなかった。

昨日の落ち込みようからすると、合わせる顔がないから逃げ出したのかと思った。

とりあえず、部屋を出て歩いていると、クラウドが宿のおばさんと何か話している。

「おはよう、トキ。今、いいこと聞いたんだ」

トキに気づきクラウドが声をかけた。昨日の事はまるでなかったかのようだ。

立ち直るのも早いのか、と半ば呆れたが。とりあえず挨拶を返した。

すると、クラウドが手招きしてきた。

「おばさん、トキにも話してやってよ。その魔女祭の事」

「魔女祭?」

トキは、何のことか全然わからなかった。

「この国に昔からあるお祭りの事だよ」

おばさんは、魔女祭について話してくれた。


魔女祭っていうのは、年に1回魔女を祝うお祭りでそれが今日だという事。

そして、夜になると人々は魔女の仮装をする。しない人もいるらしいけど、

ほとんどの人はやるらしい。太陽が沈むと開始の合図として花火が打ち上げられる、

それからは夜中まで楽しく騒いでそれでおしまい―――


「それって、ただのお祭りじゃない、魔女に何の関係があるの」

トキはおばさんに聞いたことを、部屋に戻ってキラに話していた。

「確かに・・・」

「それは俺が説明してやるよ」

どっから出てきたのか突然クラウドが現れた。

「魔女祭の魔女の意味は、昔この国に住んでいた実在の魔女の事らしい。

で、その魔女がイイ奴で、貧しい人々に食べ物とか薬とかいろんなものを

魔法を使って出してやってたんだ。でも、悪いやつが現れて魔女の力を利用しようとした。

だから、魔女は砂漠の真ん中に身を潜めたんだ。魔法が悪用されないように。

魔女はこの国が本当に好きだったんだ。でも、出て行くしかなかった。

魔女に救われていた人々は、魔女がいなくなってから考えた。彼女の為に何かできないかと。

で、魔女祭を始めようって事になった」

「どうして、それが魔女の為なの」

納得のいかない様子でキラが尋ねた。

「つまり、みんな魔女の仮装をするだろ。本当の魔女がいてもわからないじゃん。

そうやって、魔女が一日だけでもこの国に帰ってこれるようにしたってわけ」

「なるほどね~」

キラは納得した様子で言った。

「今も魔女は生きているのかな」

トキは呟いた。

「さぁ、もう100年以上も前の話らしいし。生きてたとしても、

もうよぼよぼのおばぁちゃんだろうなぁ」

「そうですよね・・・・」



                                        by 沙粋




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