ドンッと路地の壁にクラウドを押し付けるトキ。

これ以上迷惑を掛けるな

と言わんばかりの怖い形相で睨むトキとキラに、さすがのクラウドも反省したようだ。

「大体レディーの体を触るなんて、男として最低よ!!」

キラはプンプン怒っている。

「でもさぁ、喋るウサギなんて珍しいもん見たら。そりゃあ、びっくりするさ」

クラウドの言い訳もわかる気がするが、トキはあえて口を出さなかった。

狭い路地裏でギャーギャー言い合いをするクラウドとキラ。

トキはもう、「いい加減にしてくれ」と壁にもたれかかった。


と、その時 トキは急に男性の声を聞き取った。

「どうかしたのですか?」

見ると、若く警官らしい一人の男性が帽子を整えながらこちらに近づいてきた。

相変わらず言い合いを続けている二人は気づいていないらしい。

――まずい。

トキは急いで駆け出し、二人の間に割って入った。

合図を送ると、キラもようやく男性に気づいた様子で

ピョンと肩に飛び乗ると、口を閉じた。

問題は、こっちだ・・・

トキはめんどくさそうにクラウドを見た。

すると、彼は突然トキの手首を掴んで

「何?トキも仲間に入れてほしかったのか!?」

相変わらずニコニコ顔でくだらないことを言う。

・・・もう、この人。嫌だ。

トキがそう思ったその時だった。

こちらに向かって歩いていた警官が、何を見間違えたのか

「君たち!何をしているんだ!!」と険しい形相で走ってきた。

「そこの男!子供相手に何をしているんだ!!その手を離しなさい」


「「!!」」

完全に、何か勘違いしてる。

トキは慌てて、クラウドの手を振りほどき

「違うんです。これは・・・」

そう言おうとした、が。


「いや~ ヤダなぁ。オマワリさん!!この子は俺の連れだぜ」

「えっ」

トキは否定しようとしたが、クラウドはグイッとトキを引き寄せて肩に手をやった。

「なっ!」

トキはクラウドを蹴飛ばしてやろうと思ったが、キラにつつかれて警官の方を見た。

疑いの眼差しでこちらの様子を伺っている。

「・・・・」

トキが諦めて、クラウドの腕の中に落ち着くと。

「じゃあ、オマワリさん。失礼するよ!!行こうぜトキちゃん♪」

トキも嫌々クラウドと並んで歩き出した。

後ろを振り返ると、まだあの警官はこちらを見ている。

「困ったね~」

クラウドがこっそり、しかしとても楽しそうに言う。

トキとしては誰のせいでこんなことになってると思ってるんだ、と言いたい所だが

そこは堪えて、

「何とか あの人を撒かないと」


すると、クラウドは思いついたようにトキと手を繋いだ。

そして、小走りで路地を走りぬけた。

何をする気だ、とトキは考えていたが

クラウドは小さな宿屋を見つけると、トキの手をひいてそのドアを開けた。

「おばさん、部屋空いてる?」

クラウドは宿屋の女性に気さくに話しかける。

「おや、いらっしゃい。1つだけなら空いてるよ!!」

「じゃあ、その部屋。貸してくれよ」

と、クラウド。

トキが半開きのドアから外を見ると、さっきの警官がまだ居たが

トキ達の様子を見て、ようやく納得したのか。クルリと回れ右をして去っていった。


ほっ、としたのもつかの間。

「じゃあ、俺たちの部屋へ行こうか。トキ」

クラウドのありえない言葉に、トキは思わず大きな声で

「なぜですか?もう、あの警官は行ったじゃないですか」

と言い返した。

「でもさぁ、もう部屋。借りちまったし・・・」

部屋のキーをチラつかせながら、クラウドが子供のようにゴネる。

外はもう、日が傾いていたし

今から宿を出ても、トキ一人だと迷子になるのが関の山だった。

キラも久しぶりに騒いで疲れたらしく、眠そうにしている。


ハァ、とため息をついて。

トキは部屋に入ることにした。

「一番奥の部屋だってさ!!」

クラウドはまた調子に乗ってはしゃぎだした。



                                          by 蓮



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