―――カキンッ
瞬間、赤いバンダナを巻いた盗賊の短剣が宙に舞った。
盗賊たちは何が起きたのかわからなかった。
トキとキラは驚いた。クラウドは、ものすごい速さで剣を操り、盗賊の短剣を
弾き飛ばしたのだ。それは、並みの修行で身に着くような技術ではなかった。
「トキ、アイツ本当に強い・・・」
真剣な面持ちでキラが言う。
「油断しないで、もしかしたら何か企んでいるのかもしれない」
「わかった」
言われなくても十分に警戒しているが、もし本当に彼が敵だったら、
自分は勝てるのか、と一瞬不安になった。
クラウドは盗賊たちを睨みつけている。先ほどまでのちゃらけた表情から
打って変わって、その表情には、殺気さえ感じられた。
そして、剣を構えたまま盗賊たちの方へ、ゆっくりと歩み寄っていく。
「ヒィィ!!」
「なっ何だコイツ、ほんとに強ぇ!」
盗賊たちは狼狽している。赤いバンダナの男は、顔を真っ青にしながら
震えた口調で
「クソッ!覚えてやがれ!!」
そう言い残し、そそくさと砂漠の中へと消え去って行った。
クラウドは剣を鞘に納めた。
「どぅ、惚れたぁ♪」
くるりとトキの方へ身を翻し、またさっきまでのふざけた口調で、トキに絡んだ。
「「・・・・・・・・・・」」
トキもキラも沈黙した。そして、無視したままクラウドに背を向け、早足で歩き出した。
「あぁ~、ゴメン冗談だから、置いてかないでよぉ」
情けない声で、後ろから叫ぶのを気にも留めず歩いた。が、
まだクラウドが何か言っている。
「トキちゃ~ん、アラバスはそっちじゃないよ」
その声に反応して、ピタと足を止めた。
「どうするの、連れってもらう?このままじゃ、一生着きそうにもないし・・・」
キラが、小声で聞いた。
少し悩んだ、そして、渋々クラウドのところへ戻った。
それから、1時間ほど歩いたところで、砂煙の中にうっすら城壁のようなものが見えてきた。
その城壁の入り口であろう場所の脇には、大きな赤い布製の旗が掲げられている。
「ほら、トキちゃん。あれが、アラバスだよ」
ふざけてそう言ったクラウドを、トキは睨みつけた。
「あはは・・・冗談だよ」
わざとやっている事に気付き、トキはこれ以上相手にしないことにした。
アラバスに着けば居なくなるのだから、我慢しようと心の中で呟いていた。
――――アラバス入国
「・・・・どうして、着いて来るんですか」
「だからぁ、興味があるって言ったじゃん」
アラバスに入ってから、ずっと着いてくるクラウドに向かって、
先ほどから何回も同じやり取りが繰りかえされていた。
「この国に連れてきてもらったことは感謝します。でも、これ以上
着いてこられるは迷惑です」
きっぱりそう言った。しかし、そんなことは微塵も気にしていない口調で、
「大丈夫だって、いくら俺でも会って間もないトキちゃんを襲ったりしないよ」
などと、訳のわからないことを連発している。
「だから、そういう意味ではなくて」
もう呆れて返す言葉すら見つからなかった。
「~~~もう!しつこいって言ってるでしょー!!!」
終いにはキラが切れて、クラウドに向かって大声で叫んだ。
「キラ!」
トキが焦って静止しようよしたが、時既に遅し―――
「うわぁ、しゃべったぁ~!何、どうなってんの」
興味深々でキラを掴み、ベタベタと触りまくっている。
「ちょっ、どこ触ってんのよ!」
「また、しゃべった!すげぇー」
あまりの騒ぎっぷりに、周りの人がじろじろと不審な目でこちらを見ている。
トキは慌ててクラウドを引っ張り、人気のない路地へと連れ込んだ。
by 沙粋