トキはオブシディアに向かって2、3発弾を放った。すると、水でできた触手は

四方八方に弾けとんだ。その一瞬の隙を突き、アンジェを抱えてドアまで走った。

「アンジェ起きて!」

キラは必死に叫んだ。アンジェは目を覚ます気配がない。

そうこうしているうちに、触手は形を取り戻し、襲い掛かってくる。

トキは振り返り、また、2,3発弾を放ち、ドアを出て階段を駆け下りた。

「トキ、外には出ないで、あれは水属性のオブシディアよ。雨の中の戦いは不利だわ」

トキは走りながら、頷いた。

マリア様の前まで来たところで、トキはアンジェを床に寝かせた。

さすがに誰かを庇いながらの戦いには慣れていない。

「どうしたらいい」

呼吸を少し荒らげながら、トキは言った。

「核の部分を探すの。そこを壊せば暴走は止まるはずよ」

トキは頷いた。触手は容赦なくトキ達を襲ってくる。トキは紙一重でそれをよけた。

触手は、そのまま直進してステンドグラスを突き破った。ものすごい音とともに、

マリア様は砕け散った。

「・・・何の・・・・・・音?」

その轟音で、アンジェが意識を取り戻した。そして、目の前に起こっている事態に驚愕した。

「マリア様が!!」

砕けたステンドグラスは音を立てながら床に散らばっていく。まるで雨のように・・・

バタンッ

教会の扉が開かれた。トキは扉の方へと振り返った。そこにはサラの姿があった。

「ママッ!!」

アンジェは今にも泣き出しそうな声で叫んだ。

トキは振り返った隙を突かれ、触手に弾き飛ばされた。触手は狙いをアンジェに定めた。

「「アンジェ!!」」

二人は叫んだ。トキは必死に立ち上がろうとしたが、衝撃でうまく体が動かせない。

「ダメ・・・足が、動かな・・・」

ドォン!!衝撃と爆音が教会の中に響き渡り、砂塵が舞い散り、辺りは煙に包まれた。

「アンジェ!」

トキは、痛みを堪えて立ち上がり、アンジェがいた場所へと走った。

煙が薄れていく・・・人影が見えた。

「アンジェ、怪我はな…」

そう言い掛けて、トキは自分の目を疑った。

そこには、アンジェとアンジェを抱え、血まみれになったサラの姿があった。

「マ・・・マ・・・・・?」

血みどろになった掌とサラを見つめ、放心状態のままアンジェは言った。

「アン・・・ジェ、大丈夫・・・・?」

「・・・・・うん」

訳がわからないアンジェは、無意識にそう答えていた。

「よかっ・・・・・・た・・・」

そう言い優しく微笑んで、サラは床に倒れこんだ。床には大きな血だまりが出来ていた。

それを見て、自分に何が起こったのか思い出し、真っ青になった。そして

「イヤダァァ―――」

アンジェは狂ったような声で泣き叫んだ。

トキも言葉を失っていた。

―――微かに聞こえる雨の音、大きな血だまり そして・・・・泣き声

ドクン・・・・

バシャ、目の前が赤く染まった。それは、確かに血だった

非力な僕を庇って死んだ、たった一人の僕の母さん・・・

 

"ぃやだ!母さん死なないで"

"泣かないで トキ そして・・・ 強くなりなさい

もう何も失わないために 大切なものを守れるように―――"

「トキ!!」

キラが叫んだ、トキは我に返った。触手が襲い掛かってきた。

「つっっ!」

トキの左腕をかすった。その瞬間、触手の中に小さな黒い物体が見えた。

「見つけた―――」

トキは呟いた。

「キラ」

「任せて」

トキは狙いを定めトリガーを引いた。しかし、銃口から発射されたのは

弾ではなく、白く輝く真珠のような塊だった。



     by 沙粋



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