ガロの酒場の入り口の前まで来て、トキは一度立ち止まった。
振り返って空を見上げる。
相変わらず雨は降り続いている。
「・・・」
「そういえばトキ、どうしてそんなに雨を気にするの?」
パンを食べ終わったキラが、満足そうな表情を浮かべながら問う。
「確かに、妙な力が働いて、故意に降らせているものだとは思うけど。」
「うん・・・」
トキは、何か考え事をしながら、しばらく立ち尽くしていた。
キラは満腹からくる眠気が一気に押し寄せ、うとうとしていた。
――― そういえば、"あの日"も雨が降ってたんだ ―――
静寂の中、雨音だけがノイズのように響き渡る。
記憶の中の幼いトキは、そのノイズに紛れて小さな泣き声を上げた・・・
雨に濡れるトキの横顔は、まるで涙を流しているようにも見えた。
その時ガチャ、と酒場のドアが開いた。
「!!」
トキはビクッと驚き、キラも飛び起きた。
「ななな、何事!?」
すると、中からガロが頭をかきながら出てきた。
「ああ、びっくりさせちまったなぁ。すまんすまん。」
トキは急いでキラの口を噤ませたが、もはや手遅れだった。
「なんだぁ、喋るウサギかぁ!?こりゃめずらしい。」
トキは黙っている。キラは汗をだらだら掻いている。
観念したトキは、キラから手を離した。
「ぷはー!おっちゃん、私を見てもそんなに驚かないのね」
「世界は広い。いろんなヤツがいるもんさ!」
そうなんですか、とトキも会話に入る。
「僕たち、教会に行きたいんですけど」
「トキは方向音痴だから道が分からなくなっちゃうのよね!」とキラ。
すると、ガロはハッハッと笑って
「そうか、それなら俺が連れてってやるさ。あそこはちぃたぁ、道が入り組んでるからな」
いいんですか、とトキ。キラは横で嬉しそうに飛び跳ねている。
「じゃあ、ちょっと待ってな。今仕度してくるからよ」
ガロはすぐに戻ってきた。
キラはもう隠れなくて済むので、トキの肩の上で伸びをしている。
二人は、酒場を出て 教会を目指した。
by 蓮