「どうって、見ればわかるでしょ。何かの仕業ね」

さっきまでとはウラハラに、落ち着いた口調で答えた。

そして、ベットから飛び降り、窓の前にある古びた棚に飛び乗った。

「どうする?」

そう問われ、キラは "決まってるじゃない" と言わんばかりに、その深紅の瞳をトキに向けた。

「…お人好し」

そう小さく呟いたが、聞こえていたらしく

「違うわ、自分の為よ」

とキラは返した。

「見て」

そう言って、キラはその小さなふわふわの手で窓越しに空を指さした。

「あそこに少しだけ赤みを帯びた雲があるのわかるでしょう?」

トキは立ち上がり、キラの隣に行きその方向を眺めた。

もう外は暗くなっているというのに、一部だけ赤みを帯びて

少し明るくなっているところがある。

「確かに。あの雲が原因?」

「違うわ、下を見て」

そう言われ、赤みを帯びた雲の真下にある建物に気付いた。

「あれは・・・教会」

「そうみたいね、あそこから何か不思議な力を感じる」

トキは、その言葉に反応した。そして、キラに何か言おうとしたとき

カツン、カツン―――

誰かが近付いてくるのを察知して、キラをバックに押し込んだ。

ドア越しに、その誰かが尋ねた。

「すいません。トキ君、まだ起きてらっしゃいますか」

宿の女性の声だった。トキはゆっくりとドア開けた。

「あの、パイを焼いたんだけれども、やっぱりいらないかしら」

少し寂しげな表情で、女性はパイを一切れのせたお皿を差し出した。

いつもなら断わるトキだが、その表情を見てうまく断わることができなかった。

「いただきます」

すると、女性は笑顔になり、トキにパイを渡した。

「まだ、たくさんあるから、いくらでもおかわりしてね」

嬉しそうに言って、女性は戻って行った。

「さて、どうしよう」

焼き立てのパイを見つめながら呟いた。

ガサガサ。キラがカバンの中で暴れていた。

しまった、と思いキラをカバンの中から引きずり出した。

「ごめん、いきなりだったから」

「ゴメンじゃないわよ!死ぬかと思ったんだから!!」

そう言ったキラが、あまりにもボサボサだったので、思わず

笑ってしまいそうになったが、これ以上怒られるのはゴメンだと思い、こらえた。

「そうだ、パイをもらったんだけど」

そう言いかけたが、最後まで言えずにキラが目を輝かせて

「食べる!」

と言ったので、差し出した。

「アップルパイだぁ」

そう言って、美味しそうに食べ始めた。

「でも、珍しいじゃない。他人が作ったモノもらうなんて、いつもは断ってるのに」

「ただ、なんとなく…」

それ以外、理由が思いつかなかった。

キラはパイを綺麗にたいらげた。それを見たトキは、話を元に戻した。

「さっき言ってた、不思議な力の事だけど…」

「違うわよ」

キラは、トキが何を聞こうとしているのか理解し即答した。

「そうか。なら、いいんだ」

少し残念そうな口調で、静かに言った。

雨は強さを増しているようにも見えた。一体、いつから何の為に降り続いているのだろう。

そんなことを考えながら、トキは久しぶりのベットの上で眠りについた―――


by 沙粋


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