トキの結った長い髪は、女性から貰ったタオルだけでは十分に乾かすことができなかった。
それを見た女性は、少し考えてから
よかったらお風呂をどうぞ、とトキを奥へ案内した。
ソレイユの中は、その概観とは裏腹にちょっと古臭い感じがした。
宿、と言うより普通の民家といった内装である。
トキは黙って女性の後についていった。
・・・しかし、思っていたより風呂場までの道のりが長いので
トキがいい加減「まだですか?」と聞こうとしたその時、
「ここです。」
女性は、にっこり笑って木製のドアを開けた。ここも、かなり古そうだった。
ごゆっくり、と言って女性が去ると
トキはしばらく辺りを見回していたが、特にすることも無かったので
勧められた通り、風呂に入ることにした。
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湯船に浸かると、浴槽いっぱいに入っていたお湯が少しこぼれた。
静かな風呂場に外の雨音だけが木霊している。
「・・・雨か」
その時、風呂場の前の廊下で人の声が聞こえてきた。
はっ、としたトキは急いで風呂からあがり、服を着て廊下に出た。
「あっ、もういいの?」
さっきの女性が、またにっこり微笑みながら尋ねてきた。
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、トキ君の部屋へ案内しますね」
その為に、わざわざ風呂場の前で待っていたのか?
トキは眉を顰めた。
「どうして、僕の名を?」
「あ、ああ。ガロさんから聞いたのよ。旅人さんなんでしょう。一人で大変ね」
「・・・」
部屋は、風呂場から随分近い所にあった。さっきとは大違いだ。
「ご飯は、どうします?」
女性が聞いてきたが、トキは
「いりません、ありがとうございます」
と言って部屋のドアを閉めた。
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トキは小さめの部屋に入り、ハンガーにコートを掛けて、傍にあったベットに腰掛けた。
やっと、落ち着けた。
ふと視線を落とすと、腰のウエストバックがモゾモゾと動いている。
「もう、いいよ。キラ」
トキが呼びかけると、バックから何か白いものが勢いよく飛び出した。
トキの横にちょんと腰掛けたのは・・・白銀に輝く綺麗な毛並みのウサギだった。
「狭いし、ジメジメするし。疲れたよぉ、トキ!!」
「仕方ないよ。検問で引っかかっても面倒だったし・・・」
「喋るウサギなんか見たら、皆が驚くから・・・でしょ!?」
トキの表情が少し柔らかくなる。
「それより、キラ。この雨、どう思う?」
ギャーギャーうるさいキラを軽くあしらうと、
振り続ける雨の様子を窓から伺いながら トキは話を始めた。
by 蓮