NHKスペシャル「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」 第3回「熱狂はこうして作られた」 その39 | 岩崎公宏のブログ

NHKスペシャル「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」 第3回「熱狂はこうして作られた」 その39

開戦直前の6日の朝日新聞には「徒らに遷延を図り、米、妥結の誠意ない」「対日包囲陣の狂態 わが平和的意図蹂躙 四国一斉に戦備開始」の見出しが躍った。

ほぼ同じ時期に発売されたアメリカの週刊誌「タイム」もトップ記事で「万事準備は整った。ラングーンからホノルルまで、全員が各自の戦闘部署についた。(中略)引き金を引く日本人の一本の指の震えか、どの方向かへの日本人の飛躍か、あるいは何か目立った行動かがあれば、それで十分であろう。わが陸海空軍の巨大な隊列が、いまや競技者が陸上競技場のスタートラインに一直線に並び、スターターの号砲を待つ緊張の一瞬を迎えているのである」と書いている。

日本もアメリカも戦争が始まる寸前であったということを認識していたということだ。

開戦直後にアメリカ政府は、日本が宣戦布告前に攻撃してきたことを厳しく批判した。日本の外交電報を解読していたアメリカ政府は日本が攻撃してくることは十分の承知していた。むしろ前回書いたようにヨーロッパでの戦争に介入するための口実として、日本が最初に攻撃をするように挑発していたと言ったほうがいい。

真珠湾攻撃隊を率いた淵田美津雄中佐は生前に「夏は近い」と題する回想録を残していた。この原稿を遺族から見せてもらった元NHKのプロデューサーで作家の中田整一氏が編集して、2007年(平成19年)に「真珠湾攻撃隊長の回想 淵田美津雄自叙伝」というタイトルで講談社から出版した。

この本によると真珠湾で攻撃を始めてから5分もしないうちにアメリカは反撃してきたことが記されている。淵田中佐は日本軍だったら反撃するまで30分はかかること、30分も反撃できなければその間の敵の攻撃でやられてしまって全く反撃はできないということを理由として、アメリカは騙し討ちされたのではなく、臨戦態勢を取っていたけど油断していて完全に防戦できなかっただけだという主旨のことを書いている。

アメリカ政府が日本軍の騙し討ちを強調したのは、真珠湾をはじめとして各地での被害があまりに大きかったからだ。上記のようにマスコミがこれだけ緊張感を煽っていたのだから、宣戦布告前の攻撃を批判するのは責任回避のための詭弁にすぎない。もし日本軍の攻撃を返り討ちにしていれば、宣戦布告が遅れたことなど全く問題にしていなかったはずだ。

開戦直前の世論についての証言テープが番組で放送された。

福留繁元海軍少将(開戦時の海軍作戦部長)「もうドイツと組んで戦をやれって空気が覆い尽くしていましたね。陸軍などはもうドイツの勝利は間違いないと、一般の空気はもう戦争論で日本は沸いてましたよ」

豊田隈雄元海軍中佐「この頃の世論っていうのは、相当やっぱり突き上げていたんじゃないですか」

柴勝男元海軍少佐「私もそう思っとった」

角田順東亜研究所調査員「しかし世論ってものはないですよ。あの時は本当の意味での世論はない。自分の意見の跳ね返りなんですよ。支那事変のときだってそうだし、自分で統制して一定の方向へ流しておいてですよ、流された勢いに今度は跳ね返って自分がまた流される」

4人の証言テープを聞いていて、フランスの哲学者アランは「戦争の真の原因は国民の熱狂にある」と喝破したことを思い出した。彼の言葉がこの戦争にも見事に当てはまっていることがわかる。



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