配当目当ての投資には興味がないと何度か書いているのですが、もちろん配当自体に興味がないわけではなかったりします。

 

…何のこっちゃという感じですが、改めて配当目当ての投資の何が個人的に気に食わないのかを述べてみると、配当をもらってから次の配当がもらえるまでの約3か月という長い期間、その時間が完全に死んでしまっている・その間資金がただ眠っているだけというのが、個人的にはどうしても我慢ならない、という感じになります。
(=いつ暴騰するか分からないボロ株への投資とは違い、次の配当日が事前に分かっているんだから、その間何もしないのはすごく機会損失をしている気がする、という感じです。)

 

もちろん高配当銘柄は優良成長銘柄であることが多いので、保有し続けていることに意味がないわけではないとは思います。

しかし、もし配当をもらうことそれ自体が最大の目的であるならば、配当をもらったらその株からはとっとと一時撤退して、次の配当までその資金を何か別の投資(もちろん、別の銘柄の配当をもらうという選択肢も大いにアリ)に回して利益を上げる、そして次の配当直前にまたスマシ顔でその銘柄に戻ってくればいいだけじゃないか、なぜ常にベストを尽くさないのか?と思えてしまうわけです。


(※毎度言っていますが、↑のことは、決して配当目当ての投資をしている方に向けて言っているわけではなく、自分の性格に照らし合わせて、もし自分がするなら自分に対してそう思う、というただそれだけの意味でしかない独り言です。
完全に個人の感想であり、全く一切他意はないので、もし配当投資をしている方が目にされてもどうかご気分を害されず、『赤字抱えた素人が浅知恵で何か適当なこと言っておるわ』と聞き捨てていただければと思います…。

 

   むしろ、基本的には、一度投資したものは下手に投げ出さずにどっしりと構える方が賢いしリスクも低い…というかそれが投資本来のあり方だと思っています。

でも、自分にはそれは合っていないし、頭では理解していてもそれができない・したくない、というただそれだけのお話です。

たとえ、下手に動いて損失を出すのが目に見えていたとしても、何もせずじっとするよりは動いて投資を楽しむ方を優先したい…という、ワガママな子どものようなどうしようもない性格なだけ、という感じですね。)

 

 

そんなわけで、実際昨年末MRKでもそうしたのですが、もし高配当銘柄を配当目当てで買ったとしても、配当をいただいたら即座にバイバーイ、という感じの、バフェットもビックリな、『長期保有・・?犬に食わせておけ  投資本来のあり方・・?母親の腹に忘れてきたわ』的スタイルで、マネーゲームクソ野郎を演じたいと思い続けている次第です。


(といってもそれは『高配当銘柄を買うなら』の話で、個人的にはやっぱり、ある程度大きな山を当てるまでは『ハイリスクな低位株で大当て狙い』の、ギャンブルクソ野郎が自分には一番合ってるかな、と思っている今現在の状況です。…一番ダメなパターンですね!)

 


前置きが長くなりました。

 

そんな感じで、高配当銘柄を権利落ち日直前に買って、権利が確定したら即売り抜けるという、神をも恐れぬ錬金術は可能なのか、と前々から気になっていたわけです。


そこで今回、権利落ち日前後に株価はどの程度変わるものなのかを分析してみようと思い立った次第です。

 

 

【対象銘柄】
調査対象とするのは、ちょうど最近目にした以下の記事にまとめられていた、『バフェットのトップ10配当銘柄』にしてみました。配当利回りはDividend.comの数値を用いています。

 

バフェットのトップ10配当銘柄
(https://www.thestreet.com/story/12825278/1/warren-buffetts-top-10-dividend-stocks.html)

 

GM (5.14%), IBM (3.66%), PSX (2.80%), WFC (3.03%), KO (3.11%), WMT (2.77%), DE (2.80%), KHC (2.70%), USB (2.41%), AAPL (2.33%)

 

さらにおまけとして、最近まとめている暴騰暴落銘柄リストに出てきた、『超高配当(株価変動が激しすぎるのでページによって具体的な%はまちまちだけど、確実に20%超)・超絶株価下落率(4年で-90%)』という超本末転倒株・SDRも見てみようかと思います。

 

また、比較対象として、配当無しのGOOGLでも同じ分析をしておきます。GOOGL分析の対象日は、IBMと全く同じ日を用いることにしました。

 

 

【対象日時】
配当の権利を得るための最短パターンは、配当権利落ち日(=ex-dividend。この日が始まった時点で株を保有していれば権利者名簿に名前が載るので、この日の前日の終わりまでに株を売らずに持っていればよい。つまり、この日になったら即株を売ってもよい)の前日に株を買って権利落ち日に株を売る、ということになるのですが、これだとちょっと比較が取りづらかったので、権利落ち日を挟んだ以下の2日を比べることにしました。

 

権利落ち日前日の株価/権利落ち日の株価
権利落ち日翌日の株価/権利落ち日の株価

 

もし物事が理論通り単純に進むのであれば、権利落ち日前日には配当を欲しがる悪鬼羅刹どもの買いが殺到して株価が上がり、権利落ち日が過ぎてからは皆「ヤレヤレ無事配当の権利がもらえた」ということで売りが進み株価が下がる、つまり前者は1より大きく、後者は1未満になる、と考えられるわけですが、果たして統計学上有意な差でそのような違いが見られるのか見てみよう、という感じですね。

 

 

【対象年次】
あまり昔の話でも事情が変わっていそうな気がしたので、2007年~現在までの10年弱を調査対象としました。
しかし、意外と上記10銘柄は配当の歴史が短いものも多く(もっとも、トップに挙げられているGMは倒産手続き等があって株の歴史そのものが短いわけですが)、それらは配当を開始した時期からのまとめになっています。

 

 

【結果】
以下示すグラフで、青のが前日と権利落ち日の比、オレンジのが翌日と権利落ち日の比となっています。

 

青が高く、オレンジが低い傾向があれば『直前買いの即売り抜け』戦略は破綻して上手くいかないことになり、逆に両者に有意な違いがなければその戦略が上手くいく可能性が高いことになるわけですが、果たして…?

 

一応の客観的な基準として、グラフの下には前日あるいは翌日の上下率平均値とともに、両者を有意差検定した結果の値を示しています。
エクセルによる単なるt検定ですが、改めてまとめておくと…

 

p値が0.05未満であれば、有意水準5%で両者には違いがある(=恐らく、青が高くてオレンジが低いという違い)と言える、すなわち直前買い即売り戦略は上手くいかない可能性が高い

 

しかし0.05以上であれば、仮に一見違いがあるように見えてもその違いは『ただの偶然だぞ』ということで、両者には意味のある違いは見られない、すなわち『直前買いで配当だけもらって即売り抜け』という戦略が成り立つ算段が高いと言える。

 

…という感じですね。

 

 

ではようやく結果です。

 

GM (General Motors Company, 5.14%)

+0.3076%
+0.0332%
p=0.732


今回取り上げたバフェット銘柄の中では圧倒的高配当のGMですが、権利落ち日前日と翌日とで有意な差は全くなし、すなわち前日に株価が上がり、権利落ち日を迎えると株価が下がるという傾向は見られないということであり、配当だけをもらう乞食戦法が使えそうな感じです。
…とは言うものの、サンプル数が少なすぎて、傾向を語るにはまだ時期尚早であると言えなくもない感じですね。一応過去2年は、『配当落ちを迎えたら株価が下がる』という統計学的に有意な傾向はないようです。

 

 

IBM (International Business Machines Corporation, 3.66%)

+0.689%
-0.231%
p=0.00986
割と最近不調に見える(ごく最近は戻しつつあるようですが)IBMですが、こちらはズバリ傾向が出てくれました。
非常に小さいp値で、権利落ち前日の株価は有意に高く、翌日は低くなる、という結果です。さすがはIBM、配当だけをさらっていくようなハイエナは決して許さなぁーい!…という感じでしょうか。
配当だけをかっ攫う目的で、IBMを権利落ち前後で売買するのは控えた方がよさそうです。

 


以下同じような話が続くので、例によって結果を羅列していきます。

今回の分析では、p値のみに着目してどういう結果になったのかを語っています。

 


PSX (Phillips 66, 2.80%)


+0.623%
-0.240%
p=0.174
平均値はIBMに近いものがあるが、統計的には両者に違いはなし。

(GM同様、サンプル数がやや少ないため結論が難しい。)

 


WFC (Wells Fargo & Company, 3.03%)


+1.025%
-0.935%
p=0.0117
配当乞食をしてはいけない。

 


KO (The Coca-Cola Company, 3.11%)

+0.329%
+0.278%
p=0.855
権利落ち日前後で違いなし!配当乞食をするならコカコーラだ!!

 

 

WMT (Wal-Mart Stores Inc., 2.77%)
+0.814%
+0.268%
p=0.0190
配当乞食をしてはいけない。

 


DE (Deere & Company, 2.80%)

+0.843%
-0.498%
p=0.0361
配当乞食をしてはいけない。

 

 

KHC (The Kraft Heinz Company, 2.70%)

+0.562%
+0.197%
p=0.744
サンプル数が少なすぎて何とも言えない。

 


USB (U.S. Bancorp, 2.41%)

+0.895%
-0.471%
p=0.0213
配当乞食をしてはいけない。

 

 

AAPL (Apple Inc., 2.33%)

-0.119%
-0.381%
p=0.492
アップルも、まだサンプル数が少ないので何とも言いがたい。

一応ここ4年の傾向としては、権利落ち日前後で株価の動きに意味のある傾向は見られないようだ。

 

 


…というわけで、バフェット銘柄で、配当乞食にとって最もターゲットにしやすそうなのは、コカコーラであるという結論が得られました!!

 

もちろんグラフを見ても分かる通り配当権利確定後に株価が下がってしまう日もあるのですが、統計学的にはそれは単に偶然の結果によるものとなっているようです。
少なくとも他の有意に価格が下がる銘柄よりは、コカコーラに飛びついた後即逃げる方が、配当目当ての短期投資では成功率が高いと思われます。

 

 

 

最後におまけの2銘柄です。

SDR (Sandridge Mississippian Trust II, 43.06%)

+6.79%
-2.90%
p=7.03 x 10-7
p値を見るまでもなく、誰がどう見ても配当前後で株価は急落しています。魑魅魍魎のハイエナどもが、配当を得るためだけに売買していることが見てとれますね。

 

前述の通り株価もずっと大きく減少し続けているクソチャートですし、一見超高配当は魅力的に映りますが、手を出す理由はなさそうです。

 


GOOGL (Alphabet Inc. 配当なし)

+0.126%
+0.073%
p=0.567
IBMの権利落ち日を選んだのは、IBMが最もp値が低かったから、という理由です。

 

無事、当初の予想通り、配当無しのグーグルは、IBMの配当権利落ち日前後で株価に有意な違いは見られない、という結果になりました。

 

しかし、コカコーラよりもp値は低いのが意外です(この程度のp値の違いがどの程度意味を持つのか分かりませんが)。逆にコカコーラのデータがいかに傾向の見えないランダムなものであったか、ということでしょうか。

 

 

 

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以上、十分なサンプル数のある銘柄では、意外なほど(意外でも何でもないかもしれませんが)配当泥棒をするのは難しいという結果が見てとれました。

 

ほぼ唯一の例外はコカコーラですね。次の配当日前後に実際どうなるか、要チェックです。
…と思ったら、おあつらえむきにKOのex-dividendは来週13日とすぐなんですね!現在余力がほとんどないので実際チャレンジはできませんが、将来の参考にしてみようと思います。

 

※ただし、コカコーラを見るとリーマンショックあたりのみ突然オレンジのバーが突出して高くなっており、このある意味特殊な状況がノイズとなって有意差検定を狂わせた、という可能性もなくはないですね。

参考までに2008年9月から2009年9月までを抜いて検定してみたら、p=0.0360となり、完全に『権利落ち日前後で株価は下落する』となってしまいました…。

しかしこれはいわゆる恣意的なデータ改変であり、そりゃあからさまに特定の傾向のある集団を抜いたらそうなるよ、というだけの話かもしれません。

しかし、恐らく、さらにデータを増やしてノイズと思われるリーマンショックあたりの部分の影響を薄めていったら、ひょっとするとコカコーラも『あからさまに株価は下がる』という傾向は出ちゃうのかな、という気がしますね…。

 

 

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今回の調査は簡単なものでしたが、実際は配当と比較してどの程度株価が動くのか(そして場合によっては権利落ち後に株価が下がる銘柄でも利益を出せる可能性もあり?)、あるいは今回有意な差が見られた銘柄でも、どの程度早く買っておけば・どの程度売るのを我慢すれば利益が得られそうだと言えるのか、など、調べようと思えば色々面白そうな分析がまだまだできそうです。

 

 

ひとまず今回の結論としては、高配当銘柄は、概ね配当権利落ち日前後で株価が下落することがほとんどだと言えるようなので、短絡的に思いつくアイディアだけあって配当乞食戦法はそんなに簡単なものではなさそうだ、という感じですね。

 

素人の浅知恵で思いつくことが通用するほど市場は甘くはない、という感じでしょうか…!

 

 

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※2016年12月末追記: 色々数値計算までしておいて今さらなんですが、当時はそこに気付かなかったものの、配当権利落ち日に株価が下がるのは、考えるまでもなく理論上当たり前の話だったかもしれません。

金額がそれほど大きくないので見落としがちですが、配当というのは何もどこからか降って湧いてくるものではなく、よくよく考えてみれば、誰が払っているのかというと、言うまでもなく『その企業自身』が払っているわけです。したがって、その企業は配当分の現金を失ったことになり、その分だけ確実に企業価値が下がることになります。

どれだけ下がるかというと、これも言うまでもなく『配当を出した分』下がるわけで、もちろん厳密に100%理論通りに株価が動くわけではないと思いますが、企業価値が下がった分、すなわちちょうど配当として現金が企業から失われた分、株価も同じだけ下がるのは当たり前の話だったわけです。

 

例えばある企業がある日1.25%の配当を出したら、その日その企業の株価はとりあえず1.25%下がって始まることになるわけです(上記SDRの例なんかでは、株価が下がった主な理由は投資家達が権利落ち後にこぞって売りまくったからだと思っていたのですが、何てことはない、物事の道理として、大きな配当を出したらその分株価が下がるというのは当然だった、というお話です)。

もちろん1日で株価が3%上がる日だって普通にあるでしょうから、1.25%の高配当を出しても、配当権利落ち日に前日比プラスになることもあるかもしれません。しかし、それはその日たまたま配当を出したことによる下がり以上の上がりを見せていただけであり、例えば1.25%の配当を出した権利落ち日に株価が前日比2%上がったならば、それは、もし配当を出していなかったら3.5%ぐらいは上がっていたはずだった、というただそれだけの話だと思います。

実際、上記有意差のあった企業の計算値では、青バーのプラス、すなわち権利落ち日前後のマイナス率は、おおよそ配当年率の4分の1(←3か月に1度なので)になっていると思います(結構違いますが、まぁその日の株価変化もありますし、大体そのぐらい、ということで)。

 

またその証拠として、Yahoo FinanceのHistorical Dataでは、Adj Close(調整済み終値)として、株式分割だけではなく、配当が出された時も、出された配当の分だけ終値の調整がなされている旨が最下部に記述されています。

https://finance.yahoo.com/quote/GM/history?p=GM

 

結局配当というのは、株価を切り崩して現金として株主に配っているだけに過ぎないと言えるので、高配当だけを目当てに株を長期保有するというのはあまり本質的ではないんじゃないかな、と改めて思いました(=配当をもらったら嬉しいけど、実はその分持っている株の株価が下がることになるので、総資産としては実は変わらない)。

もちろん高配当を出す企業というのは安定的に利益を出し続ける優良企業だということで、その意味で長期保有することには全く異論がありません。ただ、何度も繰り返しでくどいですが、配当を出す企業は、配当を出す度に株価が(理論上)配当分下落することになるから、高配当をゲットして喜んでいても、実は背後ではひっそりとその分株価が下がってるだけだぞ、いわば株主が自分の資産を現金に換えて自分で受け取っただけだぞ、ということに最近改めて気付いたという次第です。

 

結局結論としては、配当だけもらって権利落ち日に逃げる『配当乞食』というのは理論上トンチンカンな話で(もらった配当分、権利落ち日に株価は下がることになる、つまり、権利落ち日になった瞬間、株価には配当分の下落が実は織り込み済みになっているから)、権利落ち日に売り抜けて得かどうかは、つまるところ『ある日株を買って、翌日株価が上がるか下がるか』の賭けと同じことに過ぎない、というお話に過ぎなかったということですね。