【自主避難者から住まいを奪うな】原告団潰しにもつながる打ち切り~千代田区議会は継続求める意見書 | 民の声新聞

【自主避難者から住まいを奪うな】原告団潰しにもつながる打ち切り~千代田区議会は継続求める意見書

福島県から東京都内への避難者の集団訴訟「福島原発被害東京訴訟」の第16回口頭弁論が16日、東京地裁で開かれた。国や東電を相手取る争いが長期化する一方、「自主避難者」である原告は住宅支援の打ち切りという〝敵〟との闘いも強いられている。避難者減らしに加え、原告団潰しにもつながる住宅問題。打ち切り撤回を求める署名は6万筆を超えた。一方、千代田区議会が国に支援継続を求める意見書を提出。避難者への「追い風」となるか、注目される。



【6万超える署名も無視か】

 都営住宅に暮らす熊本美彌子さん(73)は、来年4月以降、どこで落ち着いて生活できるか何も決まっていない。「都職員の話では、今の都営住宅には来年3月末までしか住んではいけないという。でも、4月以降どうすれば良いかというと何も無い」

 東京に生まれ育ち、還暦を機に「自然豊かな土地で」と、福島県田村市に移住した。「田舎暮らしは良かったですよ」。しかし、それも10年足らずで終わらせざるを得なかった。原発事故で「Uターン」。集団訴訟「福島原発被害東京訴訟」の原告として、国や東電と闘っている。しかし〝敵〟は住宅を取り上げるという形で、熊本さんら原告に名を連ねる避難者を追い込もうとしている。

 「都営住宅に入居するには、20倍もの倍率をくぐり抜けなければいけません」。路頭に迷うのではないか…。日々、不安が拭えない。

 別の原告は言う。「家賃を支払うと言ってるのに、今の家に居させてもらえないんです。せっかく住めるようになった家を追い出されてしまうんです。無茶苦茶です」。

 今月14日には、全国の避難者が住宅無償提供打ち切り撤回を求める署名を内閣府や復興庁に提出した。署名は実に6万4041筆に上った。しかし、国は「福島県が決めたこと」と責任転嫁する形で打ち切り撤回を拒み続けている。福島県も、打ち切り決定の理由を「6年が限界」(避難者支援課)と繰り返すばかり。何度、避難者が頭を下げても方針見直しに応じない。

 「自立」を錦の御旗に避難者を追い詰める背景には、4年後の東京五輪を見据えた「避難者減らし」がある。世界に原発事故からの復興をアピールしたい安倍政権にとって、避難者の存在は邪魔でしかないのだ。

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(上)熊本美彌子さんも原告の1人。今の都営住宅

で暮らせるのは来年3月まで。4月以降の住まいは

「何も決まっていない」

(下)医学博士の崎山比早子さん。低線量被曝の

人体への影響について、意見陳述する予定だ

=弁護士会館


【国を訴えたら身内から「面汚し」】

 「住宅問題で、全国各地の原告団が崩壊しかねない」

 「福島原発被害東京訴訟」の原告団長、鴨下祐也さん(47)は危機感を募らせる。生活に基盤である住まいが安定していなければ、裁判どころではなくなってしまうからだ。

 口頭弁論はわずか16分間で閉廷。次回期日は2カ月後だ。原告自身の尋問が行われるのは、冬頃になりそう。専門家の尋問も予定されている。原告弁護団はこの日、国や東電の責任論について意見陳述した。国際原子力機関(IAEA)が2015年8月に公表した、原発事故に関する「事務局長報告書」を挙げ「原子力利用を推進する側のIAEAが『安全対策が不十分だった』と結論付けている点は注視・尊重されるべきだ」と主張した。遅々として進まないように見えるが、被害の実態、国や東電の不作為を裁判長に正しく理解させ裁判に勝つためには、気が遠くなるような時間が必要なのだ。

 ただでさえ、国や東電を相手に闘う原告の立場は弱い。「いじめられる」と語る原告さえいる。「避難者でいる間は周囲から優しくしてもらえたのに、原告になった途端に冷たくされた人がいる。原告団長に就いたことで『一族の面汚し』と身内から罵倒された人もいるほどです」。今回は、原告自身の意見陳述はなかった。もちろん、人前で話すのが苦手な人、日々の生活に精一杯な人など事情は様々だ。だが、被害者が声をあげにくい状況にあると原告らは強調する。

 「だからこそ全国各地の訴訟が連帯する必要があるのです」。弁護団の内田耕司弁護士は話す。担当弁護士同士で連絡会をつくり、各訴訟での成果を共有することで勝訴を目指すという。

 南相馬市の男性が東電に1180万円の慰謝料を求めた訴訟で、東京高裁は今月9日、「年間20mSvの被曝で健康被害は認められない」として請求を棄却した。たった1人で東電と争う姿勢は素晴らしいが、一方で強大な敵と闘うには数の力も必要だと指摘する弁護士もいる。住宅支援打ち切りで原告団が分断されれば、喜ぶのは国や東電だ。内田弁護士は「一番つらいのは原告。1人1人の原告を支えてください」と支援者に呼び掛けた。
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原発事故への関心が低下する中、支援者らは

無視をされても頭を下げてチラシを配った。

無関心は、原発事故被害者をますます孤立

させてしまう=東京地裁


【「居住継続できる支援策を」】

 この日、画期的な意見書が安倍晋三首相や内堀雅雄福島県知事らに宛てて提出された。東京・千代田区議会が「東日本大震災自主避難者への支援拡充を求める意見書」を全会一致で可決したのだ。

 意見書は、「経済的にも子どもの教育環境からも、なんとか現在の住居に住み続けたいとする声が寄せられています」としたうえで「住宅の供与の延長も含め、今後も負担無く居住継続できる支援策を」と求めている。千代田区議会事務局によると「住宅問題に特化した意見書は初めて」という。

 避難者らの地道な訴えが、ようやく1つの形となった。もちろん、この意見書がすぐに大きな成果につながるものではない。しかし、権力側が一方的に期限を区切っている以上、愚直な取り組みを続けるしかない。残念ながら、この国には「避難の権利」は無い。

 「国策である原発の事故でこういうことになったんです。国には私たち被害者に住宅を提供する義務があります。あきらめません」
 熊本さんは力強く語った。



(了)