【井戸川裁判 第2回口頭弁論】「国も東電も津波対策を怠った」~町民は防げた被曝・避難を強いられた | 民の声新聞

【井戸川裁判 第2回口頭弁論】「国も東電も津波対策を怠った」~町民は防げた被曝・避難を強いられた

福島県双葉町の前町長、井戸川克隆さん(69)が国や東電を相手取って起こした損害賠償請求訴訟の第2回口頭弁論が19日午前、東京地裁で開かれた。意見陳述で井戸川さんは「国も東電も大津波は予見できた」と主張。対策を講じていれば、全電源喪失は免れたとして、両被告の過失責任を問うた。第3回口頭弁論は2016年2月に予定されている。


【「大津波は十分予見できた」】

 若手弁護士が代読した意見陳述では、井戸川さんは「国も東電も、遅くても2006年の時点で福島第一原発に小名浜港(いわき市)の工事基準面(以下、OP)からさらに10メートルを超す津波が到来する可能性を認識できていた」と結論付けた。その上で「津波対策を怠ったために全交流電源喪失を招き、防げたはずの原発事故を引き起こした過失責任がある」と主張した。

 1993年7月の北海道南西沖地震で奥尻島を襲った大津波を例に挙げ、「想定外の津波が起こり得ることが分かっていた」と指摘。その後も、1998年当時の国土庁や気象庁、消防庁などが作成した「7省庁手引き」(「地域防災計画における津波対策強化の手引き」)の中で「現在の知見により想定しうる最大規模の地震津波を検討し、既往最大津波との比較検討を行った上で、常に安全側の発想から沿岸津波推移のより大きい方を対象津波として選定する」と明記されていたことなども「大津波の可能性を認識し得るだけの情報が含まれていた」と指摘した。

 また、東電も加入している電気事業連合会(電事連)が2000年2月に行った試算で、福島第一原発については、OPから5.9~6.2メートルを上回る津波で非常用海水ポンプのモーターが止まり冷却機能に影響が出ることが分かっていた、と述べた。A4判で6ページにわたる意見陳述で、井戸川さんは国や東電の怠慢を指摘した。津波を予見できたということが立証できなければ、国や東電の過失責任を問えないからだ。

 東電は2011年12月にまとめた「福島原子力事故調査報告書(中間報告書)」の中で、「結果的に津波に対する備えが足らず、津波の被害を防ぐことができなかった」と記している。しかし「備えが足りなかった」と認める東電がなぜか、被害者賠償では優位に立っているのが実情だ。
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第2回口頭弁論で「国や東電は津波対策を怠った」

と意見陳述した井戸川前双葉町長。手にしているの

は10月26日の北國新聞に掲載された記事「見送ら

れた津波評価」のコピー=弁護士会館


【「双葉郡の首長で原告団結成したかった」】

 「この裁判に負けるわけにはいかないし、負ける理由が見つからない」

 閉廷後、弁護士会館で開かれた報告集会で、井戸川さんはきっぱりと言った。「町長時代、原発の津波対策について東電から報告を受けたことは一度もない」、「原発事故後、あらゆる意思決定の場から地元住民を排除し、加害者に有利なように進められてきた」と怒りを込めて話した。

 「本来なら、同じ立場にいた双葉郡の首長たちで原告団を結成しなければいけないのだが…」とも。福島県内では「復興」の二文字ばかりが躍り、汚染や被曝を訴える井戸川さんは早々に孤立してしまった。「住民が苦しんでいるのに『復興』も何もないだろう。どことは言わないが、ある市では住民がいくつも訴訟を起こしているのに、首長はソッポを向いている」と批判した。

 原発事故後、佐藤雄平知事や他の双葉郡の首長らとともに枝野経産相(いずれも当時)と面会した際、枝野大臣はイスに深々と座りながら「国が支援しますよ」とくり返したという。「我々、被害者が要望に訪れているのに言葉の使い方を間違えているだろう、と彼の言葉を遮って言ってやりましたよ」。当事者意識の薄い発言を、井戸川さんは呆れた表情で振り返った。

 原発事故から4年8カ月が経ち、風化が進む。福島の地元紙にも「県外避難者数が減少」、「空間線量が下がった」、「風評払拭」など、国の帰還政策を後押しするような記事が目立つ。しかし、乏しい情報の中で故郷を追われた人々の避難生活は何ら変わりはない。増えたことと言えば、徒労感と賠償金への周囲からの羨望、そして戻れない故郷への郷愁。避難先の埼玉県加須市から駆け付けた町民も「原発事故は終わった?冗談じゃない」と言葉を強めた。一方、井戸川さんは「町民にみじめな避難生活を強いたのは私。当時の菅総理に『ちゃんとやれよ』と言質をとるべきだった」と自らを責める。だからこそ「負けるわけにはいかない」のだ。

 「勝負はひるんだら駄目」。井戸川さんは自分に言い聞かせるように、支援者たちに呼び掛けた。
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「国も東電も10メートルを超す津波が福島第一原発

に到達することは予見できた」と結論付けた意見陳述


【「国は被曝を闇に葬ろうとしている」】

 この日は原告側の意見陳述と準備書面の確認のみで、開廷から約20分で閉廷した。抽選にはならなかったが、100席ほどの傍聴席は支援者でほぼ埋め尽くされた。第3回口頭弁論は2016年2月4日午前10時から、同じく東京地裁103号法廷で開かれる。宇都宮健児弁護士を団長とする弁護団は「この裁判の特長は、被曝の問題を正面から取り上げていること。多くの人を被曝させたじゃないか、責任を負え、と。しかし実際には、国は被曝を闇に葬ろうとしている。今後、多くの健康被害が生じる可能性があるにもかかわらず、何ら対策が講じられていない。裁判を通して、世の中のおかしな動きを変えていきたい」と、今後の裁判の中で低線量被曝の危険性についても取り上げていくという。
 宇都宮弁護士は「原発再稼働の動きにくさびを打ち込むという意味でも、非常に重要な裁判だ」と話した。口頭弁論期日は、既に来年6月まで決まっている。国や東電は60ページを超える準備書面を提出した。

 「まだまだ世に出していない話がいくつもある」と井戸川さん。傍聴席には、国の避難指示に拠らない「自主避難者」の姿もあった。原発事故後の対応は被害者不在、加害者が主導権を握ったままという本末転倒の異常な状態が続いている。被曝と避難を強いられた原発事故被害者に、国や東電は何をして何をしなかったのか。前町長の闘いは始まったばかりだ。


(了)