「バグフィルターで99.99%除去」に異議あり!~放射性廃棄物を燃やすなと訴える三陸の医師 | 民の声新聞

「バグフィルターで99.99%除去」に異議あり!~放射性廃棄物を燃やすなと訴える三陸の医師

バグフィルターでは放射性セシウムを99%除去できるどころか2-3割が漏れ出している─。岩手県宮古市の医師が環境省の「定説」に異議を唱えている。神経内科医の岩見億丈さん(57)。300カ所以上にわたって焼却炉周辺の土壌を採取し、セシウム濃度を測定。その結果、焼却炉周辺の濃度が高いことや、焼却によって周辺土壌が汚染されていることが分かったという。福島県内では除染で生じた放射性廃棄物の「減容固化」を合言葉に焼却が推進されているが、岩見さんは「放射性廃棄物は燃やさずに原発周辺で管理し、住民の移住を支援するべきだ」と訴えている。



【バグフィルターでは数割漏れる】

 岩見さんの研究成果は2日、福岡県内で開かれた「廃棄物資源循環学会」で発表された。

 「焼却炉周囲における土壌中放射性セシウム濃度の異常上昇」と題した資料によると、2014年9月から11月にかけて、宮古市の一般廃棄物焼却施設「宮古清掃センター」周囲約9km内の土壌を採取。1カ所につき、地表5㎝の深さで100ml。住宅の庭や山、公園や校庭など、326カ所に及んだ。それらを温室で自然乾燥させた上で100分かけて放射性濃度を測ったという。
 その結果、焼却炉からの距離が1.7km未満の地点の土壌が、1.7km以上の土壌に比べて約2倍、放射性セシウムの濃度が高かった。放射性セシウム134の半減期が約2年であることや、測定されたセシウム134と137の濃度を2011年3月時点に換算すると1:1の比率になることから、岩見さんは「放射性セシウムは福島原発由来である」と判断。他に汚染源が無いことから、これらの土壌汚染が焼却によるものであるとしている。同センターでは、放射性物質に汚染された牧草やほだ木などを燃やしていた。
 さらに、岩手県や宮古市が公表しているデータから、焼却灰に残った放射性セシウム総量を概算。調査で計測された土壌中のセシウム濃度との対比から、焼却によって放射性セシウム134が25%、同137は35%が漏れ出していると結論付けている。環境省は「バグフィルター(ろ過するための布)によって放射性セシウムは99%以上、取り除かれる」と、一貫して放射性廃棄物を燃やしても周辺環境に影響ないとの姿勢だが、岩見さんは「数割は漏れ出しており、バグフィルターの除去能力の見直しが必要」、「一般焼却炉からの放射性セシウム漏出を十分防止できていない」と警鐘を鳴らしている。

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土壌測定の結果から、バグフィルターでは「2-3割の

放射性セシウムが漏れている」と結論づけた岩見さん。

放射性廃棄物の焼却を中止するべきだと訴える


【空間線量でなく土壌測定を】

 盛岡市内で5日に開かれた講演会でも、岩見さんはバグフィルターの除去能力について「ただの布。放射性セシウムを減らすことはできるが、部分的にしか除去できない」、「宮古市や遠野市、鮫川村、島田市でも2/3しか取り除けていない」などと、一般廃棄物の焼却炉にとって〝最後の砦〟とも言えるフィルターへの否定的な見方を示した。宮古市が汚染牧草やほだ木を燃やす方針を固めた際、放射性セシウムが周囲に漏れ出す恐れがあると市長に中止を進言したが、「もう決まったこと」と受け入れられなかったという。
 自身、焼却炉周辺の空間線量によって放射性セシウムの漏出を立証しようとして失敗した経験を持つ。それが今回、土壌測定につながったことから「空間線量より土壌汚染を測るべき」と呼び掛けた。

 質疑応答では、宮城県仙台市内の母親が「焼却炉から1km以内の場所に保育所があり、子どもたちが心配」と不安を口にした。岩見さんは「そうでなくても、仙台は宮古より土壌汚染の濃度が高い。余計な被曝はさけなければいけない」と答えた。「放射性物質と関係なく、アトピー性皮膚炎やぜん息など子どもたちの体調に異変がないか調べてみるといい」とも話したが、焼却炉による周辺土壌の汚染に関して因果関係を確かめるには数百カ所の土壌を調べる必要があり、ハードルは高い。国や行政による調査はなく、岩見さんは「日本の放射能行政は、世界と比べて20年は遅れている。どれだけガラパゴス化しているか」とも指摘した。
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福島県鮫川村でも放射性廃棄物は燃やされた。

環境省は2011年に都道府県に配布した資料で

「バグフィルターの放射性セシウム除去率は99.99%

以上」と説明している


【再現性ない「99%」】

 1981年、岩手県田野畑村に原発建設計画が持ち上がった際、反対運動の先頭に立った岩見ヒサさん(97)を母に持つ。京大で疫学を学び、原発事故後、「福島が心配」と研究を始めた。
 科学者らしく「現実を観察していない、観察させない福島原発はもはや『科学』ではない」、「環境省は99%以上除去できると言っているが、測定方法の科学的根拠も明らかにしておらず再現性もない」などと国の姿勢を批判。さらに、集まった人々には「日本政府は『累積被曝(追加被曝)100mSv以下での発ガン性は不確か』と言っているが、国際的には5~100mSvの線量での発ガン性は明らかだ」、「大人はともかく、子どもは1Bq/kg以下のものを食べさせるのが良いのではないか」と無用の被曝を避けるよう呼びかけた。

 岩見さんは、こんな言葉で講演を締めくくった。

「放射能を漏らす巨大な焼却炉。それは原発と再処理工場だ」


(了)