【福島の部活動】子どもたちに被曝と背中合わせのプレーを強いるな~郡山市・開成山公園 | 民の声新聞

【福島の部活動】子どもたちに被曝と背中合わせのプレーを強いるな~郡山市・開成山公園

陸上競技に野球。郡山市のホットスポット、開成山公園では運動部の大会が開かれている。子どもたちは被曝なんて意識しないと口にし、大人は「じゃあ、どうすれば…」と下を向く。そして、「夢のために被曝をしてでもヘッドスライディングするよ」と話す高校球児。福島では、子どもたちが被曝の危険性と背中合わせの場所で、全力疾走し、プレーしていることが忘れられている。いや、あえて目を逸らしているのかもしれない

【ここで生きて行くしかない】

「みんな、開成山公園の放射線量が高いのは分かっているさ。それなのに、こんな場所で部活動の大会をやるんだからね…」

7月12日午前7時前。既に汗ばむような気温のなか、2匹の柴犬を散歩させていた60代の男性が嘆くように言った。男性は、原発事故後も毎日欠かさず、開成山公園周辺を散歩しているという。「今日、午後にホールボデー(WBC=内部被曝検査)を受けに行くんだ。ここを毎日歩いているんだから、どれだけ被曝しているのか…。まあ被曝していたとしても、すぐに癌化するわけじゃないけどね」。男性はそう笑って去って行った。男性の横を、陸上部の女子高生がジョギングしていった。
数億円かけて改修された陸上競技場では、県内の中高生、大学生が集い「福島県陸上競技選手権大会」が開かれていた。競技場周辺には、各校が設置したテントが点在。空間線量が0.5-1.0μSVもあるような場所で、薄いシート一枚の上に10代の子どもたちが座っている。

「えっ?被曝?放射線量?えーっと…」。会津若松市から来たという女子高生に声をかけると、戸惑い気味に顔を見合わせた。彼女たちの気持ちを代弁するように、準備中の大会関係者が苦笑しながら話した。

「線量はどのくらいありますか?0.5-1.0?んー低線量被曝は…。まあ、我々はここで生きて行くしかないですから。ぜひ、大会も観て行ってくださいよ」

駐車場の一角で、大会に参加している女子高生が腰をかけていた。「ここに座ると被曝するよ。気を付けて」。私が声をかけると、女の子は戸惑いながら、こちらを見た。「ごめんね。この辺りは線量が高いから」。なぜか私は謝っていた。女の子は「分かりました」と頭を下げた。
民の声新聞-開成山陸上競技場①
民の声新聞-開成山陸上競技場②
(上)開成山陸上競技場は、除染が済んでも0.28μSV
(下)競技場の外は0.8μSVを超す地点も=郡山市


【放射線っスか?全く意識してないっス】

陸上競技場に隣接する野球場では、高校球児たちが甲子園を目指して戦っていた。

三振にヒットに、スタンドから大歓声があがる。手元の線量計は0.28μSV。被曝とは無縁でない野球応援だ。

須賀川市内の女性教諭は、選手たちのプレーを撮影しながら「野球場の周囲ってそんなに放射線量が高いんですか?」と驚いた。「子どもたちはこの日のために頑張ってきたのですから、非はありませんよね。福島県内には他にも球場があるんだから、何も線量の高い場所でやらなくても…。でも、聞いたことがあります。バス代などでお金がかかるから、あまり遠くでは試合はできないって」。子どもの命より金か。県高野連の関係者は慎重に言葉を選びながら話した。

「放射線量ですか?うーん…。まあ、その辺りは上の判断ですから…。まあ、事故が起きた頃より意識が低くなっていることは確かですね。うーん…」。
荷物番をしていた坊主頭の一年生に声をかけると、運動部らしいハキハキとした返事が返ってきた。

「放射線っスか?全く意識してないっス。事故の直後は意識しましたけど、原発も良くなってきたし考えないっス。周りの奴も同じっス」

得点のたびに悲鳴にも近い歓声に包まれるスタンド。子どもたちは、肌を刺すような強烈な陽射しから身を守ろうと必死だった。だが、放射線を避けようとする子どもは、1人もいなかった。
民の声新聞-開成山野球場①
民の声新聞-開成山野球場②
(上)甲子園出場をかけた熱戦が続く開成山野球

場。スタンドは0.28μSV

(下)開成山公園に接するバス通りでは、0.6μSV

を超した


【福島県民は野球もしてはいけないのか?】

わが子の応援にかけつけた白河市の母親は怒っていた。

「被曝?そんなこと言ったら、福島に住んでること自体が不安だよ。福島県民は野球もしてはいけないのか?家の中に閉じこもってろと言うのか?」

抑え気味の声だったが、表情は怒りに満ちていた。被曝、被曝と言うが、じゃあどうすれば良いのか。その目はしばらく私を睨み付け、そして地面を向いた。別の母親も「生活は、すっかり震災前に戻ってしまったよ。マスクもしない、洗濯物は屋外に干す…」と下を向いた。

息子が陸上部だという母親は「もちろん、こんな場所で走るなんて心配ですよ」と表情を曇らせた。「でもね、だからといって出場を拒否するわけにもいかない。今は大学に通うお姉ちゃんだって、高校周辺は放射線量が高かったけど通わざるを得なかったからね」。
郡山市内の母親が、ある高校球児の言葉を教えてくれた。

「ここにいたら被曝するのは分かってる。スライディングをしたら放射性物質を吸い込むことも知ってる。でも、僕はプロ野球選手になりたいんだ。本気だよ。だから、被曝のために夢をあきらめたくないんだ。被曝するかもしれない。でも、絶対にプロ野球選手になりたいんだ。だから、僕はヘッドスライディングをするよ」


(了)