【24カ月目の福島はいま】いまだ放射線飛び交う福島市~汚された白鳥飛来地と子どもの外遊び | 民の声新聞

【24カ月目の福島はいま】いまだ放射線飛び交う福島市~汚された白鳥飛来地と子どもの外遊び

春分の日の3月20日、福島市の福島競馬場周辺を歩いた。わが子の被曝と将来に心を痛める母親、孫と散歩する女性、阿武隈川に白鳥見物に来ていた男性など、多くの人に話を聴いた。多くの人が原発事故後も福島市で暮らしているという現実と、依然として解消されない高濃度汚染。子どもたちを取り巻く環境は、少しも改善されていない。行政の安全キャンペーンに隠された真実が、そこにあった


【〝福島出身〟をわが子の戸籍から抹消したい】

母親が苦笑交じりに口にした言葉に、私は言葉を失った。

「もしも将来、この子が福島出身だということを戸籍から抹消できるような制度ができるとしたら、そうしてあげたいかな」

福島市が霞町の市民会館内に開設した屋内遊び場「さんどパーク」。渡利地区から自家用車で訪れたという母親の周囲を、1歳の娘と3歳の息子が元気に走り回っていた。

決して福島が嫌いになったわけでは無い。ただただ、わが子がこうして福島で育っていることで差別を受けなければいいと願うあまりの想い。世間では、いじめの報道が増えている。「今の世の中って、何か一つ〝欠点〟を見つけたらいじめる風潮があるでしょ?」。

夫は九州の出身。仕事さえあれば、生活の後ろ盾さえあれば、九州に逃げたい。「私だって子どもを守りたい。でも、借金までして避難することはできないですよね」。

東京で暮らす友人からは、一向に福島県外に避難しない自分に「あんた馬鹿じゃないの?」との言葉を浴びせられた。夫婦共働き、おまけに自分は通信系の仕事で、震災後の回線復旧に追われる日々。悩みながらも、仕事を投げ出して避難することはできなかった。「どうしてこちらの気持ちが分からないのかな。でも、これが逆の立場だったら、自分も同じように見てしまうかもしれませんね」。

当事者でなければ分からない苦悩や葛藤。子どもの外遊びも、天気の良い日は近所の除染が済んだ公園で、風が強かったり天候の悪い日は屋内遊び場で、と使い分けている。これが今の自分にできる最大限の努力なのだ。

「甲状腺や内部被曝の検査結果をもらうたびに『この結果、本当なのかよ?』って、もちろん疑問や怒りが生じます。でも、私としては今を信じて生きて行くしかないんです」
民の声新聞-ペリカン①
民の声新聞-ペリカン②
民の声新聞-ペリカン③

福島駅東口の駐車場「ペリカンパーク」。側溝は

高さ1㍍でも2-3μSV、堆積物に近づけると24

μSVを超す。瀬戸孝則福島市長は「仮置き場が

確保できないので側溝の除染ができない」

=福島市栄町



【阿武隈川沿いの草花を無邪気に触る子どもたち】

もう、何度足を運んだだろう。

福島市東浜町。福島競馬場の裏手から阿武隈川のサイクリングロードを歩く。

世間では「原発事故から2年も経った」と言われるが、手元の線量計は軽く1.0μSVを超す。

散歩中の中年男性が私に声をかけてくる。「この辺りは放射線量が高いでしょ。0.5(μSV)くらい?え?1.0(μSV)超してるの?うわー」。こんな会話もこれまで、何度も交わしてきた。高線量だけが変わらない。高校生風の男の子が3人、自転車で通り過ぎて行く。部活動中の女子高生が走り去る光景も、これまで何度も目にしてきた。

そしてまた、この日も…。春の陽気に誘われるように、女性が2人の孫を連れて散歩をしている。女の子たちは無邪気に走り回り、歓声をあげながら土手の草を触り始める。

その様子を遠くから見ていた私は、余計なお世話かとためらいながらも、やはり声を掛けずにはいられなかった。

「この辺りは放射線量が高いですよ。気を付けてくださいね」

「孫たちがタンポポとかの草花に興味を持っているのよ。だから少しだけ。家に帰ったら手洗いやうがいを必ずさせているから。ありがとう。」

この会話の後、それまでは孫たちのしたいようにさせていた女性は一転、「ほらほら、この辺りは危ないから触るのをやめようね」と咎めるようになってしまった。

しばし立ちすくんだ。果たして声をかけて良かったのだろうか。混乱する価値観。しかし、子どもたちを被曝から守るためには、これだけは譲れない。福島市で生きていくということと、被曝の危険を甘受することは違うのだ
民の声新聞-阿武隈川①
民の声新聞-阿武隈川②

地上1㍍の空間線量が至る所で1.0μSVを超す

阿武隈川のサイクリングロード。散歩中の子ども

たちが楽しそうに草花を触っていた

=福島市東浜町


【福島第一原発から60kmでも20μSV超】

阿武隈川は有名な白鳥飛来地。見物客を怖がることも無く、「あぶくま親水公園」で多くの白鳥が羽を休めている様子が対岸からも確認できる。

多くの親子連れが白鳥を眺め、写真に収めている。

「孫が白鳥を見たいというから10年ぶりに来たけど、あの頃と同じだなぁ」。男性が目を細めて言った。男性のふるさとは双葉町。若い頃、仕事を求めて町を飛び出し、福島市へ。現在は蓬莱団地で暮らしている。まさか50年後に町が放射性物質で汚染されてしまうとは夢にも思わなかった。

白鳥と阿武隈川を眺めながら、男性は「もう、街には帰れないな…。本来なら彼岸だから線香をあげに行きたいのだけれど」とつぶやいた。先日まで町長を務めた井戸川克隆さんとは同級生。「彼はガキの頃から頑固者だったな」と笑った。

10年前と変わらぬ光景。だが、一つだけ大きく変わったことがある。見物客の傍らの草むらで放射線量は0.4μSVを超す(高さ1㍍)。

河川敷では、除染作業が行われている。ここは、花見山見物の観光客を運ぶための臨時バスの発着所として利用される。命を守るためではない。花見山観光のための除染。さらに土手を上がり車道に出る。車道の向こう側には、福島市のごみ焼却施設「あぶくまクリーンセンター」の余熱を利用した風呂や温水プールがある「ヘルシーランド福島」。ランドを左手に見ながら、歩道を三本木橋に向かって歩く。歩道の脇の雑草から放出される放射線に、右手に持った線量計が激しく反応し、バイブレーションの振動が止まらない。

あまりに反応が激しいので、立ち止まって線量計を地面ギリギリにまで近づけてみる。放射線量はあっという間に20μSVを超した。思わず声が出た。信号待ちの車の中から、こちらを見ている人がいる。これもまた、原発事故から2年後の福島市の現実。原発から60km離れていれば安全だと思っている人がいたら、大きな勘違いだ。
民の声新聞-白鳥①
民の声新聞-白鳥②
民の声新聞-白鳥③

白鳥見物の親子連れでにぎわう「あぶくま親水公園」。

車道に上がると1.0μSVを超す。さらに地面真上で20

μSVを超す個所も。阿武隈川周辺の汚染は想像以上

に深刻だ=福島市渡利


(了)