脱原発を実現するのは女だ~福島で東京で闘う女性たち
原発事故による被曝から子どもを守ろうと、女性たちが続々と声を上げている。福島の女性たちは10月、経産省での座り込み抗議を敢行。原発の廃炉や子どもたちの避難を求める要求を突き付けた。都内では、原発の存続・廃止を都民自らが決めようと「原発・都民投票」実現へ署名集めが進められている。来年2月までに22万人以上の署名を集め、石原都知事に条例づくりを求める予定だ。原発事故以来、何も進まない現状に声を上げ始めた女性たち。福島の女性たちは「原発事故は男中心社会が引き起こした」と怒る。世の中を変えるのは私たち、と力強く話す女性たちの姿を追った。
【都民投票は民意反映のフェアな手段】
「原発を止めるために、やれることはすべてやりたいんです」。
原発の是非を決める都民投票条例の制定を石原都知事に求めるための署名集めに参加している杉並区の女性(49)。「正直なところ、署名集めが最も有効な手段かどうかは分からないけれど、こういう活動が原発について考える良い機会になって欲しい」
昭島市の女性(39)は、両親が福島県南相馬市の出身。多くの親戚が原発事故に巻き込まれた。
「政府などが利権にまみれてきちんと対処しなかったことが本当に腹立たしい。子どもたちの健康がどんどん蝕まれている。でも、文句を言っているだけでは何も進まない。私たちの姿を目にした人の政治意識が高まることにつながってくれれば、意味はあると思う」
新宿や渋谷で署名を集めるため懸命に頭を下げる。無視されても邪魔者扱いされても。
中野区の女性(34)は言う。「住民投票は民意を反映させるフェアな方法だと思う。ぜひ原発を止めたいんです」
神奈川県の女性(38)も署名集めに参加している一人だ。「反対反対と言っているだけでは何も始まらない。自分の意見を表明することは大事なことなんです」。
新宿駅近くの署名運動では、元アイドルで実業家の千葉麗子さん(36)も自らマイクを握り、署名を呼び掛けた。
福島県出身の千葉さんにとって、原発事故は決して他人事ではない。先日も福島を訪れ、母親の涙に言葉を失ったという。
「『放射能を気にする私はキチガイでしょうか』って泣くの。私は腕をさすってあげることしかできなかった。『キチガイじゃないよ、当たり前のことだよ』としか言えなかった」
12歳の子どもの母親として、子どもたちの将来を案じている。こうしている間にも、都内でも被曝は続いているからだ。
「脱原発に向けて何をするのが効果的かいろいろ考えた。そして、ドイツやイタリアの例もあるように、やっぱり投票が民意を反映する手段としては一番良いのではないかと。また、署名集めをすることで眠っている無関心層を起こすこともできるし、原発に反対する声がいかに多いことが分かれば、政治家も脱原発へ動かざるを得なくなる。今はあまり関心のない若い女の子たちも、署名をすることで必ず思い出してくれるはず。そういうことが大切だと思います」
若者が多く行き交う新宿で、力強く呼びかけた。
「いつまでNHKや朝日新聞を信じるの?原発事故は福島だけの問題じゃ無いんだよ。都内でも高い放射線量が計測されているんだよ。これから妊娠する可能性があるんだから、ちゃんと考えようよ」
(上)自らマイクを手に都民投票への署名を呼び掛けた千葉麗子さん。
「被曝は福島だけの問題じゃない。都民の無関心は罪ですよ」
=新宿・小田急ハルク前
(下)都民投票への署名を集めるのも署名をするのも女性が多い
=JR渋谷駅ハチ公口
【男中心社会が原発事故を引き起こした】
郡山市内で行われた経産省での座り込み抗議行動の報告会で、佐々木慶子さん(福島市)は胸を張った。「女は男と違い、思い立ったらすぐ、行動に移すんです」。
「男は、計画を綿密に立てないと動けない。挙げ句、『前例が無い』などと言い出す。だいたい、男中心の社会が引き起こしたのが原発事故なんですから」
佐々木さんら福島の30人の女性たちは10月下旬、経産省で7人の男性官僚に四つの要求を突き付けた。
①すべての原子力発電所を直ちに停止させ、廃炉とすること
②定期点検・トラブル等により停止中の原子力発電所の再稼働を行わないこと
③子どもたちを直ちに、国の責任において避難・疎開させること。また、すでに避難し、またはこれから避難する住民に完全な補償を行うこと
④.原発立地自治体を補助金漬けにし、自立を妨げる原因となっている電源三法を廃止すること
「これからも非暴力で脱原発を果たしたい」と言う佐々木さん。最近は涙を流す機会が多くなった。
「本当にとんでもないことになってしまった。子どもたちが屋外で遊べない。そんな環境にしたのは大人の大罪です」
黒田節子さん(郡山市)は、福島瑞穂社民党党首の力添えで首相官邸に入ったことが忘れられない。
「首相補佐官に40分にわたって想いをぶつけた。ある人は涙を流していた。福島の女たちの運動は、世界の潮流に乗っていると思う。さらに切り開いていきたい」
座り込みに参加した郡山市の女性は、鼻血や下痢が続くなど体調の悪化に悩まされていた。
「3日間、座り込みに参加したら体調が良くなったんです。ストレスが原因だ言う人もいるでしょう。でもね、原発事故が起きなければ、そもそもストレスなんかなかったんですからね。そこを忘れないで欲しい」
報告会では、唱歌「ふるさと」を合唱した。手をつなぎ輪になって。歌詞の「ふるさと」を「ふくしま」に変えて歌った。誰ともなく、自然と涙が流れた。故郷を汚された悔しさ、子どもたちの健康被害への不安、進まぬ補償…。武藤類子さん(三春町)は言う。「福島の外に向けて『助けて』と言えたことが大きい。つらいときに、『助けて』と言えるかどうかなんですよね。今回、福島の女たちはそれが言えた。だから、最終的に福島内外から2000人を超す人が座り込みに集まったのではないでしょうか」
国内にとどまらず、ニューヨークでも原発事故被害の現状を訴えた佐藤幸子さん(川俣町)は「女の柔軟な考えがなければ、世の中は変えられない」と力を込める。
そして、世の男たちにもエールを送った。
「女と、本当に大切なものを知った素敵な男性とで世の中を変えましょう」
(上)輪になって手をつなぎ「ふるさと」を合唱する福島の女性たち。
誰もが流れる涙を抑えきれなかった
(下)経産省での座り込み抗議で編み込まれた緑の地球。
福島から声を上げる女性たちのシンボルとなっている
=12/25、福島県郡山市・郡山労働福祉会館
【このままでは日本の未来は真っ暗】
「皆さんの未来を皆さんの命を、野田首相に任せて良いんですか?どうやって彼女を守りますか?どうやって彼氏を守りますか?どうやって友達を守りますか?命にかかわるようなことを石原都知事に任せて良いんですか?僕的にはNOです。原発を続けるのかやめるのか、自分たちで決めましょう」
チェルノブイリ取材から帰国したばかりの山本太郎さん(37)は、若者たちでごった返す渋谷・ハチ公前で都民投票条例制定に向けた署名を呼び掛けた。
「チェルノブイリ周辺の街では、事故から25年も経った今でも、健康被害なく産まれてくる子どもの割合はわずか15~20%なんです。このままでは日本の未来は真っ暗ですよ」
声を聴き、携帯電話のカメラを向けながら若者たちが集まってくる。
彼らに時折冗談を交えながら、しかし、強烈なメッセージをぶつけていく。
「東京都は東京電力の株主です。つまり、都に納税をしている都民の皆さんも、株主だということなんです」
「大都市・東京の電力需要を賄うために、地方の福島が犠牲になったのです。言葉を選ばずに言えば、福島の子どもたちが東京の子どもたちの身代わりになったと言っても過言ではないのです」
脱原発を公言したことで収入は10分の1以下になった。
「不安をあおるな」「原発事故を商売にするな」などバッシングは絶えないが、「本当に大切なもの」を知った男の一人として、声を上げ続ける。
「大きな声を上げなくて良いんです。デモ行進の先頭に立たなくても良いんです。あなたにも参加できるアクションがあります。あなたの一筆で世の中を変えられるかもしれないんですよ」
山本さんの問いかけに、皆さんはどう答えるだろうか。
「お母さん、娘さんをどうやって守りますか?お父さん、お子さんをどうやって守りますか?」
「本当に大切なものを知った素敵な男」の代表・山本太郎さん。
「原発を続けるにせよやめるにせよ、自分たちで決めましょう。
命にかかわることなんですから」=JR渋谷駅ハチ公口
(了)
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