THE FOOL
THE FOOL 2
誰も覚えてないでしょうけど。
───────────────────────
「えぇ、このナンセンスな難事件、私が解決しましょう」
ここは神奈川県警の留置場。
バサァッ! とトレンチコートをはためかせ口にパイプをくわえる少女は、右手を右胸のあたりから左足の付け根へ左手を左胸のあたりから右肩の上へ突き出し言い放った。
「はいはい、子どもは帰った帰った」
県警の職員は施設内に無断で立ち入った見た目10歳ほどの少女をひっつかんだ。
「うー、わたしは子どもじゃありません!! 15才です! 立派なおとなですー!」
これで15歳かよ、と職員は現代の小食を少し憂いてみるが、何もそれだけが原因ではないかと思いなおす。
「15歳ならやっていいことと悪いことの区別ぐらいつけろ」
そう言ってドアの外に放り出そうとするが
「この事件、エイプリルフールが関わっている。そうでしょ?」
「え……?」
職員は驚かざるを得なかった。少年犯罪と言うこともあり、まだ世間に公表している情報はほとんどないのだ。少年の供述内容など、表に出ているはずも無い。
「何故それを……」
「えっ!? ……じゃなくて、と、当然でしょ? わたしを誰だと思ってるのよ?」
少女は無い胸を精一杯にはるが、大人にひっつかまれている状態では、威厳などなかった。
「君は、誰なんだ?」
そういわれて、少女は満足そうに一度目を瞑ると、
「わたしは冬樹雪(ふゆきゆき)、たんていよっ!」
佐多気茂渡春は、警官に手錠をかけられた後も長く抵抗し、たくさんの怪我を負ったために、留置場ではなく病院に搬送された。
しばらくすると落ち着き、現実もどうにか飲み込んだ。
その後、事情が考慮され公務執行妨害については不問となった。
すぐさま都志秋の元へ向かいたかったが、それより差し迫った問題があった。
夏子が極度の心労で体調を崩してしまったのだ。
ゆえに自由の身となった茂渡春は、休む間もなく同じ病院内の夏子の病室へと向かった。
そろそろ夕方だ。
ガラッと扉を開けると、夏子はベッドに座り徐々に黄色くなる空を見つめていた。
「夏子」
こちらの声に反応し、夏子が振り向く。
「あら、お父さん」
表情は柔らかく、静かな笑みを湛えている。声は優しく、そよ風のようだった。
けれど、その顔からは、その声からは、痛みしか感じられない。
「夏子……」
茂渡春はまともに声がかけれない。
「早く家に帰りましょう父さん。そろそろ都志秋も返ってくるころよ」
「…………」
やはりそうか。
茂渡春は覚悟してはいたが、それでも受け止める準備はできていなかったようだ。
夏子は、現実から逃避している。
自分の子どもが殺人を犯したという事実から逃げている。
「夏子……都志秋は、家にはいないよ」
「あら、連絡取れたの?」
「違うんだ。都志秋は今、留置場にいる」
目を逸らしてはいけないのだ。ここで二人が目を逸らしてしまっては都志秋がそれを向き合うことはできない。
「何を言っているのか、分からないわ」
「今から一緒に留置場へ行こう」
「嫌よ、何で、そんな、都志秋が、そんなわけ、ないわ」
夏子の唇が震える。言葉はその間から漏れるように零れる。
「逃げちゃダメだ、夏子」
「やめて、わけが、わからないわ」
茂渡春はベッドに近づくと夏子の手を掴み、立ち上がらせた。
「行くぞ、夏子」
歩き出した茂渡春に引き摺られるようにして夏子も歩き始める。
「夜には、家に帰ろう」
茂渡春はスピードを上げる。
階段を警戒に駆け下りる。
と、後ろの夏子がバランスを崩してしまった。元から、体調が優れなかったから病院にいたのだ。
「夏子っ!」
落ちてくる夏子を受け止めて茂渡春もともに階下へ転がっていく。
二人は踊り場で止まった。
ゆっくりと、ゆっくりと、赤い液体が広がっていく。
夏子は頭を打ったものの、すぐに意識を取り戻した。
そして、いまだ広がり続けるその赤色を見る。
「いやっ、やめてっ、いやぁっ! もう嫌! 嫌ぁっ!」
夏子はすぐに意識を失った。
少女は特例的に取調室の前まで連れてこられていた。
「えぇ、そうよ。わたしがたんてい。どんな難事件も一瞬で凍りつかせることから付いた通り名は、ツンドラたんてい」
左手を腰の横へ伸ばし、右手を肩からまっすぐ上へと突き上げて、わずかに俯いて少女は言い放った。
「誰だ、こいつは」
「子どもをこんなとこに連れてきていいと思ってるのか」
二人の刑事は、職員を責める。
見た目10歳ぐらいの少女をこんなとこに連れてきたのだ。当たり前の反応だろう。
「けれど少女は事件とエイプリルフールの関わりを指摘したんです」
言い訳のように職員は返した。
「……なんだって?」
そこは刑事自身もまったく分かっていないところ。
少年は言ったのだ。
『僕は、エイプリルフールのせいで人を殺したんですよ』と。
それ以降、少年は黙秘を貫いている。
「……話を聞いてみる価値はあるか」
刑事は少女に近づいて声をかけた。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「バカにしないでちょうだい。わたしは15才よ。あなたごときにお嬢ちゃん扱いされるほど子どもじゃないわ」
イラッ、という心のうちを悟られぬように表情を繕う。
「えぇ、ごぞんじのとおり、わたしは冬樹雪、たんていよっ!」
勿論存じてなどいないが、ここでそれを指摘しても無意味なことは分かりきっている。
「探偵さんの推理を聞かせてくれるかな」
「ほんとにっ!?」
少女の顔が輝いた。が、すぐ誤魔化すように俯く。
「そっちがそう言うなら、別にかさぶたではないわ」
瘡蓋? 意味が分からん。いや、もしかして、
「やぶさか、って言いたいのか?」
「っ!? っ、ちょっと間違えただけだもん!」
真っ赤になって言い返す少女を見て、刑事は本気の溜息をついた。しっかりと、心の中で。
「この悲しい事件が起きることを、わたしはずっと前から予期していたわ」
「じゃあ何で止めなかった」
「う……」
一言で少女が押し黙る。
「何で警察に伝えなかった」
「うぅ…………」
「何で事前に──」
「嘘ー! 事前に分かってたとか嘘ー! 嘘だもん!」
目を瞑り、ふるふると手を振り回し喚く少女。
「何でしょうもない嘘なんかついたんだ」
「エ、エイプリルフールだからよ」
刑事は頭を抱えてから、
「大人をからかうのもいい加減にしろよ!」
頭に血が上った。
これまでの反応からして涙目でうずくまるだろうと思っていた少女は、
「つまり、そういうことよ」
毅然とした態度で言葉を返してきた。やっぱり涙目ではあったが。
「まぁ、彼の場合は、大人をからかったんじゃなく、大人にからかわれたんでしょうけどね」
「…………?」
「えぇ、全ては小さなイタズラ心のすれ違いだったんです」
少女はどこか遠いところを見る目になって言う。
「………これで分かったはずですよ、刑事さん。わたしはこれで」
歩いて去っていこうとする少女の手首を掴む。
「オイ」
「な、ななな、なに?」
振り返る少女の目は既に潤んでいたが、刑事は気にしない。
「最後まで話せ」
「ま、まーだ分からないんですか? 刑事さん、あなたってホントに」
そこまで言われて耐え切れず、右の拳を振り上げる。
「ひゃっ! 暴力反対暴力反対暴力反対っ!!」
俯いてうずくまる少女。
「はいはい、分かった。暴力は振るわない」
「ほんと?」
少女はいまだうずくまったままだ。
「あぁ、ホントだ」
「ほんとのほんと?」
潤んだ目で少女が見上げてくる。
「あぁ、ホントのホントだよ。だからこっちの話もマジメに聞いてくれ」
「分かった」
目尻に溜まった涙をぬぐい、少女が立ち上がった。
「じゃあまず聞こう。お前はどこまで分かってるんだ」
「……何も」
一体何を言っているのだ。刑事はいまだマジメに話してくれようとしない少女に苛立ちを感じ、やや荒い口調で返す。
「何もってどういうことだ。何が分かってるのか聞いてる」
「報道されていること以外は知らないし、分かんない」
「ここまできて嘘ついてもしょうがないだろ!」
「嘘じゃないっ!」
そう言う少女の目は嘘をついているようには見えなかったし、何より自分でも言ったように、嘘をついてもしょうがないのだ。
何も知らない? 一体どういうことだろうか。
「じゃあ、何で事件に『エイプリルフールが関わっている』って分かったんだ?」
「やっぱりほんとにそうなの!? すごい! わたしってば天才かも!」
少女は目をキラキラと輝かせる。
刑事は頭を抱えながらも、話を続けるしかない。
「何も、知らなかったのに、エイプリルフールがどうこうって話を思いついたのか?」
「男の人に外に放り出されそうになって、何か言わなきゃ、って思って」
「本当の年齢は?」
「9さ──15才っ!」
必死に言い直す少女を見て、刑事はさらに頭を抱え込む。何も知らない9歳の少女が、こんなところにやってきてしまっているのだ。
「探偵って言うのは?」
「もちろん嘘よ! ──じゃなくて、その、あの」
刑事は意を決して言う。
「早く家に帰りなさい。もう夕方だ。ご両親も心配してるだろう。なんなら、家まで送っていくから」
本当はそんな暇など無いのだが、ここまでつれてきてしまったのはこちら側の責任だ。
「いやよっ! わたしは全部話したんだから、あんたも全部話しなさいっ!」
「部外者に捜査情報を伝えるわけには」
「容疑者の少年はきっと、親が殺された、って言い張ってるはずよ」
「何で分かるんだよ」
頭を抱えるとかではなく、もはや呆れる。
これならさっさと満足させたほうが早く帰るか。どうせ情報を広めるような手段も無いだろう。
「分かった。じゃあ今わかってることを話すよ」
それから約15分ほどかけて、今わかっていることを全部話していった。
「ふ~ん……分かったわ。これで全てつながったわ!」
「ホントかよ」
すっかり疲弊した刑事は少女の言葉を軽く流す。
「まず、少年は家に帰った。そのとき殺されている両親をもくげきした。これは幻覚ではないわ。きっと、少年の両親はエイプリルフールのドッキリを考えていたんだわ」
そんなわけあるか、と返す気力も今は無い。
「精神的に動揺した少年は家を飛び出し、はんかがいまで走った。そこで殺された男にいちゃもんをつけられ金を脅し取られそうになった。現場に落ちてた連絡先の紙はそれね。そこでまたも少年は大人にからかわれるの。自暴自棄になって受け答えする少年は『親が殺された』っていうわけよ。勿論男はそれを信じないし、誤魔化そうとしてるって思うから『自分が殺した』って嘘をつくのよ。エイプリルフールだからね。すると少年はげっこうして男が持っていたナイフを奪って──ちょっ! 何するの! 腕つかまないで変態痴漢! うー離せー!」
我慢の限界が来た刑事は、少女をひっつかみ留置場の建物から放り出した。
愚者は、誰──?
───────────────────────
えぇ、まさか3章まで書くと思っていませんでしたよ。
前回と同じく文句はATフィールドで弾き返しますので!←
感想、よろしくお願いします。
THE FOOL 2
誰も覚えてないでしょうけど。
───────────────────────
「えぇ、このナンセンスな難事件、私が解決しましょう」
ここは神奈川県警の留置場。
バサァッ! とトレンチコートをはためかせ口にパイプをくわえる少女は、右手を右胸のあたりから左足の付け根へ左手を左胸のあたりから右肩の上へ突き出し言い放った。
「はいはい、子どもは帰った帰った」
県警の職員は施設内に無断で立ち入った見た目10歳ほどの少女をひっつかんだ。
「うー、わたしは子どもじゃありません!! 15才です! 立派なおとなですー!」
これで15歳かよ、と職員は現代の小食を少し憂いてみるが、何もそれだけが原因ではないかと思いなおす。
「15歳ならやっていいことと悪いことの区別ぐらいつけろ」
そう言ってドアの外に放り出そうとするが
「この事件、エイプリルフールが関わっている。そうでしょ?」
「え……?」
職員は驚かざるを得なかった。少年犯罪と言うこともあり、まだ世間に公表している情報はほとんどないのだ。少年の供述内容など、表に出ているはずも無い。
「何故それを……」
「えっ!? ……じゃなくて、と、当然でしょ? わたしを誰だと思ってるのよ?」
少女は無い胸を精一杯にはるが、大人にひっつかまれている状態では、威厳などなかった。
「君は、誰なんだ?」
そういわれて、少女は満足そうに一度目を瞑ると、
「わたしは冬樹雪(ふゆきゆき)、たんていよっ!」
佐多気茂渡春は、警官に手錠をかけられた後も長く抵抗し、たくさんの怪我を負ったために、留置場ではなく病院に搬送された。
しばらくすると落ち着き、現実もどうにか飲み込んだ。
その後、事情が考慮され公務執行妨害については不問となった。
すぐさま都志秋の元へ向かいたかったが、それより差し迫った問題があった。
夏子が極度の心労で体調を崩してしまったのだ。
ゆえに自由の身となった茂渡春は、休む間もなく同じ病院内の夏子の病室へと向かった。
そろそろ夕方だ。
ガラッと扉を開けると、夏子はベッドに座り徐々に黄色くなる空を見つめていた。
「夏子」
こちらの声に反応し、夏子が振り向く。
「あら、お父さん」
表情は柔らかく、静かな笑みを湛えている。声は優しく、そよ風のようだった。
けれど、その顔からは、その声からは、痛みしか感じられない。
「夏子……」
茂渡春はまともに声がかけれない。
「早く家に帰りましょう父さん。そろそろ都志秋も返ってくるころよ」
「…………」
やはりそうか。
茂渡春は覚悟してはいたが、それでも受け止める準備はできていなかったようだ。
夏子は、現実から逃避している。
自分の子どもが殺人を犯したという事実から逃げている。
「夏子……都志秋は、家にはいないよ」
「あら、連絡取れたの?」
「違うんだ。都志秋は今、留置場にいる」
目を逸らしてはいけないのだ。ここで二人が目を逸らしてしまっては都志秋がそれを向き合うことはできない。
「何を言っているのか、分からないわ」
「今から一緒に留置場へ行こう」
「嫌よ、何で、そんな、都志秋が、そんなわけ、ないわ」
夏子の唇が震える。言葉はその間から漏れるように零れる。
「逃げちゃダメだ、夏子」
「やめて、わけが、わからないわ」
茂渡春はベッドに近づくと夏子の手を掴み、立ち上がらせた。
「行くぞ、夏子」
歩き出した茂渡春に引き摺られるようにして夏子も歩き始める。
「夜には、家に帰ろう」
茂渡春はスピードを上げる。
階段を警戒に駆け下りる。
と、後ろの夏子がバランスを崩してしまった。元から、体調が優れなかったから病院にいたのだ。
「夏子っ!」
落ちてくる夏子を受け止めて茂渡春もともに階下へ転がっていく。
二人は踊り場で止まった。
ゆっくりと、ゆっくりと、赤い液体が広がっていく。
夏子は頭を打ったものの、すぐに意識を取り戻した。
そして、いまだ広がり続けるその赤色を見る。
「いやっ、やめてっ、いやぁっ! もう嫌! 嫌ぁっ!」
夏子はすぐに意識を失った。
少女は特例的に取調室の前まで連れてこられていた。
「えぇ、そうよ。わたしがたんてい。どんな難事件も一瞬で凍りつかせることから付いた通り名は、ツンドラたんてい」
左手を腰の横へ伸ばし、右手を肩からまっすぐ上へと突き上げて、わずかに俯いて少女は言い放った。
「誰だ、こいつは」
「子どもをこんなとこに連れてきていいと思ってるのか」
二人の刑事は、職員を責める。
見た目10歳ぐらいの少女をこんなとこに連れてきたのだ。当たり前の反応だろう。
「けれど少女は事件とエイプリルフールの関わりを指摘したんです」
言い訳のように職員は返した。
「……なんだって?」
そこは刑事自身もまったく分かっていないところ。
少年は言ったのだ。
『僕は、エイプリルフールのせいで人を殺したんですよ』と。
それ以降、少年は黙秘を貫いている。
「……話を聞いてみる価値はあるか」
刑事は少女に近づいて声をかけた。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「バカにしないでちょうだい。わたしは15才よ。あなたごときにお嬢ちゃん扱いされるほど子どもじゃないわ」
イラッ、という心のうちを悟られぬように表情を繕う。
「えぇ、ごぞんじのとおり、わたしは冬樹雪、たんていよっ!」
勿論存じてなどいないが、ここでそれを指摘しても無意味なことは分かりきっている。
「探偵さんの推理を聞かせてくれるかな」
「ほんとにっ!?」
少女の顔が輝いた。が、すぐ誤魔化すように俯く。
「そっちがそう言うなら、別にかさぶたではないわ」
瘡蓋? 意味が分からん。いや、もしかして、
「やぶさか、って言いたいのか?」
「っ!? っ、ちょっと間違えただけだもん!」
真っ赤になって言い返す少女を見て、刑事は本気の溜息をついた。しっかりと、心の中で。
「この悲しい事件が起きることを、わたしはずっと前から予期していたわ」
「じゃあ何で止めなかった」
「う……」
一言で少女が押し黙る。
「何で警察に伝えなかった」
「うぅ…………」
「何で事前に──」
「嘘ー! 事前に分かってたとか嘘ー! 嘘だもん!」
目を瞑り、ふるふると手を振り回し喚く少女。
「何でしょうもない嘘なんかついたんだ」
「エ、エイプリルフールだからよ」
刑事は頭を抱えてから、
「大人をからかうのもいい加減にしろよ!」
頭に血が上った。
これまでの反応からして涙目でうずくまるだろうと思っていた少女は、
「つまり、そういうことよ」
毅然とした態度で言葉を返してきた。やっぱり涙目ではあったが。
「まぁ、彼の場合は、大人をからかったんじゃなく、大人にからかわれたんでしょうけどね」
「…………?」
「えぇ、全ては小さなイタズラ心のすれ違いだったんです」
少女はどこか遠いところを見る目になって言う。
「………これで分かったはずですよ、刑事さん。わたしはこれで」
歩いて去っていこうとする少女の手首を掴む。
「オイ」
「な、ななな、なに?」
振り返る少女の目は既に潤んでいたが、刑事は気にしない。
「最後まで話せ」
「ま、まーだ分からないんですか? 刑事さん、あなたってホントに」
そこまで言われて耐え切れず、右の拳を振り上げる。
「ひゃっ! 暴力反対暴力反対暴力反対っ!!」
俯いてうずくまる少女。
「はいはい、分かった。暴力は振るわない」
「ほんと?」
少女はいまだうずくまったままだ。
「あぁ、ホントだ」
「ほんとのほんと?」
潤んだ目で少女が見上げてくる。
「あぁ、ホントのホントだよ。だからこっちの話もマジメに聞いてくれ」
「分かった」
目尻に溜まった涙をぬぐい、少女が立ち上がった。
「じゃあまず聞こう。お前はどこまで分かってるんだ」
「……何も」
一体何を言っているのだ。刑事はいまだマジメに話してくれようとしない少女に苛立ちを感じ、やや荒い口調で返す。
「何もってどういうことだ。何が分かってるのか聞いてる」
「報道されていること以外は知らないし、分かんない」
「ここまできて嘘ついてもしょうがないだろ!」
「嘘じゃないっ!」
そう言う少女の目は嘘をついているようには見えなかったし、何より自分でも言ったように、嘘をついてもしょうがないのだ。
何も知らない? 一体どういうことだろうか。
「じゃあ、何で事件に『エイプリルフールが関わっている』って分かったんだ?」
「やっぱりほんとにそうなの!? すごい! わたしってば天才かも!」
少女は目をキラキラと輝かせる。
刑事は頭を抱えながらも、話を続けるしかない。
「何も、知らなかったのに、エイプリルフールがどうこうって話を思いついたのか?」
「男の人に外に放り出されそうになって、何か言わなきゃ、って思って」
「本当の年齢は?」
「9さ──15才っ!」
必死に言い直す少女を見て、刑事はさらに頭を抱え込む。何も知らない9歳の少女が、こんなところにやってきてしまっているのだ。
「探偵って言うのは?」
「もちろん嘘よ! ──じゃなくて、その、あの」
刑事は意を決して言う。
「早く家に帰りなさい。もう夕方だ。ご両親も心配してるだろう。なんなら、家まで送っていくから」
本当はそんな暇など無いのだが、ここまでつれてきてしまったのはこちら側の責任だ。
「いやよっ! わたしは全部話したんだから、あんたも全部話しなさいっ!」
「部外者に捜査情報を伝えるわけには」
「容疑者の少年はきっと、親が殺された、って言い張ってるはずよ」
「何で分かるんだよ」
頭を抱えるとかではなく、もはや呆れる。
これならさっさと満足させたほうが早く帰るか。どうせ情報を広めるような手段も無いだろう。
「分かった。じゃあ今わかってることを話すよ」
それから約15分ほどかけて、今わかっていることを全部話していった。
「ふ~ん……分かったわ。これで全てつながったわ!」
「ホントかよ」
すっかり疲弊した刑事は少女の言葉を軽く流す。
「まず、少年は家に帰った。そのとき殺されている両親をもくげきした。これは幻覚ではないわ。きっと、少年の両親はエイプリルフールのドッキリを考えていたんだわ」
そんなわけあるか、と返す気力も今は無い。
「精神的に動揺した少年は家を飛び出し、はんかがいまで走った。そこで殺された男にいちゃもんをつけられ金を脅し取られそうになった。現場に落ちてた連絡先の紙はそれね。そこでまたも少年は大人にからかわれるの。自暴自棄になって受け答えする少年は『親が殺された』っていうわけよ。勿論男はそれを信じないし、誤魔化そうとしてるって思うから『自分が殺した』って嘘をつくのよ。エイプリルフールだからね。すると少年はげっこうして男が持っていたナイフを奪って──ちょっ! 何するの! 腕つかまないで変態痴漢! うー離せー!」
我慢の限界が来た刑事は、少女をひっつかみ留置場の建物から放り出した。
愚者は、誰──?
───────────────────────
えぇ、まさか3章まで書くと思っていませんでしたよ。
前回と同じく文句はATフィールドで弾き返しますので!←
感想、よろしくお願いします。