東芝(本社・東京都港区)の協力企業から派遣され東京電力
福島第1原発事故の収束作業中に心筋梗塞(こうそく)で死亡
した男性作業員の遺族が、「発症は短期間の過重業務が原因」
として週内にも労災を申請することが11日、分かった。
同原発事故の収束作業をめぐる労災申請は初めてとみられ、
労働基準監督署の判断が注目される。
◇遺族「短期間の過重業務が原因」
作業員は5月14日に死亡した静岡県御前崎市池新田、配管工、
大角信勝さん(当時60歳)で、タイ国籍の妻カニカさん(53)が、
東芝の労災保険窓口となっている横浜南労働基準監督署(横浜
市)に労災申請する。
東芝などの説明によると、大角さんは浜岡、島根原発などで作業
経験があり、収束作業を請け負った東芝からみて4次下請けに
あたる御前崎市内の建設会社の臨時雇いだった。
5月13日から午前6~9時のシフトで集中廃棄物処理施設の配
管工事などを担当し、2日目の14日午前6時50分ごろ、特殊
のこぎりを運搬中に体調不良を訴えた。福島県いわき市内の病院
に運ばれ、午前9時半過ぎ、心筋梗塞での死亡が確認された。
作業の被ばく放射線量は計0・68ミリシーベルトと少なく、被ばくの
影響はないとされた。
一方、大角さんが体調不良を訴えてから病院に着くまで2時間以上
かかるなど救急体制の不備が指摘され、以降、東電は現場に常時
医師を配置する措置を取っている。東電、東芝からカニカさんに
見舞金や補償は支払われていない。代理人の大橋昭夫弁護士は
「大角さんは防護服とマスクを装着する過酷な環境で働いていた。
命がけで作業に従事した大角さんにあまりに冷たい対応」と話し、
遺族が証言する遺体の状況から死因もより詳しく調べてほしいという。
カニカさんは「健康上の特段の問題はなかった」とも話し、東電と
東芝に損害賠償を求めることも検討している。
労災申請について東電は「(大角さんの死と)業務との関連性は高
くないと考えている」と話している。また東芝広報室は「労働と心筋
梗塞との因果関係は不明で、今の段階では労災だったかどうかは
判断できない」としている。
◇「危ないと知らず送り出した」と悔やむ妻
「危ないところとは知らずに夫を送り出してしまった」。大角さんの妻
カニカさんは悔やむ。配管工として全国の原発を転々とし、溶接で
作業服によく穴を開けて帰ってきた。福島へ行く前日の5月10日、
カニカさんは新しい作業服2着と靴や帽子などを買い、旅行かばん
に入れた。
11日午後8時ごろ、福島第1原発の宿舎に到着した大角さんから
電話があった。
「寂しい?」
「現場は暑いから気をつけてね」
「僕を心配しないで、自分のことを心配しなさい。あと2年働く。
お前は言葉(日本語の読み書き)も分からないから、2年後は一緒に
タイで農業をしよう」。それが夫婦の最後の会話だった。
「いつも私をかばってくれる思いやりのある夫でした」とカニカさんは
声を震わせる。「最後まで私のことを心配してくれていました。たった
3日で死んでしまうなんて……」
15日朝、福島県内の警察署で夫の遺体と対面した。両耳が濃い
紫色に変色、ほおやあごに傷があった。でも、病死とされ、遺族には
何の補償もない。
カニカさんは弁当製造のパートとして働いている。朝5時に家を出て
職場に向かい、帰りは午後7時、残業があると午後10時ごろになる。
1カ月の手取りは13万円ほどだ。家にはテレビはない。「夫がいないと
道も分からない」と心細さに涙する。「ただいま」「おう、お帰り」という
夫婦の会話を思い出す。
今でもカニカさんは1人で暮らすアパートで「ただいま」と声をかける。
でも、返事は返ってこない。
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福島第一原発作業員が体調不良、病院で死亡(1人目)