【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第5話~霧の山脈にて~ | 緋紗奈のブログ

緋紗奈のブログ

このブログではモンハンやデジモン
日常で起こったことを自由気ままに
マイペースで描いています

捕捉

・古代語→古代足形文字のこと。ポケモンが使っていた言語

・ヒラガ文字→1000年前まで使われていた古代足形文字とは違う古代語。

古代足形文字より難しい上に残っている文献も圧倒的に少ない

 

ちなみに一般的に使われているのは足形文字です。

 

 

◇◆◇

 

 

突然ですが私は霧の山脈のダンジョンを攻略中に絶賛大ピンチに陥っています。

それは何故か?

理由は二つあるのですが、先ず一つ目は脚に怪我を負ってしまって自分では動けません。

逃げる時に破壊光線が当たってしまい、結構深い傷になっています。

痛くて立ち上がることさえ出来ません。

 

そして二つ目…。

私は今おんぶされています。

誰にかって?

ゼフィラという名前持ちのガオガエンにです!

 

「(ど…どうしてこんなことになってしまったのでしょう…)」

 

ゼフィラと密着しているから、もう私の鼓動が尋常じゃなく早い

この濃霧の中、ゼフィラは音で周囲を把握しているそうです。

つまりめちゃくちゃ聴覚が鋭い。

私の鼓動の音…聞こえていません…よね?

もし聞こえていたら恥ずかしいどころの話じゃないんですけど!!

今すぐにダンジョンから脱出したいけど、私の荷物はノワルーナが持っているんですよね。

自分では歩けませんし、この状況から逃げることが一切出来ません。

…というか、そもそもダンジョンから脱出できるアイテム持ってなかったです。

 

「(でも…ゼフィラの背中がとても大きいからでしょうか? 不思議と安心します。炎タイプだから体温も熱いくらいだし、はっきり言うと心地良いんですよね…)」

 

ドキドキして落ち着かないハズなのに心地良いという未知の感覚。

やっぱり私はゼフィラのことが好きなんだな、と改めて思います。

 

「脚痛むだろう? もっと体預けてていいぞ。敵の排除はノワルーナに任せているから問題ないし。」

 

「え!? い、いえ大丈夫です。背中貸して貰って、それだけでも有り難いくらいなのに…。」

 

「そうか? でもかなり酷い怪我だから無理をする必要はないからな。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

ゼフィラの優しげな声が心に響きます。

昨日、一昨日とお会いした時はどちらも気が立ってイライラしておいでだったので余計。

ルカリオは波導を読むと相手の考えていることや気持ちが分かります。

しかし知らなくて良いことまで知ってしまうため、制御出来ないと心を病んでしまう者も少なくありません。

私はカネレ団長の元で修業したので波導を読む能力を制御できます。

普段深く波導を読んだりすることは絶対にありません。

でも今は…ゼフィラの優しくて綺麗な波導を感じていたくてその制御を少し解いています。

結構欲深いんですね私は……。

こんなこと口が裂けても言えません。

 

 

 

さて、どうしてこんなことになったのか順を追って説明しましょう。

まず私は霧の山脈を今度こそ攻略するために万全の準備をして挑みました。

万が一力尽きた時のために『復活の種』も持ったし、お腹が空いて倒れないように『セカイイチ』も複数個用意しました。

まぁいつもこれくらい用意するんですが、それでも駄目なんですよね。いつも10階に差し掛かると疲れが出始めてしまい、14階に到達する頃にはクタクタになってしまいます。

体力は『オレンの実』でも回復するんですが、疲労はそういう訳にはいきません。なるべく疲労を溜めないように行動しているつもりなのですけど…。

それ以前に霧の山脈って何階まであるのでしょう?

あまりの濃霧にクリアした者がいないので誰も知らないんですよね。

だからこそ頑張らなければいけません!

最深部に何があるのか自分の目で確かめなければ!

 

そして霧の山脈に入って二時間。

ようやく12階までたどり着きましたが、もうフラフラです。

 

「はぁ…はぁ…どうしてでしょうか。やけに今回は敵ポケモンとの接触が多いですね。」

 

疲れている原因に戦闘が多いのもあります。

フロア中の波導を感じ取って敵ポケモンの位置を把握して、なるべく接触しないように遠回りしているのに無駄に終わっている感じがします。

もうすぐ13階へと上がる階段があるだろう部屋にたどり着くのに息絶え絶えな状態です。

 

「13階に行ったら少し休憩しましょうか。少し休んで駄目なら撤退ですね。」

 

手にダンジョンから脱出するためのアイテム『あなぬけのたま』を持っていつでも脱出出来るように準備します。

そしてその部屋に足を踏み入れた時だった。

 

「……!!! まずい! モンスターハウス!!」

 

モンスターハウスとは…

入った瞬間に大量の敵ポケモンが出現する部屋のことです。

敵ポケモンだけではなく罠も多いことが特徴。

袋叩きに遭うことも多く、一体一体倒していてもキリがないので範囲技や敵ポケモンの動きを止めるアイテムを持っていないと対策がかなり難しい。

疲労している今の状態ではまず勝ち目がありません。すぐさま逃げなくては…

 

「……あぁ!!」

 

焦って油断した一瞬の隙。

なんと持っていた『あなぬけのたま』をはたき落とされた!

急いで拾おうとしましたが、敵ポケモンに拾われてしまい無理でした。

否が応でも全滅させる道しかなくなってしまいました。

一先ず、通路に避難し一体ずつ確実に倒さなくては…。

 

と、思った次の瞬間でした。

 

「…え? 破壊光……」

 

威力は特大、通常は破壊出来ない通路の壁さえ大破させる高威力技『破壊光線』

それがカエンジシの口から放たれようとしているのが見えました。

いくら鋼タイプの私でもあれを喰らえばひとたまりもありません!

咄嗟にバッグから移動速度を上げる『俊足の種』を口にして回避に専念します。

 

ドオオーーーン!!

 

私の真後ろにあった壁が粉々に破壊されました。

なんとか回避に成功しましたが、まだカエンジシが何体かいるのが見えます。

とてもじゃないですが、まともに相手をするのは危険すぎます。

 

「(ここは強行突破しかありませんね。移動速度が上がっているうちに階段まで一気に行くしかない!)」

 

疲労困憊の体に鞭を打つことになりますが、これは仕方ありません。

多少ダメージは負ってしまいますが、そうでもしなければこのピンチを切り抜けられない。

私は呼吸を整えると奥にうっすら見える階段まで走り出した。

 

「(い…痛い…! でも怯んだら駄目…)」

 

敵ポケモンの攻撃が当たるけど気にせずに階段まで行きます。

 

「グオオオオオォォォォォ!!」

 

そして階段まで後一歩と行ったところで再びカエンジシから破壊光線が放たれた。

 

「いっぎ…!!」

 

足に激痛が走る!

その瞬間に階段まで到達し、私は13階へと上った。

 

 

 

 

「……うぅ……」

 

13階へとたどり着いたけど、無事ではありませんでした。

痛くて動けません。特に足が…。

恐る恐る足へと視線を向けると、なんと足の皮膚が裂けてがズタズタになっていました。

階段へ行くあの瞬間に破壊光線の爆風に当たってしまったみたいです。

折れてはいないみたいですが出血が酷い。

動かなくちゃいけないのに激痛で立つことさえ出来ない。

 

「い…たい……。でも…動かないと……部屋の真ん中にいればまた袋叩きにあって…しまう…」

 

せめて壁際まで行こうと這いつくばりながら移動しますが、足が地面に擦れるたびに激痛が走る。

あまりの痛みで涙が溢れてきます。

10分近く掛かってなんとか壁際まで来ましたが、疲労も合わさりもう動くことが出来ません。

 

「出血…止まっていないみたいです…ね…。」

 

その出血のせいで意識が薄れてきました。

全く考えがまとまりません。

 

「カネレ団長……助け……て……」

 

それだけ口にした私は意識を手放してしまいました。

 

 

 

 

「……ル……」

 

……? 誰かの声が聞こえてきます。

気のせい?

こんなダンジョン内で私に声を掛けるポケモンなんているハズがありません。

 

「……ィル……ウィル!」

 

あれ? 気のせいではない?

しかも種族名ではなく私の名前まで呼んでいる。

一体誰が?

 

「ウィル、しっかりして! 大丈夫?」

 

すっかり重たくなった瞼をなんとか開けるとそこにいたのは色違いのジュナイパー、ノワルーナでした。

 

「……ノワルーナ……」

 

「良かった! 気が付いて…かなりの深手を負っているから心配したよ。」

 

こんなところで顔見知りのポケモンと会うとは思いませんでした。

このまま死ぬものだと本気で感じていた私には救いでした。

 

「…あ、れ…? 何でここにノワルーナが…」

 

「僕達も霧の山脈のダンジョン攻略に来ていたんだ。ちょっと探し物をしててね。そしたらウィルが血だらけで倒れているのを見つけてビックリしたよ。」

 

「そう…でしたか。申し訳ありません、ご心配をお掛けしてしまったようですね。」

 

ふと、深手を負った足のほうを見てみると血溜まりになっていました。

まだ出血が止まっていない様子です。

そのせいか意識を取り戻したものの、頭がボーッとします。

 

「体温が低いね、出血のせいだと思うけど。もうちょっと待ってて、そろそろゼフィラが戻ってくるから。」

 

え? 今なんと言いましたか?

ぜ…ゼフィラも…いるの…?

出血のせいで朦朧としているはずなのにゼフィラの名前を聞いた途端、急速に覚醒していきます。

少し待つと部屋にゼフィラが入って来ました。

濃霧の中なのに黄金の波導を持つため非常によく目立ちます。

 

「あぁ、気が付いたみたいだな。大分傷が深いみたいだが、意識が戻って良かった。」

 

「お帰りゼフィラ。お目当てのもの見つかった?」

 

「代用にはなりそうなものはな。」

 

ゼフィラが私に近付いてきます。

それだけなのに鼓動が高鳴る。

に…逃げたい。でも足が痛くて身動きすら出来ない。

 

「大丈夫か? 何があったかは知らねぇが、足の皮膚が裂けてるぜ。」

 

「は…破壊光線の爆風に当たってしまったみたいで…なんとか階段までたどり着いたのですが、ここで力尽きてしまいました…」

 

「そうか。」

 

ゼフィラが私の傷を見ています。

触ると痛いのが分かっているからか見るだけに留めているみたいですが、見ただけでも分かる酷い傷です。

 

「どう?」

 

「思っていた以上に深いな。出血も止まってねぇし…普通に包帯巻いたくらいじゃ無理そうだな。」

 

「じゃあどうするの?」

 

「仕方ない。焼いて傷口を塞ぐか。」

 

「……え?」

 

「鋼タイプのお前にはかなりキツいけど、このままだと出血多量で危険だ。めちゃくちゃ痛いだろうけど我慢出来るか?」

 

どれくらい痛いんでしょうか。想像出来ません。

でもゼフィラは私の体のことを考えてそれが一番最善だと判断したのでしょう。

だから私も覚悟を決めなくては!

 

「分かりました。お願いします。」

 

「よし。ノワルーナは水を汲んできてくれ。チーゴの実はあるけど冷やした方が楽になるだろうからな。傷口も綺麗にしないとだし。」

 

「うん、分かった。」

 

「じゃあ早速始めるぞ。」

 

そういうとゼフィラは私の足を持ち上げて自分のお腹の辺りに近づけました。

はい!? な、なんで…焼いて塞ぐって言ってたのに何をしているんですか!?

 

「ゼ…ゼフィラ…あの…」

 

「あ? あぁ、そうか知らないのか。俺炎タイプなんだけど口から炎吐けないんだよ。臍(へそ)からしか炎出せないんだ。腰の周りの炎も臍から出ているものだ。炎のベルトと呼ばれている。」

 

「えぇ!? そうなんですか!? す、すみません勝手に動揺して…」

 

「いや、知らなきゃそれが普通の反応だろ? 気にするな。」

 

うう…。ゼフィラが冷静すぎて動揺してしまった自分が恥ずかしいです。

穴があったら入りたいくらいに恥ずかしいけど事態は待ってくれません。

ゼフィラの腰回りの炎が更に激しく熱を放ちます。

そして「ジュウ」という音と共に激痛が全身を駆け巡る。

 

「うっ……!!!」

 

「頑張れ。なるべく早めに終わらせる。」

 

い、痛い痛い痛い痛い!!

でものたうち回りたいのを我慢して必死に動かないように堪えます。

気を失った方が楽になるだろうけど、あまりの激痛で気絶しそうになると痛みで覚醒するを繰り返す。

ほんの数分でそれは終わりましたが、私にはとてつもなく長い時間やっているように感じました。

 

「終わったぞ。もう大丈夫だ。」

 

「はぁ…はぁ…。ありがとう…ございます。」

 

ゼフィラは持っていたバッグからチーゴの実と植物の葉っぱを取り出しました。

30cmはありそうな長い葉っぱをくしゃくしゃにすると、今度はチーゴの実を握りつぶしてくしゃくしゃにした葉っぱにチーゴの実の汁を塗っていきます。

一体何をしているのかサッパリ分かりません。

 

「これは復活草って植物の近縁種の葉っぱだ。本当は復活草そのものがあったほうが良かったんだが、あにいくこれしか見つからなくてな。復活草にはかなり劣るがそれなりに薬効がある。痛みを和らげることくらいは出来るだろう。ノワルーナが水持ってきたら足に巻いてやるからちょっと待ってな。」

 

「は…はい」

 

ゼフィラが私が今抱いていた疑問に全て答えてくれました。

もしかしてまた顔に出ていましたか?

これまた恥ずかしい…。やっぱりちゃんと修業しないと駄目みたいです。

しかしゼフィラ、驚くほど詳しい。

復活草の存在自体は私も勿論知っていますが、その近縁種なんて全く知りません。

復活草が見つからなかったからそれで代用するなんて私には思いつきません。

一体どれだけの知識を持っているのでしょうか?

私には検討がつきません。

 

「ゼフィラ、水持って来たよ。」

 

そこへ水を汲みに行っていたノワルーナが戻ってきました。

ゼフィラが水が入った容器を受け取るとなるべく痛くないように水を私の足へかけます。

 

うぅ…さっきほどじゃないけど滲みて痛い…。

 

そして傷口を綺麗にすると先ほどチーゴの実の汁を塗った葉っぱを私の足へ巻いていきます。

確かに痛みが引いている気がします。

でもそれ以上に傷が酷いため気休め程度といったところでしょうか。

 

「応急処置だけどこんなものだろう。さて、これからどうしようか。」

 

「どう…とは?」

 

「いやね、ウィルだけ先に脱出させようかと最初思ったんだけど予想よりもウィルの傷が深かったからね。ダンジョンから脱出してもウィル歩いて街まで戻れないだろう? 調査団の仲間が近くにいるなら話は別だけど、ウィル1人でここまで来たんだよね?」

 

「……あ……」

 

今の私は一人で動くことが一切出来ません。

ゼフィラ達に付いていくことも、街まで辿り着く事も到底不可能。

霧の山脈は街から比較的近い場所にありますが、いくら近いと言ってもそれなりに距離はあります。

それに霧の山脈の周りは原生林で街とは違い弱肉強食の生存競争が起こっている場所です。

そんな原生林に全く動くことが出来ない私がいれば一瞬で餌食にされるのが目に見えています。

 

「…どうすればいいのでしょう?」

 

「そうだな。……う~ん……。」

 

ゼフィラが何やら考え込んでいます。

彼らにも予定があるのにそれを崩してしまって申し訳ない気持ちになります。

 

「…ノワルーナ。お前一人でここから先の敵ポケモン全部倒せるか?」

 

「問題ないよ。」

 

「じゃあノワルーナ敵の処理を頼む、道具もお前が持て。俺はウィルを背負うから戦いには参加出来なくなる。ウィルを調査団まで送り届けるけど、今はダンジョン攻略を優先させるぞ。」

 

「了解!」

 

「え!?」

 

それはつまりゼフィラが私のことを背負ってこのままダンジョン攻略をするということですよね!?

ダンジョン攻略中私にずっとゼフィラと密着していろと!?

ゼフィラは100%善意で言ってくれているんですけど、一体どれくらいの時間ですかそれは。

それほど長い時間ゼフィラと密着していたら私の心臓が保たないです!

 

「そ、そんな…ただでさえご迷惑をお掛けしているのに…。」

 

「困った時はお互い様だろ? 重症のウィルをこのまま放っておくことは俺には出来ない。でもここまで来てダンジョンから脱出するのは惜しいしな。俺の勘では後4~5階行けばいいハズ。ノワルーナは意外と細いからウィルのこと背負えないし、それに今のウィルは血を流しすぎて体温が低いから、炎タイプで体温の高い俺と接していた方がいい。」

 

ぐぅの音も出ない正論。

駄目です、どうあがいても私にはゼフィラに背負われる運命しかない。

 

「お…願いします…。」

 

「納得してくれたみたいだな。ノワルーナ彼女を俺の背中に乗せるの手伝ってくれ。」

 

「分かった。ウィル、ちょっと失礼するよ。」

 

「は…はい、ありがとうございます。」

 

 

と言うわけで私はゼフィラに背負われることになりました。

ゼフィラが近付いただけでドキドキしてしまうのにこんなに密着していたら…

お願いですから私の鼓動の音にだけは気付かないで下さい!

でもゼフィラの毛並みって調査団の通信担当であるニャオニクスと全然違うんですね。

ニャオニクスはフワフワしてて、ゼフィラは固いけど手触りが良い。

頬から長い毛が生えてますけど、そちらは体よりは柔らかい。

……などと、意外と観察している自分がいます。

 

熱いくらいの体温は血が足りなくて低体温の私には丁度良い。

ゼフィラの優しくて綺麗な波導もきっと私が心地良いと思う要因の一つでしょう。

そして私は気が付かないうちにゼフィラに完全に体を預けて眠っていました。

途中でハッと気付いて起きたのですが…

 

「寝てて良いぞ。何かあったら起こすから」

 

と、ゼフィラに言われて再び瞼を閉じて眠りました。

疲労も合わさり先ほどより深く眠っていたのか戦闘している音が響いても全く起きないほど。

次に目を覚ましたのはダンジョン攻略が終わった時でした。

 

 

◇◆◇

 

 

なんかめっちゃ長くなったぞ!?

前書きと後書き合わせると7000字近くとかやべぇ!!!

多分次はここまで長くならない…ハズ