12) 義父との諍い 母の言葉
12) 義父との諍い 母の言葉 Explode in Anger
叔父さん宅から Erika の母親宅へと戻り、Erika と従妹の子と一緒に玄関先の竹の縁台でくつろぐ。
昼下がりの風が草と土と水の匂いを運び、生垣の葉がさわめく。
こうして竹の縁台に座っていると、ここは何処で私たちは誰なのだろうという、不思議な感覚にとらわれる。
それは永遠と呼ぶべきものか、既視感なのか分からないが、大脳基底核の奥深くから来る感覚に思えた。
やがて、Erika の義父がやって来て会話に加わると、場の雰囲気は一変した。
最初は無視していた Erika だが、少しずつ口を開くと、義父の一言一言に反論を始めた。
何がそれほど気に入らないのか分からないが、Erika の声量はラベルのボレロのようにクレッシェンドを続けて、遂には叫び声に変わっていた。
気が付くと、近所の人々が窓や路地から顔を出して、一体何事だろうかとこちらを窺っている。
義父は押し黙って家の中へ立ち去ったが、Erika の怒りは収まらない。
全身を震わせて大きなジェスチャーを見せながら、家の中の義父に向かって絶叫を続ける。
こんなに怒りを露にした人物を見るのは初めてだ。
怒りのあまり、Erika が卒倒したとしても、不思議ではなかった。
[ニワトリの一家,ヤソートーン] (2012)
母親が、裏口から西側の庭を通ってやって来た。
母親が諌めても、Erika は抗議するように叫び続ける。
このまま Erika が母親に向かって叫び続けていると、家の中に消えた義父が得物を手にして現れそうな気がして、縁台の上の屋根に猫が飛び乗る音も、義父の足音に聞こえた。
ไป! ไป! ไป!
母親は大声で繰り返し叫ぶと、Erika の荷物を家の中から持ち出して、無造作に路上に放り投げた。
何よ、私は犬じゃない!
Erika はそう叫びながらも、母親の強い言葉に押されて、裸足のまま大通りの方へ歩き出す。
私は犬じゃない!
Erika の叫び声が次第に遠ざかって行く。
Erika が残した Krong Thip に火を点けると、再び昼下がりの風が草と土と水の匂いを運んで来て、ここは何処で私は一体何をしているのだろうという感覚にとらわれる。
今ここで起きたことは、いつかは起きた衝突に思える。
しかし私のイサーン訪問がなかったとしたら、今日ではなかったことは間違いない。
気が付くと Erika の母親が、私の荷物を縁台の横に並べていた。
⇒§13) 路地の幼馴染
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