17) タイ文字のグラフィティ・ライト | BIG BLUE SKY -around the world-

17) タイ文字のグラフィティ・ライト

17) タイ文字のグラフィティ・ライト  Graffiti Light, Written in Thai

フロント前を横切ってエレベーターを通り過ぎ、重い防音扉を通り抜けた先にディスコは在った。
広い店内に客は数えるほどしかいない。
時計を見ると 24時を回っていた。
ランウェイの有るステージでは、6人編成のバンドが演奏を聴かせる。
バンドは若いが演奏はしっかりしており、聴き覚えの有る楽曲が続く。

壁に輝くタイ文字のグラフィティ・ライトを眺めて、一文字ずつ追いながら読む。
ฮาร์ลีย์-เดวิดสัน
ハーレー・ダビッドソンのタイ文字表記だろうと読み取った。
合っているのか聞こうと思って振り返ると、さっきまで座っていた椅子に Erika の姿が無い。
周りを見回すと、ランウェイに沿ってステージへと向かう Erika が見えた。
紙幣を持った右手を高々と上げて、一番左に立つギタリストに差し出す。
若いギタリストは演奏する手を停めて、Erika から紙幣を受け取った。

1,000バーツのチップは初めてだそうです。
皆でご飯食べてって言ったら、何度もありがとうって。
Erika は、困っている人や頑張っている人を見ると、支援したい気持ちに駆られるのだ。
アユタヤのカウボーイ・バーで、小学校低学年くらいの男の子の物売りから、ジャスミンの花飾りを五個買ったことを思い出す。
Erika の慈悲深さは尊敬に値する。


BIG BLUE SKY -around the world--1701_炭火で煮炊き
[炭火で煮炊きする従弟,ヤソートーン] (2012)


Erika が国に還って2年が過ぎた頃、横浜橋のタイ料理店が火災に遭った。
店の表につながれた犬と遊ぶ Erika と、談笑していた店員を思い出して、人伝に少しばかりの気持ちを送った。
営業を再開したと聞いた時には、再び店が軌道に乗ることを願った。
これは、Erika と接したことで、自分の行動が影響を受けた一例だと思う。
そう言えば、横浜橋のタイ料理店のことを、Erika に話していなかった。

曲が終わったところで、Erika がよく通る声で "กัญชา" (Kancha: ジャマイカのレゲエの歌詞に出てくるガンジャのこと) と叫ぶ。
チップを受け取った若いギタリストがメンバーと話して、聴き慣れたアルペジオを弾き始める。
Carabao 初期の代表曲 "กัญชา" は、タイ・バンドの必修曲なのだろうか。

" ..... ไม่มีวันใดมืดมิดสนิทนา--------------------น "

5月のタイフェスで聴いた Aed Carabao の迫力には到底及ばないが、若いシンガーが決めた 20拍のロング・トーンに、Erika は母親のように拍手をする。
その Erika の向こう側の壁には、タイ文字のグラフィティ・ライトが輝いていた。


⇒§18) 竹と炭の朝食


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