20) 白夜の街 | BIG BLUE SKY -around the world-

20) 白夜の街

20) 白夜の街  Town under the Midnight Sun

「アユタヤはいつまでですか?」
「アユタヤには二晩泊まって、バンコクへ行って、夜の飛行機に乗るんだ」
「もう一晩ですね。明日はどこ行きます? 何したいですか?」
「今日は考え多いはいいよ、考えしないで明日考えよう」 タイ語を直訳した風の日本語で答える。
「そうですね」

午前 4時を回って、クラブも店仕舞いのようだ。黒いドレス・シャツの若者に、手を振って別れを告げる。クラブに Annie を一人待たせて、Lily のバイクの後ろに Erika と一緒に乗って、3人乗りで元来た道を路地へと戻る。

「あ~なた~」
来た道と同じように、Erika と Lily は嬌声を上げ続ける。今の私には 「Anattā」 (無我) に聞こえた。

少しだけ白んで来た雑木林の中の砂利道を走っていると、白夜の国にいるような錯覚に囚われた。白夜は極圏の夏の現象で、熱帯で起きるものではないが、僅かに視認出来る雑木林の木の幹は、白夜の終わり近くの季節の色に似ている。白夜はタイ語で何と言うのだろうか? 母語の異なる Erika と、思考と経験を共有することは難しい。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-2001_dawn
[バンコク郊外の青い朝焼け] (2008)


やがてバイクは雑木林を抜けて西へ曲がり、路地のメイン・ストリートに出る。ディスコの前を通り過ぎる頃には、街の輪郭が見えるくらいに空は白んで来た。白夜の街に連想を誘われる。
夜明けの街にヒールを響かせた Erika のブーツ ...  あのブーツはどうしたのだろうか?

酔っ払い運転のバイクは、蛇行しながらカウボーイ・バーの角を北へ曲がる。この路地は横浜橋の裏通りに似ている。横浜橋で、松前イカを探して見つからなかったことを、Erika は覚えているだろうか?

バイクは 777ホテルに到着する。私を降ろすと、Lily と Erika は駐車場を三周して Annie の待つクラブへと戻って行った。
私は、カウボーイ・バー前の路地を一周して部屋に戻り、窓を半分開けて熱帯の湿った甘い風を入れて横になった。

「Anattā~」
寝入ってしばらくすると、外から Erika 達の嬌声が聞こえたような気がする。本当に彼女達だったのか、観念奔逸が減衰して行く過程での幻聴だったのかは分からない。


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