16) 砂利道の先、雑木林の果て | BIG BLUE SKY -around the world-

16) 砂利道の先、雑木林の果て

16) 砂利道の先、雑木林の果て  A Gravel Road across Coppice

2時過ぎにディスコを出て、またもや Lily のバイク 3人乗りで次の店へ向かう。
ディスコから東へ出てしばらく真っ直ぐ進むと、Lily は蛇行しながら左へハンドルを切って脇道に入る。両側は雑木林で、やがて舗装は途切れて砂利道となり、人家も街路灯も無くあたりは真っ暗だ。時々顔に羽虫がぶつかって来る。

「あ~なた~」

Erika は、3人乗りの真ん中で嬌声を上げながら、右へ左へ後ろへ大きく身をくねらせ、その度に Lily のバイクは蛇行する。Lily も Erika を真似て日本語で嬌声を上げるので、「Erika~」 「Lily~」 一緒になって叫ぶ。Lily の名を呼ぶ度に Erika が脇腹をつねる。

空の星は輪郭がぼやけ、乱視の目で見たかのように斜め十文字に 5つ重なって見えた。赤道近くで空気層が厚いからなのか、それとも湿度の高い空気が重層的に揺らいでいるからなのだろうか。
熱帯で満天の星の煌きを見ながら、深夜に雑木林の中の砂利道を 3人乗りのバイクで走っていると、自我同一性の拡散が始まるのが分かる。星明りに見る Erika の首筋のタトゥーが美しい。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-1601_tattoo
[Happiness Tattoo] (2010)


砂利道から左へ曲がると、前方に灯りが見えて微かにエレクトロニカが聞こえてきた。こんな雑木林の果てにクラブがあるとは、想像出来なかった。
Erika と私はバイクを降り、Annie を迎えに戻る Lily を見送ってクラブへと向かった。入口へ向かう小道から空を見ると、雑木林の上に右側が幾分か欠けた月が輝く。

「フー・ムーンね」

Erika が耳元で囁くように言うと、首筋から両腕に鳥肌が立つ。Erika は、立ち止まった私の手を引いた。


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