平安・現代連結定理 第五章(7)
第五章 街に飛び出せ平安人(7)
「秋羅~、見てこれ!美しいなあ。」
「何?」
無理やりつばを飲み込むと、秋羅は紫杏の隣に並んだ。ショーケースの中には真っ赤な宝石が埋め込まれた金のネックレスが横たわっていた。説明を見ると、17世紀のフランスの貴族が使っていたものだと書いてあった。
「きれい……」
言葉を失う紫杏。
「うん、そうだな。」
秋羅は適当なコメントしかできない不器用な自分を嘆いた。
「ところで、聖幻水晶の見分け方ってあるのか?」
ショーケースを眺めたままの紫杏に尋ねてみる。
「ああ、そうだ。わたしは聖幻水晶を探さなければならないのだった。」
「忘れんなよ……」
思わず秋羅は苦笑する。
「前にも言ったと思うが、聖幻水晶は美しく清らかなものにまぎれているらしい。大きさ、形は不明だけれど、おそらく色は透明だと思われる。」
「透明?だったらこんな赤い宝石見てる場合じゃないんじゃ……」
「……ちょっと見たかったから見てただけだよ。」
紫杏はすねてふくれてしまった。秋羅は話を戻す。
「でも、透明な石なんてその辺にごろごろあるだろ。『これこそ聖幻水晶じゃー!』っていう特徴はないの?」
「温かさ。」
「え?」
「聖幻水晶は、触れると温かいと聞く。」
「へー、そうなんだ!?」
(まさか、出来たての火成岩?……なわけないか。)
「だから……」
そう言って、紫杏は近くにあった別のショーケースに近寄る。その中には水晶がちりばめられたティアラと手鏡が並べられている。紫杏はショーケースに手を触れた。なんだか嫌な予感がする。
そしてその直後、予感は、見事に的中した。
「だから……この中身をどうしても触りたいの!」
興奮気味に声を上げると、紫杏は両手をグーにしてショーケースの上に振り下ろした!
「紫杏、やめ……っ!!」
秋羅は紫杏の前に回りこみ、彼女の両手首をつかんで押さえた。他の客の視線が何事だといわんばかりに2人に集中する。しかしそんな視線に構ってはいられなかった。
「おい、紫杏、だめだ!これは開けられないし、中身も触っちゃだめなんだよ!」
秋羅は紫杏の手首を掴んだまま、腕をゆっくり下に下ろす。
「なぜ?少し触れるくらいいいではないか。」
「よくないよくない!ものすごく貴重なものだから触れないようにしてあるんだよ。無理にケースをこじ開けたり割ったりすると、ブザーが鳴って警察に通報されて捕まるんだよ!」
紫杏の腕から力が抜けた。秋羅は彼女の手首を放す。紫杏が再びこぶしを振り上げることはなかった。
「でも、触らないとわからない。」
「無理なんだって。」
「もしかしたら聖幻水晶かもしれないのに。」
「残念だけど、無理なものは無理なんだよ。」
「……」
押し黙ってしまった紫杏の瞳が潤んでくる。
意外なランチ