平安・現代連結定理 第一章(6)
第一章 急なお客は平安人(5)
♪ちゃんちゃららんらんらんららららららちゃんちゃら……
突然、静かな部屋に明るいメロディーが鳴り始めた。時計の音である。四季家のリビングの時計は、1時間ごとにエレクトリカルパレードが流れ、時計の下方にあるミニチュアのドアからミッキーやその仲間たちが出てきて踊る仕組みになっている。約1年前、豊の友人からアメリカのディズニーランドのお土産にもらったものだ。最初は珍しくて良かったが、慣れると正直ちょっとうるさいし、電池がなくなるのも比較的早い。
「10時か。」
踊り終えたグーフィーがドアの中に入っていくのを見届けてから、春奈がぽそっと呟いた。思っていたより長い時間が経っていた。
「あ、そういや。いろいろ話したけどあたしの名前言ってなかったね。あたし四季冬乃。13歳。」
思い出したように、冬乃が急に自己紹介を始める。なんだか自分もそれに続かないといけないような気がして、秋羅は慌てて口を開く。
「おれは四季秋羅。15歳。」
「私は四季春奈、22歳。この3人の姉だよ。」
春奈も秋羅と同じ考えだったようだ。そして、
「俺は夏樹。19歳。」
ぶっきらぼうだが夏樹も名乗った。
紫杏は最初、戸惑いと混乱の混じったような複雑な表情になったが、すぐに口の端をきゅっと上げた。自分の言っていることを信じなかった者たちがみずから名乗ってくれたことで、なぜだかとても安心した。ふいに、自然と、言葉がもれる。
「わらわは寿紫杏。紫杏、と呼んでくれて構わぬ。齢は秋羅どのと同じ15じゃ。」
「15?」
3人が勢いよく振り向き、いっせいに秋羅を見る。
「なんだよ。」
「秋羅と同い年だってよ。」
「良かったね、秋兄ちゃん。」
そんなこと言われてもどうコメントしていいかわからない。
「そ、それがどうかしたのかよ。」
感じの悪い反応しかできなかったが、4人と紫杏を取りまく雰囲気は和やかだった。最初紫杏が現れた時のぎすぎすした空気はいつのまにか消し飛んでいた。
(もしかして、こいつ、うちの家族と打ち解けつつある?)
嘘のような現実のような変な感じ。驚きと興奮が混じった謎めいた気持ち。秋羅は現代人と平安人が同時に存在する不思議な感覚に酔った。
が、残念ながらその和やかな雰囲気は、紫杏の一言で一瞬にして消し飛ぶこととなる。
「ところで。」
「何?」
「いきなりじゃが、聖幻水晶が見つかるまでわらわを居候させてほしいのじゃ。」
「……え……ええぇぇぇぇ!?」
それは、あまりにも突然過ぎる申し出だった。
(何だよ、この急展開……)
秋羅は軽いめまいを覚えた。
一夜明けて…