オワLIVE!⑦-1 | チカチカしています

オワLIVE!⑦-1

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「先生、安い芝居はおよしになって?」

先生が私の持つ文集に口をあんぐり開けていると、背後から可憐で凛とした声が飛んでくる。


「ふふ。おまたせ」

みっちゃんだ。

右手でノートパソコンを小脇に抱え、拡声器を持った左手で髪を掻き揚げる。


あれは香港マフィアの秘書になっている時の仕草だ。


私の横に並ぶと下から舐めるように視線を動かし、小さいけれど良く通る声で

「ジャッキーご苦労様。下がっていいわよ」

と言った。

私は無言で頭を下げ、そのまま後ろに下がる。


てか香港編だけ何故に秘書。


「三谷先生」

私を下げてみっちゃんは先生に向き直った。

先生も体の向きを少しだけみっちゃんに改める。

それにしなやかな笑顔を向けて、マフィアの秘書官はまた髪を掻きあげ、口を開いた。


「先生、驚いてる顔してるけど実は冷静に言い逃れる方法考えてるでしょう?」

「え!そうなの!?」

「え?何でわかったの!?」

私たちは同時に驚いた。


「そんな粗チンの考えそうなことくらいお見通しよ」

「粗チンじゃねえし」

私たちは同時に突っこんだ。

しかしみっちゃんはそれを華麗にスル―して話を続ける。


「そう。コピーして配って、みんなが見たところでたかだか文章。いくらでも言い逃れできるし、信じられたとして大してダメージじゃないわ」

「いや、これは充分ダメージですけど?」

「だからもっとダメージの大きいもの、とあるルートから見つけてきたのよ」


先生に取り合わずにみっちゃんが取りだしたのは小脇に抱えていたノートパソコンだった。

拡声器を足元に置き、電源を入れて先生に向ける。


「何が出るか、先生分かる?」

画面にはDVDの文字が浮かび、やがて映像が流れ始める。


これは、バンドだろうか。

この高校の体育館の舞台の上に楽器を持った4人の男女。この学校の生徒だろうか。

中央のギターはタキシード、右のベースの女の子は純白のドレス、奥のドラムの男の子はフロックコート、左のキーボードの女の子はゴシックロリータ風だ。

何これ仮装?コミックバンド?


演奏を終えた後のようで、場内から拍手と「どうもありがとう」という声が聞こえる。

そして中央のギターが、場を仕切り直すように拳を突き上げた。


『みんなのってるかーい!!!』

『・・・・・・』


まさかの場内ノーリアクションである。

可哀そうだ。不憫すぎる。何この温度差。


あれ?でもこの声どこかで聞いた事が…

私が画面中央の男子生徒に目を凝らし、その姿を確認しようと画面に顔を近づけたその時。


「のぉぉぉっぉぉぉぉぉおぉぉおおぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!」

突然三谷先生の態度が豹変した。


いきなりみっちゃんに向かって覆いかぶさろうとする先生。

「ぎゃぁぁ!急になんですか先生!」

驚いて肩を掴む私。

「そのパソ俺に寄越せ!」

必死の形相で腕を伸ばす先生。

「マサキちゃん先生押さえて!」

私に指示をしながらボリュームを上げるみっちゃん。


パソコンの中のギターがマイクを手にして深刻そうに切り出した声が大音量で流れる。


『ではここで…ちょっと重大発表があります』


「うわー下げろ下げろ!!!」

「だって先生これ取りあげようとするでしょ?」

「取り上げるわ!そら取り上げるわ!」


『ではベースのツッキー、ちょっと前に来てください…』


「ほら、先生、大人しくしないともっとボリューム上げますよ?パゲムから拡声器も借りてきました」

「ヤメテ!」

「あれ?みっちゃん、これって先生?」

「大人しくしないと先生の青春時代の痛いところが校内にダダ漏れー」

「わかった!わかった!大人しくする!するからボリュームを下げてクダサイ!」


その台詞にふふん、と笑って、みっちゃんは先生の胸元に手を伸ばす。

そしてネクタイを抜き取って私に寄越した。


「マサキちゃん、手首縛りあげて」

「はい」

私は言われた通りに先生の手首を後ろ手に縛る。


「つい最近もこんなくだり見たような気がする…」

「最近はネクタイで男を縛るのがウケるんですよ」

先生の呟きにみっちゃんが嘘か本当か分からないような答えを返した。


『今日はみんなに…世紀の恋に立ち会ってもらおうと思います…』


みっちゃんがボリュームを適正なものに戻し、先生がしおらしくなったところで、映像の男の子が神妙な顔をしてツッキーと呼ばれた女の子に向き合う。

ドラムとキーボードの二人は脇に避け、舞台の中央ではギターとベースの女の子が向き合った。


こ…これは…

これはもしや…

公開告白と言う名のサプライズではないのでしょうか!?


「ちょ!先生!アンタ何やってんですか!超青春じゃねえっすか!リア充か!リア充なのか!」

「うるせー!これがリア充ならこんな青春くれてやらぁ!手前の根暗な青春よこせ一人漫才が!」

「ピン芸人と言って!」


「黙らんかい!」

飛んできたみっちゃんの喝に二人は押し黙った。


お口チャックマンで目を向けた画面の中では高校時代の先生がピンスポットの中でマイクを握り締めてツッキーに向き合っている。

私は隣の先生と画面の先生を交互に見遣り、固唾をのんで画面に注視した。




《つづく》


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